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大学・研究所にある論文を検索できる 「イヌにおける問題行動の予防と早期治療に向けた疫学的研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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イヌにおける問題行動の予防と早期治療に向けた疫学的研究

山田, 良子 東京大学 DOI:10.15083/0002006919

2023.03.24

概要





















山田

良子

近年の獣医療では、内科疾患と外科疾患に加えて行動疾患、いわゆる問題行動が診療対象
となっている。問題行動とは攻撃行動や自傷行動など、人間と共に暮らす上で支障となる動
物の行動である。問題行動が発現すると動物と飼い主の生活の質が低下し、重症例では飼育
放棄や安楽死にも直結するため、問題行動は獣医学的観点のみならず福祉的観点からも看
過できない事象である。問題行動に対して効果的な予防や治療を進めるためには、1)獣医
師が予防指導を行うために、問題となりやすい行動と各行動を発現しやすい動物の特徴を
明らかにすること、2)より抜本的な問題行動の予防を進めるために、問題行動の遺伝要因
を解明すること、3)効果的な問題行動治療のために、有効な治療方法を確立すること、が
重要となる。そこで本研究は、日本における問題行動の予防と早期治療に向けて、これら 3
つの観点から問題行動の多角的な解析を行った。
第 1 章では、研究の目的と背景が論じられている。
第 2 章では、問題行動に関する疫学調査を行った。最初に、東京大学附属動物医療センタ
ー行動診療科に来院したイヌ 114 頭の診察前調査票から来院理由を集計した。主訴として
多かったのは攻撃行動、尾追い行動、吠えであった。次に、オンラインアンケート調査によ
り 2,050 人の飼い主から回答を得て、広く一般家庭における 25 種類の問題行動の発生状況
を調査した。困っている人の多かった行動は、家の中の物音および来客に対する吠え、異嗜
であった。
回帰分析により 25 種類の行動の発現と動物の一般情報の関連を解析したところ、
全項目が 1 つ以上の行動の発現に関与しており、行動毎に異なる要因が関連していた。日本
で飼育頭数の多い 4 犬種はそれぞれ異なる問題行動を発現しやすく、柴犬では尾追い行動
と尾への攻撃性や自傷を伴う尾追い行動のオッズ比が高かった。この結果を受け、尾への攻
撃性や自傷を伴う尾追い行動のより詳細な症状と発症要因を明らかにするため、柴犬の飼
い主 199 人から尾追い行動などの詳細な情報を得て解析したところ、人間に対する攻撃行
動を併発しやすいこと、接触過敏性および探索多動傾向の高さとペットショップからの入
手が本行動の発現と有意に関連することなどが判明した。

第 3 章では、柴犬の攻撃行動と尾への攻撃性や自傷を伴う尾追い行動に関する遺伝要因
を解析した。ゲノム上に存在する約 10 万個の一塩基多型(SNP)と各行動の関連を網羅的に
解析するゲノムワイド関連解析を行ったところ、他犬に対する攻撃行動に関して 1 番染色
体上に発症と有意に関連する SNP が検出されたことから、本 SNP やその近傍に存在する遺
伝子が他犬に対する攻撃行動の発症に影響している可能性が示唆された。
第 4 章では、尾追い行動の新たな治療方法の開拓を目的として、抗てんかん薬の投与と投
与判断のための脳波測定の有用性を検討した。最初に、尾追い行動を主訴として行動診療科
に来院し抗てんかん薬が投与された柴犬 7 頭の治療反応性を評価した。投薬後の尾追い行
動の回数が投薬前の 25%未満に減少した場合を改善ありと評価したところ、抗てんかん薬の
種類により治療反応性に差があり、ゾニサミドは尾追い行動を改善しない一方でフェノバ
ルビタールとガバペンチンは治療薬となる可能性が示唆された。次に、同診療科に来院した
イヌ 102 頭を対象として脳波解析を行い、てんかんを示唆する脳波異常が検出されるかに
ついて解析したところ、6 頭で異常波が検出されたが、抗てんかん薬で尾追い行動が改善し
た柴犬 7 頭では異常が認められなかった。以上の結果より、申請者は、尾追い行動を示す症
例にフェノバルビタールやガバペンチンの投与を検討する価値はあるが、脳波測定の有用
性は低いと結論づけている。
第 5 章では総合考察が展開されている。本研究により 1)攻撃行動、吠え、異嗜が日本で
問題となっていること、動物の特徴に応じて各問題行動の発症のしやすさが異なること、柴
犬が発現しやすい尾への攻撃性や自傷を伴う尾追い行動は 1 歳以下で初発することが多い
こと、ペットショップからの入手と探索多動傾向および接触過敏性の高さが本行動の発現
に関連すること、2)柴犬では他犬に対する攻撃行動の発症に 1 番染色体上の SNP やその近
傍に存在する遺伝子が関与している可能性があること、3)脳波測定の結果に依らずフェノ
バルビタールやガバペンチンの投与が柴犬における尾追い行動の改善に繋がる可能性があ
ることが判明した。欧米で飼育頭数が多い大型犬については問題となりやすい行動やその
発症に関連する環境および遺伝要因が報告されてきたが、日本では和犬や小型犬が多くそ
れらを行動診療に活かすことが困難であった。日本における問題行動発症の要因について
多角的に解析した本研究は、本国において問題行動の予防と治療を発展させていくための
基盤的知見になると考察されている。
これらの研究成果は、学術上応用上寄与するところが少なくない。よって、審査委員一同
は本論文が博士(獣医学)の学位論文として価値あるものと認めた。

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