計算化学的手法による有機物・無機物の熱物性・輸送特性予測
概要
令和4年度
京都大学化学研究所 スーパーコンピュータシステム 利用報告書
計算化学的手法による有機物・無機物の熱物性・輸送特性予測
Investigation of thermal and transport properties of organic and inorganic compounds
京都大学 大学院工学研究科 機械理工学専攻 熱物理工学分野 松本充弘
研究成果概要
本研究は,さまざまな機能性ナノ物質の機能発現機構の解明を目的として,量子力学計算
や分子動力学法などの計算化学的手法によるアプローチをおこなうものである.本年度は,主
として次の 2 つのテーマについて,本スーパーコ
ンピュータシステムを利用した大規模分子シミュレ
ーションによる研究を行った.
1.セルロース分子の親溶媒性評価:両親媒性を
持つと言われるナノセルロース結晶を対象として,
水/油界面における吸着自由エネルギーを評価
した.主として古典分子動力学計算ソフトウェア
LAMMPS により,界面近傍でのナノセルロース分
子にはたらく力とトルクの長時間平均から図 1 のよ
図 1:水/油界面におけるセルロース分子の
界面吸着自由エネルギーの例:界面からの位
置 𝑥 と回転角 𝜃𝑧 に対する 2 次元マップ.
うな自由エネルギー曲面を得た.既に報告されている吸着状態に加えて,2~3 個の水分子を
はさんで水相側から吸着する新たな吸着形態を見つけた.こうした結果は,官能基修飾等に
よるナノセルロースの乳化作用向上などの分子設計に寄与することが期待される.この成果は
学術論文として公表した[1].
2.酸化チタン成膜過程の量子計算:シリコン型太陽電池の passivation 層として注目されてい
る 酸 化 チ タ ン 薄 膜 に つ い て , シ リ コ ン 結 晶 表 面 へ の 酸 化 チ タ ン 前 駆 体 ( titanium
tetraisopropoxide, TTIP)分子の衝突・解離過程を調べ
た.主として DFTB+パッケージによる量子計算により,
TTIP 分子が結晶表面に衝突する際の反応や自由エネ
ルギー地形を詳細に解析しつつある.成果の一部は国
際会議で発表した[2]ほか,学術論文を準備中である.
図 2:Si 基板と TTIP 分子の反応例.
発表論文(謝辞あり)
[1] K. Ito and M. Matsumoto, “Adsorption free energy of cellulose nanocrystal on water-oil
interface,” Nanomaterials, 12, 1321 (2022), DOI: 10.3390/nano12081321
発表論文(謝辞なし)
[2] K. Sotoyama and M. Matsumoto, “TiO2 layer fabrication on c-Si surface: Quantum
simulation,” Int. Conf. ...