若年女性に対する乳癌検診の意義の検討
概要
目的:
若年女性に対する対策型検診の有効性について大規模な検診成績を用いて検討した報告はなく、30 歳代の女性に対する乳癌検診は科学的に有用性が証明されていないため、推奨されていない。また、対策型検診で発見された若年女性の乳癌の特徴についても不明である。本研究では、茨城県における対策型検診の結果から、若年女性に対する対策型乳がん検診の意義について検討する。
対象と方法:
対象:2006~2013 年に茨城県総合健診協会が茨城県内の市町村より委託されて行なった集団乳癌検診を受けたすべての女性。
方法:
茨城県の指針をもとに各自治体が乳癌検診の対象年齢、検診方法は設定し検診を実施した。茨城総合健診協会に対象期間の乳癌検診データの提供を依頼し、乳癌発見率、乳癌の腫瘍径、リンパ節転移の有無、Stage 分類を年齢毎に比較した。また検診で 40歳未満の乳癌症例の病理組織学的特徴に関して再調査し、サブタイプ、核グレードの評価をした。統計方法は、癌発見率、NNS、腫瘍径、リンパ節転移の有無、早期癌の割合についてはピアソンのカイ二乗検定を行い、p<0.05 の場合に有意差ありとした。統計は IBM SPSS Statistics version25 を用いた。
結果:
2006~2013 年の間にのべ 428560 人の女性が茨城県総合健診協会が茨城県の市町村より委託されて実施した対策型検診を受診した。40 歳未満の受診者はのべ 74452 人で全体の 17.4%を占めていた。40 歳未満では初回検診が多い傾向だった。全年齢で 908 人の女性が乳癌と診断され、そのうち 40 歳未満は 45 人だった。癌発見率は全受診者で 0.21%に対し、40 歳未満では 0.06%と有意に低かった。腫瘍径については 40 歳未満では T2 以上の割合が 40 歳以上と比較して高かった。リンパ節転移については、40 歳未満のリンパ節転移陽性の割合は 40 歳以上と比較して高い傾向が見られた。病期については 40 歳未満では早期癌の割合が少ない傾向が見られた。
40 歳未満の乳癌症例の病理組織学的検討ではサブタイプは Luminal A type が最も多く、核グレードは低異型度が最も多かった。
考察:
本研究では 40 歳未満の乳癌発見率は他の年齢と比較して非常に少なかった。また 40歳未満では要精密検査となっても多くの受診者は異常がないか良性疾患であり、不必要な追加検査により精神的、身体的負担などの不利益が生じたと考えられる。一般的に若年乳癌は悪性度の高い表現型を有することが多いが、本研究の検診で乳癌と診断された症例の病理組織学的検査では、低異型度で比較的予後良好とされるサブタイプである LuminalA 乳癌が多かった。若年発症乳癌に多いとされる遺伝性乳癌卵巣癌症候群は乳癌発症ハイリスクとされ、そのような若年者に対しては対策型検診とは異なる点からのアプローチが必要である。
結語:
40 歳未満の乳癌発見率は非常に低く、死亡率低減効果を目的とした対策型検診を積極的に推奨する根拠となる結果は得られなかった。また本検討において、対策型検診における 40 歳未満の若年乳癌の特徴が明らかとなった。今後、日本における乳癌発症リスク評価システムの作成やそれを利用した検診・サーベイランスが期待される。