多能性細孔物質の深化

概要

令和 ４年度

京都大学化学研究所 スーパーコンピュータシステム 利用報告書
多能性細孔物質の深化
Development of multifunctional porous materials

京都大学 高等研究院 物質－細胞統合システム拠点 北川グループ

大竹研一

研究成果概要
多孔性物質は古代エジプトの時代（例：活性炭）から現代まで（例：ゼオライトなど）に至る長
きにわたって人類の生活に欠かせないものとして利用されてきた。もし、活性炭やゼオライトが
担ってきた貯蔵、分離、変換などの機能について、それらを凌駕する、もしくは全く新しい機能
を有する多孔性物質が創製されれば、人類の生活に革新的な変化をもたらす事が期待される。
そのためには、微少空間を持つ物質の合成、構造、性質についての新しいサイエンスの開拓
が必要である。我々は、有機配位子と金属イオンが自己組織化プロセスによって組み上がる
結晶性の多孔体である、多孔性配位高分子(Porous Coordination Polymer：PCP)を基盤として、
多様な機能空間のデザインを試み、新現象・新機能の探索を行ってきた。PCP はその骨格構
造に均一な細孔(直径数 Å〜数 nm)を有し、そこへ様々な気体分子を吸着させ取り込むことが
できる。さらに、一部の PCP は、ガス吸着に伴い結晶格子が変形する“フレキシブル”な挙動を
見せる。この結晶格子の変形はガス種選択的に起こり、通常、ある一定のガス圧力以上になる
と急激に格子が変形(開孔)し吸着が起こる。この現象は「ゲート型吸着」と呼ばれている。
世界中で既に多様な PCP が開発され、多様なガス特異的ゲート吸着が報告されているが、
そのメカニズムはそれぞれ異なっている。種々のゲート型吸着メカニズムを理解するためには、
格子変形に伴うエネルギー（格子変形エネルギー）と、ガス吸着による安定化エネルギー（吸
着エネルギー）との両者を考慮する必要がある。本研究では、京都大学化学研究所スーパー
コンピュータシステムを利用し、PCP の結晶構造を基にしてガス分子の吸着サイトを予測し、ゲ
ート開閉前後のエネルギー変化とガス吸着エネルギーの計算を行っている。
ゲート型吸着を示す PCP について、Material Studio の DMol3 パッケージを用いた密度汎関
数法(LDA, VWN)による構造最適化、続い て Adsorption Locator パッ ケージを 用い た
Simulated-Annealing 法によるガス吸着サイトのモンテカルロ探索を行った。PCP の細孔中の
Van der Waals 相互作用は、Lennard-Jones (LJ) potential を用いて計算を用いた。
得られたガス吸着状態の構造を基に、一点計算(GGA, PBE)によりエネルギーを求め、PCP の
格子変形エネルギーと吸着エネルギーの関係を明らかにすることで、ゲート型吸着の起源に
ついて解明した。こうした知見は、PCP への選択的吸脱着を利用した将来のガス分離・貯蔵技
術開発のための有用な知見となる。

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発表論文（謝辞なし）
Ziqian Xue, Jia-Jia Zheng, Yusuke Nishiyama, Ming-Shui Yao, Yoshitaka Aoyama, Zeyu Fan,
Ping Wang, Takashi Kajiwara, Yoshiki Kubota, Satoshi Horike, Ken-ichi Otake,* Susumu
Kitagawa
”Fine Pore-Structure Engineering by Ligand Conformational Control of Naphthalene
Diimide-Based Semiconducting Porous Coordination Polymers for Efficient Chemiresistive Gas
Sensing "

Angew. Chem. Int. Ed. ...