パパインを用いた喘息・COPDオーバーラップマウスモデルの構築
概要
[課程-2]
審査の結果の要旨
氏名 福田 健介
本研究はパパイヤに含まれる植物由来のシステインプロテアーゼであるパパインに着目
し、マウスへのパパインの経気管的反復投与によって喘息・COPD オーバーラップ(ACO)
動物モデルの確立を目的とした。ACO の臨床的特徴との比較、ポリイノシン酸-ポリシチ
ジル酸[poly(I:C)]を用いた急性増悪モデルの検討、新規バイオマーカー候補である好中球
ゼラチナーゼ結合性リポカリン(NGAL)に関する検討も行い、以下の結果を得ている。
1.既に確立されているブタ膵臓エラスターゼ(PPE)を用いた COPD モデルと同様に、
パパインの反復投与により肺気腫の形成、肺吸気量の増加、動的肺コンプライアン
スの増大が認められた。
2.パパイン投与群では、好酸球性気道炎症および気道過敏性の亢進を認め、気管支喘
息に相当する特徴を認めた。1.2.から、パパインの反復投与により ACO の特徴を
有するマウスモデルが誘導されると示された。
3.ACO モデルの気管支肺胞洗浄液(BALF)を用いた定量的サイトカインアレイでは、マ
クロファージや好中球に関連したサイトカインに加えて、2 型サイトカインの増加も
認められ、これらは臨床的 ACO に合致する所見であった。
4.パパイン最終投与から 5 週間を経ても好酸球性気道炎症および肺気腫は残存し、本
ACO モデルは慢性的な病変を有すると示された。また、非特異的 IgE 抗体およびパ
パイン特異的 IgE 抗体も長期残存し、気道炎症には獲得免疫の関与が示唆された。
5.Poly(I:C)を用いた急性増悪モデルでは、PPE による COPD モデルとパパインによる
ACO モデルで、好中球を主体とした同様の気道炎症が惹起される一方、ACO モデル
における好酸球性気道炎症は急性増悪下においても残存した。
6.NGAL は ACO モデルの BALF 中で増加し、臨床報告に一致した所見であった。ま
た、急性増悪時は血清、BALF 両方で NGAL の増加を認め、ACO モデルでは気道上
皮が、急性増悪モデルでは好中球が NGAL を主に産生していると示唆された。
以上、本研究で示された ACO マウスモデルは肺気腫の形成、遷延する気管支喘息の特
徴、気道中 NGAL の上昇など臨床的 ACO 患者の特徴をよく反映していた。単剤で ACO
のマウスモデルを比較的簡便に作成できるこのモデルは、ACO の病態解明や治療標的の探
索に今後役立つものと期待される。
よって本論文は博士( 医学 )の学位請求論文として合格と認められる。