文化遺産の保護における地域遺産制度の役割
概要
本論文の構成は以下の通りである(図 1―2)。
1章は序論とし、研究背景、研究目的、本研究の位置付け、論文の構成と研究方法を述べるとともに、対象となる地域遺産制度を抽出した。
対象抽出の結果、本研究では8件の地域遺産制度を扱うことした。
2章は、地域遺産制度に取組む自治体の特徴とし、対象となった8件の地域遺産制度を導入するに至った自治体が、その背景としてどのような特徴を有しているのかを明らかにした。そのため、統計資料や各自治体の法令、計画書や報告書等から、各自治体の文化財保護に関する取組の特徴ならびに規模に関する特徴を把握した。
3章は、8件の地域遺産制度について比較することで、地域遺産制度として共通する特徴とそれぞれ独自の特徴を明らかにした。具体的には各自治体が発行している報告書や計画書といった文献資料と、地域遺産制度の運営担当部局に行なったアンケート調査から得られた情報を基に、地域遺産制度の運営に関する項目と地域遺産制度の内容に関する項目を設け整理・比較分析した。
4章は、3章で明らかにした地域遺産制度の特徴をふまえて、地域遺産制度が具体的にどのような成果を出しているのかを明らかにした。成果としては、地域遺産の認定に関する実績と住民参加に関する実績を、報告書や行政資料から情報を収集し、整理・比較分析した。
5章では、3章および4章の結果から地域社会独自の価値観を制度に取り入 れ、保護の実現性を高める制度設計となっており、また、地域遺産の認定や住 民参加において一定の成果が得られたと判断された地域遺産制度を対象として、地域遺産制度の具体的な運営状況について明らかにした。行政資料や報告書に 加え、地域遺産の保護に関わる住民(住民団体の代表者)へのヒアリングを行 なうことで情報を収集し、該当した地域遺産制度で認定された地域遺産の特徴と、その地域遺産を推薦し保護にあたっている住民団体の特徴ならびに具体的な活動内容について把握した。
6章では、まとめてしてこれまで明らかにした内容を整理した上で、文化遺産の保護における地域遺産制度の役割を考察し、地域遺産制度の課題をふまえて今後の文化遺産保護への提言をおこなった。
なお、本研究では、特記しない限り、地域遺産等の情報については 2016(平成 28)年度(2017 年 3 月末日)までの情報を扱った。