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大学・研究所にある論文を検索できる 「アストロサイト-神経相互作用を介したノルアドレナリン神経による疼痛制御」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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アストロサイト-神経相互作用を介したノルアドレナリン神経による疼痛制御

吉原, 康平 YOSHIHARA, Kohei ヨシハラ, コウヘイ 九州大学

2022.03.23

概要

【序論】
 脊髄後角は末梢からの感覚情報が入力するだけでなく,脳からの下行性神経による制御を受けており,感覚情報を処理し統合するうえで最も重要な場の一つである。脳幹の青斑核由来ノルアドレナリン(LC-NA)神経から放出されるNAは,神経細胞に作用し痛覚情報伝達を抑制することが知られており,当研究室では,α1Aアドレナリン受容体を介した抑制性介在神経の活動上昇が侵害性熱刺激に対する鎮痛作用をもたらすことを明らかにした。一方で,脊髄後角にはグリア細胞のアストロサイトも数多く存在する。我々は,脊髄後角の新規アストロサイトサブセット(転写因子Hes5陽性)を同定し,Hes5陽性アストロサイトがα1A受容体を介して下行性LC-NA神経シグナルを受容し,疼痛を促進性に制御することを見出した。よって,下行性LC-NA神経シグナルは脊髄の神経やアストロサイトに作用し疼痛を促進と抑制の両方向に制御すると考えられるが,そのメカニズムは不明である。そこで本研究では,両細胞間における相互作用に着目して,脊髄NAによる軽度機械性痛覚調節メカニズムの解析を行った。さらに,慢性ストレスにより誘発される痛覚過敏におけるNAシグナルの役割を明らかにすることで,アストロサイト-神経相互作用を介した下行性LC-NA神経による疼痛制御の生理学的意義の解明を試みた。

【結果・考察】
● 軽度機械性痛覚調節における脊髄NAの役割
 脊髄にNAを投与した際の疼痛行動試験により,NAが低濃度の場合には軽度機械刺激に対する痛覚過敏を誘発し,一方で高濃度の場合には痛覚過敏の形成を抑制するという二相性の反応を示すことを明らかにした。そこで,NAによる痛覚調節におけるHes5陽性アストロサイトα1A受容体の役割を調べるため,Hes5陽性アストロサイトにおいて同受容体を欠損したマウス(Hes5-CreERT2; Adra1aflox/flox)を作製し,その効果を検討した。その結果,α1A受容体欠損マウスでは低濃度NAによる痛覚過敏が完全に抑制された。よって,低濃度NAはHes5陽性アストロサイトのα1A受容体に作用することで痛覚過敏を誘発することが示唆された。
 続いて,NAによる痛覚調節における抑制性介在神経α1A受容体の役割を調べるため,抑制性介在神経において同受容体を欠損したマウス(Vgat-Cre;Adra1aflox/flox)を作製し,その効果を検討した。その結果,α1A受容体を欠損したマウスでは高濃度NA投与により痛覚過敏が誘発された。よって,低濃度から高濃度NAにかけて認められる痛覚過敏の減弱には,Vgat陽性抑制性介在神経のα1A受容体が関与することが示唆された。

● Hes5陽性アストロサイト由来アデノシンが抑制性介在神経の機能を抑制し痛覚過敏を誘発する
 Hes5陽性アストロサイトと抑制性介在神経は共にα1A受容体を介しNAシグナルを受容するにもかかわらず,痛覚調節に対しては正反対の効果を及ぼす。そのため,低濃度NA投与時には,Hes5陽性アストロサイトが抑制性介在神経の機能を抑制するために痛覚過敏が生じるのではないかと考えた。そこで,アデノシンA1受容体に着目し,アデノ随伴ウイルスベクター(AAV)およびCRISPR-Cas9システムにより抑制性介在神経の同受容体を欠損した際の影響を検討した。その結果,A1受容体を欠損したマウスでは、低濃度NA誘発性痛覚過敏が有意に抑制された。

● β1受容体を介したアストロサイトの応答が痛覚過敏を抑制する
 β受容体はα1A受容体と比べてNAに対する親和性が低く,また脊髄β受容体の薬理学的活性化は,慢性疼痛モデルマウスにおいて痛覚過敏を抑制する。そのため,高濃度NAはβ受容体を活性化することで痛覚過敏の形成を抑制するのではないかと考えた。急性脊髄スライスを用いたcAMPイメージングにより,アストロサイトがNAに応答し,その応答はβ1受容体を介することを明らかにした。そこで,AAV-CRISPR-Cas9システムを用いて脊髄後角アストロサイトのβ1受容体を欠損した際の影響を検討したところ,同受容体欠損マウスでは高濃度NA投与により痛覚過敏が誘発された。よって,高濃度NAはアストロサイトに作用し,痛覚過敏の形成を抑制する可能性が示された。

● 慢性拘束ストレス処置による過敏応答におけるLC-アストロサイトシグナルの役割
 拘束ストレスを慢性的に負荷すると,軽度機械刺激に対する痛覚過敏を生じる。そこで,下行性LC-NA神経の役割を調べるため,AAVを用いて同神経にジフテリア毒素受容体を発現させ,ジフテリア毒素投与することで下行性LC-NA神経選択的な除去を行った際の影響を検討した。その結果,下行性LC-NA神経を除去した場合には,慢性ストレス処置による痛覚過敏の形成が有意に抑制された。また,Hes5陽性アストロサイトのα1A受容体を欠損した場合にも同様に,痛覚過敏の形成が有意に抑制された。

【総括】
 本研究では,脊髄NAが濃度依存的にα1A受容体とβ1受容体を介して痛覚伝達を促進と抑制の両方向にそれぞれ制御するメカニズムを明らかにした。また,それらの制御は主にHes5陽性アストロサイトとVgat陽性抑制性介在神経が中心的な役割を担っており,両細胞間の相互作用および活動バランスが重要である可能性を見出した。さらに,ストレスによって誘発される痛覚過敏においても同様のメカニズムが働くことを明らかにし,その役割の一端を示した。

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