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書き出し

強く光照射した後に現れる電荷振動の同期現象

島田 利哉 中央大学

2022.07.06

概要

研究背景
二量化構造をもつ有機導体𝜅-(BEDT-TTF)2Xに極めて強い光パルスを照射した後に、非線形電荷振動による誘導放出が起きることが知られている[1]。この有機導体の二量体内および二量体間の分子間(ボンド上)での電荷移動は、トランスファー積分や電場となす角がボンドによって異なるため、弱い光電場を印加した後は、ボンドに依存して異なるタイミングで起きている。極めて強い光電場を印加した後には、これらの線形電荷振動は抑制され、新たに高い振動数をもつ、電子のブリージング振動が引き起こされる。これは電子間のクーロン相互作用による協同効果であると、厳密対角化に基づいた多電子状態の時間発展計算により示された[2]。また、ハニカム格子に2つの円偏光を重ね合わせた強いパルス光を照射すると、相互作用により同期転移が起きること が、平均場近似を用いた電子状態の時間発展計算により主張された[3]。しかしながら、電荷振動が同期する現象に対する電子相関の効果はよく分かっていない。

研究方法
本研究では、[4]で用いられた二量体格子上の拡張ハバードモデルに厳密対角化を用い、時間依存シュレディ ンガー方程式を数値的に解くことにより、光誘起電荷ダイナミクスを計算した。その際、電荷振動の同期を抑制する効果として、トランスファー積分に乱数を導入して、電子相関と乱雑さが競合する様子を調べた。各ボンド上の電流密度の時間プロファイルに対して、極大値で𝜋/2、極小値で3𝜋/2、その中点で0または𝜋となるような位相を割り当て、すべてのボンド上の位相を使って電荷振動の同期の程度を表す同期秩序パラメタを定義した。相互作用の種類や大きさ、電場強度、および系に導入した乱雑さによって同期秩序パラメタがどう変化するかを調べた[5]。

研究結果
すべてのボンド𝑚の位相𝜙𝑚(𝑡)の時間プロファイルの一例を、𝑈 = 0と𝑈 = 0.3のそれぞれの場合で、図2(a)と図 2(b)に示す。𝑉 = 0, 𝜖 = 0.3として共通の乱数分布を用いた。光電場強度は𝐹 = 0.6である。光照射中は影で 示している。相互作用のない場合[図 2(a)]は、位相の大部分が似たような値をとる短い時間領域があるが、一般に異なるボンドでの電荷振動は、異なる周期と位相で振動する。したがって、それらの振る舞いは複雑であり、乱数分布に依存する。しかしながら、十分に強いオンサイト斥力があれば[図 2(b)]、電流密度は同期し、結果として電荷振動は同期する。図 2(c)は図 2(a)と図 2(b)に示されている位相から計算した同期秩序パラメタの時間プロファイルである。同期秩序パラメタ𝑟が、オンサイト斥力𝑈によって最大値1 に近づいている。

図 3(a)は同期秩序パラメタの時間平均を光電場強度𝐹とオンサイト斥力𝑈の関数として示している。𝑉 = 0, 𝜖 = 0.3とした。光電場強度𝐹が小さい場合は、多数の線形励起が現れて、それぞれが異なる振動数で電荷振動するため、同期秩序パラメタは小さくなる。光電場強度𝐹が大きくなると、𝑈が正のとき、線形励起が抑制さ れ、電子ブリージング・モードが優勢になる。その結果、同期秩序パラメタ𝑟は大きくなり、最大値 1 に近づ く。ただし、相互作用がない場合には、ディフェージングや熱化が起きないので、たとえ光電場強度𝐹が大きくても、すべての電荷振動が減衰しないため、同期秩序パラメタ𝑟は大きくならない。

オンサイト斥力𝑈の効果と、乱雑さ𝜖の効果の競合を見るために、同期秩序パラメタの時間平均を図 4(a)にプロットした。𝐹 = 0.6, 𝑉 = 0とした。𝑈が小さくて、𝜖が大きいときは、乱れの効果が強く出て、秩序パラメタは小さくなる。しかし、オンサイト斥力𝑈が十分に大きければ、たとえ𝜖が大きくても、秩序パラメタは最大値 1 にほぼ近い値をとる。図4(a)の等高線を図 4(b)として示す。

最近接クーロン相互作用𝑉について、𝑉の絶対値が大きいとディフェージングが強くなり、電荷振動の減衰が速くなるので、これが小さいときを考える。𝑉が斥力的なとき過渡的な電荷不均化が増大し、電荷振動の振幅が小さくなった。しかし𝑉が引力的なときは電荷振動の振幅が大きくなり、図 5 に示すように同期秩序パラメタも増大した。図5 の挿入図は同期秩序パラメタの時間平均を示している。𝑉が引力的なとき、図6 に示すように𝑑波ペアの相関関数が増大する。超伝導揺らぎは電荷移動の相関を増大するとともに電荷振動の同期を増強し、(現実の物質では𝑉 > 0だが)実験結果[1]と整合する。

結論
単純な二量体格子で、3/4-フィルドの拡張ハバード模型を用いて、電荷振動の同期に対するオンサイトクーロン相互作用𝑈と最近接クーロン相互作用𝑉の効果と、トランスファー積分により導入した乱雑さ𝜖の効果の競合を理論的に調べた。同期秩序パラメタの定義では、電流密度のみを用い、それらの時間プロファイルから位相𝜙を計算し、すべてのボンドにおいて𝑒𝑖𝜙を平均した。乱雑さにより、すべての異なるボンド上で、電流密度は異なる振動数と位相で振動するため、同期秩序パラメタは小さくなる。

光電場強度𝐹が大きいとき、オンサイト斥力𝑈は電荷振動の同期を増強し、秩序パラメタを増大させる。十分に強い相互作用𝑈は、乱雑さの効果に打ち勝つ。したがって、秩序パラメタはほとんど最大値に近づく。𝑈をより大きくすると、ディフェージングによって電荷振動の減衰が速くなる。そのため、電荷振動の同期を観測することが難しくなる。最近接クーロン相互作用𝑉について、𝑉を引力的にすると、電荷不均化を抑え、電流を流しやすくすることで、同期秩序パラメタを増大させる。それと同時に𝑑波の超伝導相関も強まることが分かった。実験では、超伝導転移温度にむけて温度を下げると、誘導放出が強まることが観測されている[1]。この事実か ら考えると、誘導放出は電子ブリージング・モードによって引き起こされる。しかしながら、𝑉は現実の物質では斥力であり、厳密対角化により扱うことができる小さい系において、𝑉を斥力にすると同期秩序パラメタを減少させる。その結果は先行研究と整合している[2]。超伝導揺らぎの効果は、本研究の範囲を超えているため、今後の研究課題である。

この論文で使われている画像

参考文献

[1] Y. Kawakami et al., Nat. Photonics 12, 474 (2018).

[2] K. Yonemitsu, J. Phys. Soc. Jpn. 87, 044708 (2018).

[3] T. Nag et al., Phys. Rev. B 100, 134301 (2019).

[4] K. Yonemitsu, J. Phys. Soc. Jpn. 87, 124703 (2018).

[5] T. Shimada and K. Yonemitsu, J. Phys. Soc. Jpn. 89, 084701 (2020).

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