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書き出し

リソソーム内pHを定量可能なレシオ型蛍光プローブの開発

溝口, 舞 東京大学 DOI:10.15083/0002007124

2023.03.24

概要





















溝口



溝口舞は「リソソーム内 pH を定量可能なレシオ型蛍光プローブの開発」と題し、以下の
研究を行った。細胞内の各オルガネラは固有の pH を持つことで様々な生化学反応を制御し
ている。そのため、pH はこうした生化学反応を効率良く進行させるために重要な役割を担
っている。リソソームは直径約 0.1~0.8 µm の一重膜で囲まれた袋状のオルガネラで、様々
な加水分解酵素を含んでおり、エンドサイトーシスによって取り込まれた物質の分解やリ
サイクルが主な役割である。エンドサイトーシス経路では、初期エンドソームからリソソ
ームへと成熟するに伴い内部の pH が酸性化する。これまでリソソーム内 pH のレシオイメ
ージングは、pH に依存した吸収波長の変化を示す緑色蛍光色素フルオレセインを dextran
に標識したプローブが用いられてきたが、フルオレセインは酸性条件下での蛍光強度が小
さいことや光褪色に弱いという問題点があった。一方、近年当研究室にて開発されたレシ
オ型 pH プローブ SiRpH6.1 は、光褪色に強く長時間のレシオイメージングが可能であると
共に、励起・蛍光波長が長いことから GFP や YFP などの緑色や黄色蛍光タンパク質との共
染色が可能であった。しかしながら、レシオ値変化の pKa が 6.1 であり、初期エンドソーム
等の酸性度の低い小胞の pH 測定には適していたが、酸性度の高いリソソームの測定には適
していなかった。本研究において溝口は、リソソーム内の pH 測定に適した pKa を持つレシ
オ型蛍光プローブを開発することで、リソソーム内 pH とその機能の関係を明らかにするこ
とを行った。具体的には以下の 3 つの研究成果を達成した。
(1) リソソーム内 pH の定量に適した pKa を持つ蛍光プローブの開発
まず、当研究室でこれまでに開発された SiRpH6.1 を母核に、リソソーム内 pH の定量に
適したレシオ型蛍光プローブの開発を行った。具体的には、SiRpH6.1 の分子構造にあるピ
ペラジンアミノ基に結合したベンジル基に、スルホ基またはフルオロ基を様々な置換位置
に導入することで、pKa を下げることを行った。合成したプローブ群の光学特性を調べた結
果、pKa = 5.1 を示す pH プローブ, SiRpH5.1F の開発に成功した。開発した蛍光プローブは、
塩基性から酸性への変化に応答して吸収波長が 662 nm から 588 nm と約 80 nm もの短波長
化を示す一方で、蛍光波長は大きな変化は示さず、蛍光量子収率は何れの条件においても
10%以上の高い蛍光輝度を示したことからレシオ蛍光イメージングに適した光学特性であ
った。さらに、導入するフルオロ基を増やすことで、pKa = 4.0 をもつ SiRpH4.0F の開発に
も成功した。さらに、pKa = 5.1 を示す SiRpH5.1F を用いて、プローブを細胞内リソソーム
へと導入することを試みた。具体的には、本プローブをポリエチレングリコール(PEG)リン

カーを挟み、分子量 10 kDa の dextran に標識することで、エンドサイトーシスによって細胞
内リソソームへとプローブを送達させることに成功した。
次に、開発したプローブ群の中から、実際にリソソーム内 pH の定量に適したプローブを
検 討 す る こ と と し た 。 SiRpH6.1-Dex (pKa = 6.1) 、 SiRpH5.5-Dex (pKa = 5.5) 、
SiRpH5.1F-PEG-Dex (pKa = 5.1)及び SiRpH4.0F-PEG-Dex (pKa = 4.0)の 4 つの pKa が異なる蛍
光プローブを用いて、リソソーム内 pH の定量を行った。具体的には、リソソームのマーカ
ー蛋白質の一つである Lamp1(GFP 融合)を安定発現させた MEF 細胞に、各プローブを標識
した dextran を導入し、GFP の蛍光と蛍光プローブの蛍光が一致したリソソームを 10 細胞
から選び出し、pH の定量を行った。その結果、SiRpH5.1F-PEG-Dex が、リソソームの pH
測定に最も適した蛍光プローブであることが分かった。
(2) 薬剤によるリソソーム内の pH 変化のイメージング
開発した pH プローブの dextran 標識体を用いて、Lamp1-GFP 安定発現 MEF 細胞に対し
て V-ATPase 阻害剤である bafilomycin A1 の添加前後におけるリソソーム内 pH の変化につ
いて測定を行った。Bafilomycin A1 は液胞型プロトンポンプを特異的に阻害するため、リソ
ソーム内 pH の上昇が起こると考えられるが、pH 分布がどこまで変化するかは調べられて
いなかった。そこで、SiRpH5.1F-PEG-Dex 及び SiRpH6.1-Dex を用いて bafilomycin A1 の添
加による pH 分布の変化を調べた。その結果、SiRpH5.1F-PEG-Dex では bafilomycin A1 の添
加前のリソソームの pH 分布が観察可能であったが、添加後のリソソーム内 pH は 5.8 以上
の測定範囲外のものが多く、添加後のリソソーム内 pH の分布を測定することができなかっ
た。一方、SiRpH6.1-Dex を用いることで、bafilomycin A1 の添加後の pH 分布を観察可能で
あった。このように、pKa の異なる pH プローブを用いることで、bafilomycin A1 の添加によ
ってリソソーム内の平均 pH が 5.2 から 5.9 に中性化することを明らかにした。
(3) リソソームマーカー蛋白質の評価
これまで本研究において、Lamp1-GFP 蛍光を指標にリソソーム内の pH 測定を行ってきた。
しかしながら、Lamp1-GFP を過剰発現させた場合、必ずしもリソソームの局在と一致しな
いとの報告があり、リソソームマーカー蛋白質の過剰発現がリソソーム内 pH 及び機能に影
響を与える可能性が考えられた。そこで、他のリソソームマーカー蛋白質として Rab7 と
Tmem192 を選択し、Rab7-GFP と Tmem192-GFP の安定発現 MEF 細胞を用いて、リソソー
ム内の pH 分布の測定を行った。SiRpH5.1-PEG-Dex を生細胞へと添加し、ランダムに一細
胞当たりリソソームを 10 個ずつピックアップし、その pH 分布を測定した。その結果、
Lamp1-EGFP の局在するリソソームの pH 分布において 5.7 以上の pH の高いリソソームが
多数観察された一方、Rab7 及び Tmem192 では、pH4.0~5.7 にほぼ全てのリソソームが分布
しており、Lamp1-GFP を用いた際に観察された 5.7 以上の pH の高いリソソームは殆ど観察
されなかった。したがって、汎用される Lamp 1-EGFP の過剰発現により、リソソーム内 pH
が中性化され、それら機能に影響を与えていることが考えられた。このように、pH を指標
としてマーカー蛋白質のリソソーム機能への影響を評価することに成功した。

以上、本研究において溝口は、SiRpH6.1 のベンジル基上にフルオロ基を導入することで、
酸 性 度 の 高 い リ ソ ソ ー ム に お い て pH を 定 量 可 能 な レ シ オ 型 蛍 光 プ ロ ー ブ ,
SiRpH5.1F-PEG-Dex の開発に成功した。また、開発した pH プローブを用いることで、リソ
ソーム内 pH の定量や阻害剤の添加によるリソソーム内 pH の変化、及びマーカー蛋白質の
過剰発現によるリソソーム内 pH への影響を可視化することに成功した。これまでにリソソ
ーム内 pH の測定に最適化されたレシオ型 pH 蛍光プローブは殆どなく、今後はオートファ
ジーやリソソームの機能不全を示すリソソーム病等の疾患において、リソソーム内 pH とそ
れら機能との関係について明らかにすることが期待される。
以上の業績は、薬学分野におけるバイオイメージングの進歩に顕著に寄与するものであ
り、博士(薬科学)の授与にふさわしいものと判断した。

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