13族元素含有有機金属錯体の特異な光学特性の機構解明
概要
令和4年度
京都大学化学研究所 スーパーコンピュータシステム 利用報告書
13 族元素含有有機金属錯体の特異な光学特性の機構解明
Investigation of optical properties of organometallic complexes containing group 13 elements
京都大学 大学院地球環境学堂 地球親和技術学廊
伊藤 峻一郎
研究成果概要
本研究では、京都大学化学研究所スーパーコンピュータシステムを利用し、13 族元素を含
有する金属錯体の光学特性について、量子化学計算を用いた解析を行ってきた。当研究室
ではこれまでに、13 族元素であるホウ素やアルミニウム、ガリウムなどを中心元素とする種々の
錯体を合成し、それらの吸収・発光特性に関する評価を行ってきた。特に、ホウ素錯体を含有
する共役系高分子のフィルム状態における発光色が、溶媒蒸気アニーリングによって変化す
るという特徴的な現象を見出した。また、この現象が発現するかどうかが、高分子ユニットの連
結方法の規則性、すなわちレジオレギュラリティーの違いに依存することがわかった。今回、こ
の原因を調査するため、Gaussian 16 を用い、密度汎関数理論(DFT)計算並びに時間依存
DFT 計算を行って化合物の電子状態を評価した。
対象とする分子は Fig. 1 に示した高分子
であり、計算のためのモデルとして、3つの
繰り返しユニットからなる低分子に対して
DFT 計算を実施した。計算には、汎函数
および基底関数として B3LYP/6-31G(d,p)
を採用した。得られた最適化構造は、振動
計算によって対応するポテンシャルエネル
ギー曲面上の極小構造であることを確かめ
た。最適化構造に対して時間依存 DFT 計
算を行うことで、吸収・発光挙動の違いを
考察した。結果として、レジオシンメトリック
Fig. 1 Chemical structures of conjugated polymers
な構造(Fig. 1 下)に特徴的な head-to-
containing a boron diiminate complex. Top,
head–tail-to-tail という三連子構造が存在
regioregular;
すると、安定な励起状態が形成され、刺激
regiosymmetric.
middle,
regiorandom;
bottom,
応答性が失われることが示唆された。この
構造を持たないレジオレギュラーな高分子(Fig. 1 上)では鋭敏な応答性が得られたと結論づ
けた 1。
発表論文(謝辞あり)
1. Ito, S.; Fukuyama, M.; Tanaka, K.; Chujo, Y. Macromol. Chem. Phys. 2022, 223 (9),
2100504, DOI: 10.1002/macp.202100504. ...