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大学・研究所にある論文を検索できる 「中等症紫斑病性腎炎の小児患者に対するレニン-アンジオテンシン系阻害薬による初回治療の効果」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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中等症紫斑病性腎炎の小児患者に対するレニン-アンジオテンシン系阻害薬による初回治療の効果

永井, 貞之 神戸大学

2022.09.25

概要

【背景】
紫斑病性腎炎は皮膚症状(触知可能な紫斑)、関節症状(腫脹、疼痛)、腹部症状(腹痛、下血)を三主徴とするHenoch–Schönlein紫斑病(HSP)に合併する糸球体腎炎(HSPN)である。HSP症例の30%~80%にHSPNの合併を認めると言われている。HSPN症例の大半は、尿異常を認めても無治療にて自然軽快が期待できる軽症例であるが、予後不良が予想される中等症・重症に対しては積極的な治療が導入される。特に重症例に対しては強力な免疫抑制療法が行われている。中等症に対する治療戦略は議論の余地がある。2019年に欧州リウマチ学会が発表したHSPNの治療指針では、中等症には経口ステロイドもしくは、ステロイドパルス療法による初期治療を推奨されているが、2021年にKidney Improving Global Outcomes (KDIGO)が発表した指針の中では、中等症例に対しては、レニン‐アンジオテンシン系(RAS)阻害薬による初期治療を推奨している。このことは、現在に至るまでHSPNを対象にした大規模ランダム化比較試験は存在せず、治療エビデンスが不足していることが関連している。そのためHSPNの確立された治療法がないのが現状である。1990年代から現在に至るまで我々の施設では、臨床的重症度(血清アルブミン値(Alb))と組織学的重症度(ISKDC分類:HSPNにおける国際的な腎病理組織分類)に基づいて中等症と重症に分類し、中等症例に対してはRAS阻害薬、重症例に対してはプレドニゾロンを中心とした多剤併用療法を一貫として行っている。過去に我々は、中等症HSPNはRAS阻害薬投与で十分な治療効果が得られ良好な予後が得られたと報告している(Ninchoji Tetal. Pediatr Nephrol 2011.)。しかし、一部の中等症患者では寛解後に再燃を認め、追加治療を必要とする症例が存在する。そこで、我々は中等症HSPNに対するRAS阻害薬の妥当性を再検討すること、また中等症における再燃例の臨床病理学的特徴および追加治療に対する治療反応性を明らかにすることを目的に本研究を行った。

【対象・方法】
1996年1月から2019年12月にHSPNと診断された126名の18歳未満の患者の中で、中等症HSPNと診断され、RAS阻害薬を行いかつ1年以上の経過観察をしえた71名を対象に診療録を用いて後方視的に臨床病理学的な検討を行った。中等症はISKDC分類のGrade IIまたはIIIa、およびAlb≧2.5g/dLと定義した。尿蛋白陽性は尿たんぱくクレアチニン比(UP/C)≧0.2g/gCrとした。治療効果の判定は、蛋白尿の消失と腎機能障害(推算糸球体濾過量<90mL/min/1.73m2)の有無で行った。データは中央値(四分位範囲(IQR))で記し、統計学的検討はマンホイットニーのU検定で行い、統計学的有意はP<0.05とした。

【結果】
HSPNの発症年齢は5.6歳(IQR:4.6-9.8歳)、男女比は31:40、発症から腎生検までは3.0か月(IQR:2.0-7.0か月)であった。初回腎生検時のAlb=3.7g/dL(IQR:3.3-4.2g/dl)、UP/C=1.5g/gCr(IQR:0.8-3.8g/gCr)、腎機能障害を呈した症例は認めず、ISKDC分類はⅡ、Ⅲaが各々15、56例であった。71例全例で、RAS阻害薬治療後に蛋白尿の消失を認めており、腎生検から尿蛋白消失に至るまでの期間は5.0か月(IQR:3.0-11.0か月)であった。しかし、71例中16例(22.5%)で尿蛋白の再燃(UP/C=0.55g/gCr(IQR:0.27-1.46g/gCr))を認め、腎生検から再燃に至るまでの期間は33.5か月(IQR:12.0-60.0か月)であった。再燃の回数は、いずれの症例も1度のみであった。追加治療の内容はRAS阻害薬再開もしくは増量8例、多剤併用療法7例、ステロイドパルス療法1例であった。16例のうち11例は追加治療後に再び蛋白尿の消失を認めたが、5例は最終観察時まで蛋白尿(UP/C=0.58g/gCr(IQR:0.46-0.89g/gCr)が残存した。最終観察時(46.5か月(IQR:23.2-98.2か月))に、中等症71例中、尿蛋白が残存した症例は5例で、いずれも再燃例であった。ただし腎機能障害を呈した患者は認めなかった。RAS阻害薬による副作用は計6例(ふらつき:6例、空咳:1例)に認めたが、いずれの症例も投薬中止もしくは減量により、すみやかに症状の改善が得られていた。

再燃16例の臨床的特徴として、非再燃例55例と比較して発症から腎生検までの期間が有意に長く(6.5か月対3.0か月、P=0.023)、RAS阻害薬治療開始から尿蛋白消失に至るまでの期間も有意に長かった(9.0か月対4.0か月、P=0.021)。病理学的特徴として、再燃16例は全例ISKDC分類のGrade IIIaであった。また、再燃16例は非再燃例55例と比較して、全節性・分節性糸球体硬化像を有する割合(25.0%対0%、P<0.001)および尿細管萎縮・間質線維化を有する割合(37.5%対12.7%、P=0.024)が有意に高かった。

【結語】
本研究で、中等症HSPNへのRAS阻害薬治療は、重篤な副作用を認めることなく、十分な尿蛋白減少効果が得られる治療であったことが確認された。再燃例の病理学的特徴として、初回腎生検時に糸球体腎炎の慢性期を反映する病変(全節性・分節性糸球体硬化像、尿細管萎縮・間質線維化)を有する事、またISKDC Grade Ⅲaを呈する事であった。再燃の多くは、初回腎生検の約3年後に認められた。たとえ、再燃しても追加治療への反応性は良好で、最終的な腎予後も良好であったことを考慮すると、中等症HSPNの初期治療としてRAS阻害薬は妥当であると考えられる。

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