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腎尿細管における新規腎症増悪因子の解析

高橋 悠記 北里大学

2021.07.20

概要

慢性腎臓病 ( chronic kidney disease : C K D ) とは、腎臓の障害 ( 蛋白 尿 な ど )、 も し く は 糸 球 体 濾 過 量 が 6 0 m L / 分 / 1 . 7 3 m 2 未 満 の 腎 機 能 低下が 3 カ月以上持続する状態を示す 。C K D の初期は自覚症状がなく、 病態は不可逆的に進行し、徐々に怠惰感、貧血、浮腫などの症状が 現 れ る 。 病 態 が 進 行 す る と 最 終 的 に 末 期 腎 不 全 ( End Stage Renal Disease : E S R D )に至り、腎移植 ま たは恒久的な透 析 療法が必要と なる。 E S R D 患 者 数 は 高 齢 化 社 会 を 背 景 に 年 々 増 加 し て お り 、 さ ら に C K D は 糖 尿 病 、高 血 圧 、心 疾 患 と い っ た 重 要 疾 患 と 密 接 に 関 連 し て いるため 、健康課題・医療費面からも解決を迫られる重要な疾患 で あ る が 、未 だ 根 治 的 な 治 療 法 は 確 立 さ れ て い な い 。C K D は経過初 期には原疾患特異的な病態を呈するが、多くの場合 、糸球体障害に 続く蛋白尿症、尿細管障害、腎間質線維化は共通の病態として経過 する 。腎間質線維化は C K D に お け る 腎 機 能 不 全 お よ び 機 能 的 予 後 と 強 く 相 関 し て お り 、 E S R D に 至 る 決 定 的 な 病 態 変 化 で あ る 。 し た が っ て 、 腎 間 質 線 維 化 の 治 療 が 実 現 す れ ば 、 原 疾 患 を 問 わ な い C K Dの治療法および E S R D の 予 防 法 に な る と 考 え ら れ る 。 腎 臓 病 は 多 因子性疾患であり、その悪性化には腎症に寄与する様々な修飾遺伝子 の存在が示唆されている 。本研究では C K D の 進 行 抑 制 に 関 わ る 新 規治療標的遺伝子を探索する目的で 、腎 症感受性である F V B / N J ( F V B )マウスと腎症抵抗性である C 5 7 B L / 6 ( B 6 ) マウスを用いた遺伝学的解 析を行い、候補遺伝子に挙がった Mitotic interactor and substrte of Plk1 ( Misp ) に つ い て 遺 伝 子 改 変 マ ウ ス を 用 い て 機 能 的 解 析 を 行 っ た 。

第 1 章 腎 症 修 飾 遺 伝 子 を 探 索 す る た め 、腎 症 抵 抗 性 で あ る B6 を遺伝背景に持つマウスと 、腎症感受性 である F V B を 遺 伝 背 景 に 持 つマウスを用いて連鎖解析を行った 。使 用した系統は Tns 2 nph 変異を有しており、 F V B 背 景 で は 原 発 性 糸 球 体 硬 化 症 に 起 因 す る C K D を自 然 発 症 す る 。 連 鎖 解 析 の 結 果 、 10 番染色体 ( 4 0 . 6 6 c M ) に尿中アルブ ミン量と強く相関する遺伝子座が検出された。同遺伝子座の候補遺 伝子を絞り込むため 、両系統の腎糸球体を用いて RN A シーケンス解 析を行い、両系統間で発現量に差が見られた腎症感受性候補遺伝子 を抽出した。遺伝子発現データベースを用い解析を行ったところ、 ヒト 膜性 腎症患者の腎組織および糖尿病性腎症マウスの糸球体にお いて 、M i sp 遺 伝 子 の 発現量と尿中アルブミン量に強い相関があるこ とを見出した 。し か し M IS P と 腎 症 と の 関 連 に つ い て の 報 告 は な い 。そこで 、 第 2 章 では 腎組織内における M IS P の 発 現 と 腎 症 の 病 態 との相関 性 について検証を行った。

第 2 章 腎 障 害 に お け る M IS P の 発 現 動 態 を 明 ら か に す る た め 、アド リ ア マ イ シ ン ( A D R ) 誘 発 性 糸 球 体 障 害 モ デ ル 、 糸 球 体 障 害 自 然発症モデル ( Tns 2 n p h 変異マウス ) 、抗 ネ フ リ ン 抗 体 投 与 糸 球 体 障 害 モデル、および虚血 再灌流誘発性腎障 害モデルを作製し た。抗 M IS P抗体を用いて免疫組織化学染色を行ったところ、各腎症モデルマウ スにおいて腎皮質側の尿細管上皮細胞において M IS P の発現が亢進 していた。この結 果から、 M IS P の 発 現 は 、 原 疾 患 を 問 わ ず 様 々 な腎症で尿細管上皮細胞において亢進しており、その発現上昇は尿中 アルブミン量と正の相関を示していた。

第 3 章 第 2 章 の 結 果 よ り 、様 々 な 腎 症 で M IS P の 発 現 が 亢 進 す ることが明らかとな ったため、 本 章 で は 、 M IS P が 腎 障 害 の 悪 性 化 に寄与しているか否かを確かめるため、 M i s p KO マ ウ ス を 作 製 し 、 本マウスに腎障害モデルを適用して腎障害を評価した。 M i s p KO マウ スは F V B / N J の受精卵を用いて C R I S P R / C a s 9 シ ス テ ム に よ り 作 製 した。なお、 M i s p KO マウスは行動、繁殖等の表現型の異常は見られ な か っ た 。ま ず 、重 篤 な 糸 球 体 硬 化 症 自 然 発 症 モ デ ル で あ る Tns 2 nph 変異 マウスに M i s p KO マウスを交配し M i s p K O : Tns 2 nph 複合体変異 マウス ( D o u b l e ) を作製し 、T n s 2 nph 変異 マウスとの 腎障害の重篤度を 比較した。 8 週 齢 時 の 尿 中 ア ル ブ ミ ン 量 を 比 較 し た と こ ろ 、 D o u b l e群の尿中アルブミン量は Tns 2 nph 群 と 比 較 し 有 意 に 低 下 し て い た 。さらに生存率を比較したところ Tns 2 nph 群は 16 週 齢 ま で 達 し た 個 体 はいなかったが、 D o u b l e 群の生存率は Tns 2 nph 群 と 比 較 し 有 意 に 上 昇し 、平 均 寿 命 は Tns 2 nph 群の約 3 倍 に 延 長 し た 。腎 組 織 を 採 取 し PA S染色およびシリウスレッド染色を用いて組織学的解析を行ったとこ ろ 、D o u b l e 群 は 尿 細 管 上 皮 細 胞 障 害 の 指 標 である菲薄化および腎間 質線維化が Tns 2 nph 群と比較して有意に抑制されていた 。この結果か ら、 M I S P の 発 現 を 抑 制 す る こ と に よ り 、 C K D の 進 行 を 遅 ら せ る ことができることが示唆された。次に軽度な糸球体障害を誘発する抗 ネフリン抗体投与を行い 、M IS P の 発 現 抑 制 に よ る 効 果 を 評 価 し た 。抗ネフリン抗体投与により、野生型マウス ( W T ) 群 お よ び KO 群と もに投与後 12 週 ま で 軽 度 の ア ル ブ ミ ン 尿 が 確 認 さ れ た が 、排 出 量 に差は見られなかった。また、組織学的解析を行ったところ、糸球体 障 害 お よ び 線 維 化 に 顕 著 な 差 は 見 ら れ な か っ た 。 一 方 で、 KO 群で は尿細管のダメージの指標である菲薄化が有意に抑制されていた。 このことから、本モデルにおいても M I S P の 非 存 在 下 で は 尿 細 管 障害が抑制されることが明らかとなった。次に虚血再灌流誘発性腎障 害モデルを用いて 、 M I S P の 発 現 抑 制 に よ る 効 果 を 評 価 し た 。 腎 臓に虚血再灌流障害を誘導 14 日 後 、線 維 化 領 域 を 比 較 し た と こ ろ 、腎皮質部における線維化領域は KO 群では WT 群 と 比 較 し て 有 意 な 減少が見られた。このことから M IS P の発現を抑制することにより、 腎 間質 線維化の進行を遅らせることができることが判明した。以上 より M IS P は 腎 症 に お け る 尿 細 管 障 害 の 悪 性 化 に 寄 与 し 、M IS P の発 現を抑制することにより 、腎線維化を抑制し 、ひいては C K D の進行 を遅らせることが可能であることが示された。

第 4 章 ヒ ト の 腎 障 害 に お け る M IS P の発現動態を検証するため、 原疾患の異なる CKD 、 す な わ ち 、 I g A 腎 症 、 巣 状 分 節 性 糸 球 体 硬 化 症 ( Focal Segmental Glomerulosclerosis : F S G S ) 、 お よ び 尿 細 管 間 質性腎炎 ( Tubulointerstitialnephritis : T I N ) の患者の腎組織を用いて免 疫組織化学染色 を 行 っ た 。健 常 者 群 と 比 較 し 、I g A 腎 症 患 者 群 、F S G S患者群、 T IN 患 者 群 で は 腎 間 質 線 維 化 領 域 の 増 加 し て お り 、 さ ら に尿細管上皮細胞において M IS P の 発 現 が 亢 進 し て い た 。 以 上 よ り 、ヒトの腎症におい ても、様々な腎症 で腎尿細管細胞に おける M IS Pの発現亢進していることが示された。

本研究により同定された新規腎症関連分子 M IS P は ヒ ト お よ び マウスの尿細管上皮細胞において、原疾患を問わず様々な腎障害で発 現が上昇すること が明らかとなった 。また、 M IS P を 遺 伝 的 に 欠 損させると、腎障害において尿細管の障害および腎間質線維化 が有意 に低下し、腎障害の進行が抑制された。以上より M IS P は腎症のバ イオマーカーであると共に、腎症の悪性化に寄与していることが明 らかとなった。今 後、 M IS P が 関 与 す る シ グ ナ ル 経 路 を 解 明 す る こと に よ り 、 C K D の 共 通 病 態 で あ る 腎 間 質 線 維 化 の 機 序 の 解 明 、 予防・新規治療薬の開発、新規バイオマーカーの開発に役立つことが 期待される。

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