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一次元電荷密度波状態における二量体化歪とスピンパイエルスドメインによる非断熱量子揺らぎ

渡邉 侑子 山形大学

2020.03.31

概要

物質の性質を微視的な視点から理解するためには, 量子力学を用いて多数の電子や原子,分子の振る舞いを記述する必要がある. これは量子多体問題と呼ばれ, 理論・実験の双方から研究が続けられている. 近年, 電子間相互作用と電子-格子相互作用の両方が重要な物質として, 有機電荷移動錯体が注目を集めている. 有機電荷移動錯体は, ドナー分子 (D 分子) とアクセプター分子(A 分子)から構成される分子性物質であり, 電子間相互作用と電子-格子相互作用の協力や競合によって多彩な電子-格子相を持つほか, 相互作用を媒介とした光誘起協力現象や超高速な電子状態の変化を示すことが報告されている. このような量子多体系を理論的に研究する上で, 解析的な計算だけでは限界があり, 計算科学的アプローチが有効となる. 強相関電子系を扱う代表的な計算手法としては, 厳密対角化法や密度行列繰り込み群法, 量子モンテカルロ法や変分モンテカルロ法などが挙げられる. しかし, これらの計算手法には, 大きな系の計算ができない, 一次元にしか適用できない, 負符号問題などが存在することに加え, 取り込まれた量子多体効果の背景にある物理が見えにくいという欠点がある.

本研究では, 電子相関と非断熱電子-格子相互作用を精度よく計算でき, 尚且つ, 量子揺らぎを可視化することができる非断熱共鳴ハートリー・フォック(resonating Hartree- Fock, ResHF)法 [1, 2] を用いて, 有機電荷移動錯体テトラチアフルバレン-クロラニル (TTF-CA) の電荷密度波相(中性相)の基底状態を解析した. 非断熱 ResHF 法では, 多体の波動関数を, 電子状態を表すスレーター行列式とフォノンのコヒーレント状態の直積を重ね合わせることで近似する. 従来の配置間相互作用法と異なり, 各スレーター行列式に独立な分子軌道を与えることに加え, 格子のコヒーレント状態も配置ごとに異なるものを用いるため, 少ない配置数で電子間相互作用と非断熱的電子格子相互作用を効率よく取り込むことができる. TTF-CA は, D 分子から A 分子への電荷移動量が Tc = 81K で大きく変わる中性-イオン性相転移を示すことが知られている. 中性相は電荷密度波状態であるが, テラヘルツ電場を照射すると, サブピコ秒の時間スケールで高速に電気分極が生成されることが報告されている. 更に, テラヘルツ電場による反射率変化の時間発展は,テラヘルツ電場によって誘起された分子間の電荷移動量の変化と, イオン性相ドメインの伸縮運動で説明できることが指摘されている. イオン性相と中性相は電子状態と格子構造の両方が異なるため, このようなドメインの高速ダイナミクスについては未解決な問題が残っている. 本研究では, 中性相の基底状態における量子揺らぎの特徴を明らかにすることで, テラヘルツ電場応答におけるイオン性相ドメインの高速ダイナミクスについても考察する. モデルハミルトニアンとしては, D 分子と A 分子の違いを表す交替ポテンシャル [3, 4, 5, 6, 7, 8, 9] と, 中性相とイオン性相の格子構造の違いを記述する SSH 型電子-格子相互作用 [10, 11, 12, 13] を含む1次元拡張ハバードモデルを採用した.

非断熱 ResHF 波動関数を解析した結果, 電荷密度波相の基底状態では, 格子が結合交代したスピン密度波であるスピンパイエルス状態のドメイン(スピンパイエルスドメイン)が量子揺らぎとして現れることが明らかになった. また, 電荷密度波状態でありながら格子が結合交代したドメイン(二量体化歪ドメイン)も量子揺らぎとして存在することがわかった. 有限サイズスケーリングの結果, 無限系に外挿しても無限に広いスピンパイエルスドメインは現れないが, 有限幅のドメインを含む基底を対称操作させた無限個の状態が重ね合わさり, 電子相関や非断熱電子-格子相互作用が取り込まれることが示唆された.

本研究では, 非断熱 ResHF 解に現れた 2 種類のドメインの特徴と関係性を明らかにするため, L¨owdin-Feshbach 分割法 [14, 15, 16, 17, 18, 19] に基づく非直交 CI 解析も行った. これは, スピンパイエルスドメインを持つ空間と, 歪んだ電荷密度波ドメインを持つ空間を分割し, 歪んだ電荷密度波ドメインがスピンパイエルスドメインに及ぼす影響を明らかにするものである. 解析の結果, スピンパイエルスドメインは, 幅が狭いとエネルギーの安定化に強く効くが, 幅が広がると不安定化する量子揺らぎであることがわかった. 一方, 二量体化歪ドメインは, エネルギーの安定化に殆ど寄与しないが, 幅が自由に広がる量子揺らぎであることがわかった. また, 異なる幅を持つスピンパイエルスドメイン基底間には, 直接的な相互作用に加え, 二量体化歪ドメイン基底を介した間接的な相互作用も生じることが明らかになった. 量子揺らぎに関する以上の結果は, 電荷移動励起やテラヘルツ電場照射に対する反射率変化の初期応答において, 格子歪の無いイオン性相ドメインに加え, 二量体化したイオン性相ドメイン(スピンパイエルスドメイン)も高速に生成し得ることを示唆する. このように, 量子揺らぎの特徴と関係性を明らかにすることで, TTF-CA の中性相におけるイオン性相ドメインの高速ダイナミクスを考察した理論は, 本研究が初めてである.

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