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Caenorhabditis elegansを用いたオートファジー関連因子の研究

弓削多, 梓 東北大学

2023.07.12

概要

博士論文

Caenorhabditis elegans を用いたオートファジー関連因子の研究

令和4年度
東北大学大学院生命科学研究科
分子化学生物学専攻
弓削多



i

目次
1. 序論

………………………………………………………………………………………………………

p. 1

1.1 オートファジー研究と線虫 C. elegans …………………………………………………………

p. 1

1.1.1 モデル生物線虫 C. elegans
1.1.2 オートファジー
1.1.3

オートファゴソーム形成を担う Atg タンパク質群

1.2 オートファジー以外の機能を持つ Atg タンパク質 ……………………………………………

p. 6

1.2.1 ATG タンパク質のオートファジー非依存的機能
1.2.2 既知の Atg 変異動物
C. elegans における ATG 変異株 [1.2.2.1]
Atg5 完全欠損動物の表現型 [1.2.2.2]
マターナル効果について [1.2.2.3]
1.2.3 報告されている Atg5 のオートファジー非依存的機能
1.3 生物の寿命とオートファジー ……………………………………………………………………

p. 12

1.3.1 寿命を制御する遺伝子の発見
1.3.2 オートファジーと寿命との関係
1.3.3 8-nitro-cGMP の寿命延長効果
1.4 本研究の目的 ………………………………………………………………………………………

p. 15

1.4.1 ATG-5 のオートファジー非依存的機能の解明
C. elegans ATG-5 変異体 [1.4.1.1]
目的 [1.4.1.2]
1.4.2 8-nitro-cGMP による線虫寿命延長効果と選択的オートファジーの関係解明
8-nitro-cGMP と選択的オートファジー受容体 p62/SQST-1 [1.4.2.1]
寿命と p62/SQST-1 の関係性 [1.4.2.2]
目的 [1.4.2.3]
2. 本論

………………………………………………………………………………………………………

p. 21

2.1 ATG-5 のオートファジー非依存的機能の解明 …………………………………………………

p. 21

2.1.1

C. elegans ATG-5 完全欠損株で観察される成長停止

…………………………………

p. 21

ATG-5 完全欠損株の表現型 [2.1.1.1]
ATG-5 完全欠損線虫が示す L1 幼虫期での成長停止 [2.1.1.1.1]
C. elegans におけるオートファジー活性評価 [2.1.1.1.2]
ATG-5 完全欠損株のオートファジー活性 [2.1.1.1.3]
ATG-5 点変異株の作製と表現型 [2.1.1.2]
ゲノム編集による ATG-5 点変異株の作製 [2.1.1.2.1]
作成した点変異株と完全欠損株の表現型比較 [2.1.1.2.2]
欠損株への ATG-5 遺伝子レスキュー実験 [2.1.1.3]
Atg5-Atg12-Atg16 複合体構成因子の変異株の取得と表現型 [2.1.1.4]

i

細胞系譜に着目した成長停止表現型解析 [2.1.1.5]
ATG-5 変異株と飢餓 L1 アレスト/ダウアー幼虫との関係 [2.1.1.6]
飢餓 L1 アレストとの関係 [2.1.1.6.1]
飢餓 L1 アレスト関連遺伝子 [2.1.1.6.1.1]
体内状態比較 [2.1.1.6.1.2]
ダウアー幼虫との関係 [2.1.1.6.2]
UblA ドメインを保持した ATG-5 変異株の作製と表現型 [2.1.1.7]
ゲノム編集による ATG-5(UblA)株の作製 [2.1.1.7.1]
ATG-5(UblA)株の表現型 [2.1.1.7.2]
オートファジー非依存的役割を解明するツールとしての UblA 株 [2.1.1.8]
小括 [2.1.1.9]
2.1.2 成長停止に関わる時期・組織の特定 ………………………………………………………

p. 49

GFP 融合 ATG-5 発現線虫株作製の試み [2.1.2.1]
AID 法を用いた時期特異的ノックダウン実験 [2.1.2.2]
タンパク質特異的ノックダウン手法 AID [2.1.2.2.1]
ATG-5-AID 発現線虫株の作製 [2.1.2.2.2]
卵に対するオーキシン処理で観察された L1 幼虫期での成長遅延 [2.1.2.2.3]
ATG-5 完全欠損株の胚発生観察 [2.1.2.2.4]
Soaking RNAi 法を用いた組織特異的ノックダウン実験 [2.1.2.3]
ATG-5 変異株への Soaking RNAi [2.1.2.3.1]
ATG-5 組織特異的 RNAi 用線虫株の作製 [2.1.2.3.2]
生殖腺特異的 ATG-5 RNAi によって成長停止が起こる [2.1.2.3.3]
小括 [2.1.2.4]
2.1.3

ATG-5 全長並びに ATG-5 の UblA ドメインと相互作用するタンパク質の解析

…… p. 60

ATG-5 のオートファジー非依存的機能解明の端緒としての相互作用解析 [2.1.3.1]
データベースにおける ATG-5 インタラクトーム [2.1.3.2]
近接依存性標識法 TurboID を用いたタンパク質相互作用解析 [2.1.3.3]
近接依存性標識法 TurboID [2.1.3.3.1]
ATG-5-TurboID 発現線虫株の作製 [2.1.3.3.2]
LC-MS/MS によるビオチン化タンパク質の定量解析 [2.1.3.3.3]
ATG-5 全長と ATG-5(UblA)の結果の比較 [2.1.3.3.4]
マウス線維芽細胞を利用した TurboID 実験(共同研究)[2.1.3.3.5]
細胞周期・細胞分裂に関わるタンパク質との関係性 [2.1.3.3.6]
CCT 変異株で見られた L1 幼虫期での成長停止[2.1.3.3.6.1]
ATG-5 の中心体への局在 [2.1.3.3.6.2]
インタラクターのプールから成長阻害に関わる因子を同定する将来計画 [2.1.3.4]
小括 [2.1.3.5]

ii

2.1.4
2.2

……………………………………………………………………………………………

p. 71

8-nitro-cGMP による線虫寿命延長効果と選択的オートファジーの関係解明 ………………

p. 72

2.2.1

小括

内因性オートファジー誘導因子 8-nitro-cGMP の生理的意義

…………………………

p. 72

8-nitro-cGMP は線虫の健康寿命を延長する [2.2.1.1]
8-nitro-cGMP の寿命延長効果 [2.2.1.1.1]
長寿関連遺伝子との関係 [2.2.1.1.2]
オートファジーとの関係 [2.2.1.1.3]
8-nitro-cGMP は PINK1/Parkin 非依存的マイトファジーを誘導する [2.2.1.2]
8-nitro-cGMP はミトコンドリア機能を維持する [2.2.1.3]
ミトコンドリア形態観察 [2.2.1.3.1]
ミトコンドリア機能観察(ATP・膜電位測定)[2.2.1.3.2]
2.2.2 8-nitro-cGMP の効果は p62/SQST-1 依存的である

………………………………………

p. 86

選択的オートファジー受容体 p62/SQST-1 [2.2.2.1]
sqst-1 欠損株の寿命測定 [2.2.2.2]
sqst-1 欠損株のマイトファジー評価 [2.2.2.3]
2.2.3 8-nitro-cGMP によるミトコンドリア画分のタンパク質の S-グアニル化

……………

p. 88

……………………

p. 89

…………………………

p. 91

……………………………………………………………………………………………

p. 93

………………………………………………………………………………………………………

p. 94

2.2.4 8-nitro-cGMP は哺乳類細胞においてもマイトファジーを誘導する
2.2.5 8-nitro-cGMP は老化した線虫体内のプロテオームを改善する
2.2.6 小括
3. 考察
4. 実験項

……………………………………………………………………………………………………

p. 102

参考文献
謝辞

iii

1. 序論

1.1 オートファジー研究と線虫 C. elegans

1.1.1 モデル生物線虫 C. elegans
線虫 Caenorhabditis elegans(C. elegans)は、Sydney Brenner 博士により確立されたモデル生物である
(Brenner, 1974)。線虫は体長1mm ほどの生物で、雌雄同体成虫は 959 個、雄は 1031 個の体細胞で構成され
ており、神経系、消化系、筋肉系、生殖系など、高等生物に類似した組織を持っている。身体が透明である
ためライブセル観察が可能であり、全ての細胞系譜が明らかにされている (Sulston et al., 1983; Sulston &
Horvitz, 1977)。全ゲノム情報も解明されているため、個体発生の全過程を分子から個体レベルまで、遺伝子
型と表現型を対応させて理解することができる。また、C. elegans は単純な多細胞生物でありながら、ゲノ
ム情報の約 60%がヒトと相同しており、高等生物に似た生物学的特性を示すため、高等生物の生命現象や遺
伝子機能、臓器間・細胞間相互作用の解明に有用なモデル生物である。寿命は約1ヶ月であるため寿命測定
実験も比較的容易に行なえ、化合物投与等の試験に関してもその身体の小ささから量を抑えることができる。
線虫 C. elegans には独自の自己防衛能として、L1 アレストや耐性幼虫(ダウアー幼虫)化という現象が存
在する。ダウアー幼虫とは L1 幼虫期を超えた幼生段階において、環境条件が生育に適していない場合(餌
がない、個体密度が高いなど)、過酷な環境で生き延びるための形態変化である。ダウアー幼虫は餌を食べ
ないが、ストレス耐性を持つことによって非常に長く生きる。一方、卵から孵化直後に餌のない条件におく
と、飢餓誘導性の L1 アレストが起こる。この L1 アレストは、ダウアー幼虫とは異なり形態変化を伴わない
が、飢餓状態で数週間生き延びることができる。また、これらの線虫は、餌が与えられ生育に適した環境に
戻ると、L2 以降の生育過程に進む。L1 アレストになるための条件や遺伝子応答などが調べられている
(Baugh, 2013)。

(次項)
図 1-1 モデル線虫 Caenorhabditis elegans の生活環
卵から孵化後幼虫(larval)期である L1〜L4 期を経て成虫(Adult)になり, 3 日で世代交代する. 独自の自己防衛能と
して L1 アレスト(L1 arrest), ダウアー幼虫(Dauer)という現象を持つ.

1

L1アレスト

1.1.2 オートファジー
オートファジーは、細胞内の主要なタンパク質分解機構であり、酵母から哺乳類に至るまで幅広く保存さ
れている (Parzych & Klionsky, 2014)。細胞内の不要なタンパク質や損傷した細胞小器官などを分解し、細胞
の恒常性を保つ働きを持つ。また、栄養飢餓時にはアミノ酸供給源として特に重要な役割を果たす。オート
ファジーには、マクロオートファジー(以下で説明)、ミクロオートファジー(リソソームまたは液胞膜が
内側に陥入し、その後ちぎれることで細胞質成分を取り込む方法)、シャペロン介在性オートファジー
(Hsc70 という分子シャペロンと LAMP2A というリソソーム膜上のタンパク質の働きを介して細胞内の成分
をリソソームに運搬して分解する方法)の3種類が存在するが、最も研究が進んでいるのがマクロオートフ
ァジーであり、本論文でもマクロオートファジー(以下、単にオートファジー)について論じる。近年の研
究は、オートファジーが種々の疾患や老化・寿命、細胞内細菌の分解、自然免疫応答、細胞死などの生命維
持機構に関与していることを明らかにしてきた (Sridhar et al., 2012)。
オートファジーの過程では、はじめにオートファゴソームという特殊な膜構造体が細胞内のタンパク質な
どを取り囲む。オートファゴソームは、リソソームと融合してオートリソソームとなり、内容物がリソソー

2

ムに由来する加水分解酵素により分解される。オートファゴソームの形成には、複数のオートファジー関連
遺伝子(Autophagy-related Gene: ATG)が必要とされる。ATG の多くは、オートファジーの発見者であり、
2016 年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典教授(現所属:東京工業大学 栄誉教授)らのグルー
プなどにより同定されてきた (Tsukada & Ohsumi, 1993)。大隅博士は、オートファジーに関わる遺伝子名とし
て APG(autophagy)という名称を付けていたが、のちに参入してきたグループが不統一な遺伝子名を独自
に提唱し始めたことをきっかけに、命名法について話し合いが行われて ATG という名称に統一された。現
在(2022 年 12 月時点)44 種類の ATG 遺伝子が報告されており、オートファジーに必要なコア ATG 遺伝子
は 18 種類であると考えられている (Ohsumi, 2001)。
ATG 遺伝子/タンパク質の多くは生物種間で保存されているが、生物種によって異なる表記が用いられる
ことから、ここで説明する。ヒトでは「遺伝子名 ATG5、タンパク質名 ATG5」
、マウスでは「遺伝子名 Atg5、
タンパク質名 Atg5」
、線虫では「遺伝子名 atg-5、タンパク質名 ATG-5」等と定義されている。本論文でもこ
のルールに則って表記する。

1.1.3 オートファゴソーム形成を担う Atg タンパク質群
オートファジー関連タンパク質(Atg タンパク質)は、酵母やヒトのように異なる生物種であっても類似の
メカニズムでオートファゴソーム形成に関わる (Mizushima et al., 2011)。Atg タンパク質は主に、⑴ Atg1/ULK
複合体、⑵ Atg9 小胞、⑶ Atg14 を含む PI3K 複合体、⑷ Atg2-Atg18/WIPI 複合体、⑸ Atg12 結合反応系、⑹
Atg8 結合反応系に分かれてオートファジーを制御している(図 1-2)
。このうち⑸と⑹は、ユビキチン様結合
系であり、関係する Atg5、Atg12、Atg8 はオートファゴソームの形成に重要である。一般にこれらの共有結
合系が損なわれると、マクロオートファジー不全になる (Levine et al., 2011; Tanida et al., 1999)。
(タンパク質
名は哺乳類の場合)

<Atg12 結合反応系>
ユビキチン様タンパク質 Atg12 は、Atg7 をユビキチン活性化(E1)酵素、Atg10 をユビキチン結合(E2)
酵素としてヒトでは Atg5 の 130 番目のリジン残基とイソペプチド結合を形成する。さらに Atg12-Atg5 結合
体は Atg5 を介し Atg16L と複合体を形成する (Nakatogawa, 2014)。Atg12-Atg5 結合体は、後述する Atg8 の結
合反応を促進するユビキチンリガーゼ(E3)として機能するが、この活性に Atg16L は不必要である

3

(Nakatogawa, 2014)。Atg5-Atg12-Atg16L 複合体はオートファゴソーム形成部位に局在する (Juris et al., 2015)。
<Atg8 結合反応系>
もう一つのユビキチン様タンパク質 Atg8 は、合成後にシステインプロテアーゼ Atg4 により末端が切断さ
れ、結合反応に必要なグリシン残基が露出した Atg8-I 型となる (Matsunaga et al., 2009)。Atg8-I 型は E1 酵素
の Atg7 と、E2 酵素の Atg3 を介してホスファチジルエタノールアミン(PE)の親水性頭部のアミノ基とアミ
ド結合を形成することで、Atg8-PE 複合体(Atg8-II 型)となり、オートファゴソーム膜に局在する。Atg8PE は、マクロオートファジーの進行に必須ではないが、欠損により分解効率が大きく低下することが知ら
れている (Tsuboyama et al., 2016)。

上述のように出芽酵母や哺乳類では、Atg12 と Atg5 の共有結合形成がオートファジーに必要である。とこ
ろが、2019 年3月に、Atg12 共有結合系が非共有結合系へ進化した生物が発見された (Pang et al., 2019)。マ
ラリア原虫やトキソプラズマのような寄生虫と一部の酵母では、E2 酵素として働く Atg10 遺伝子が喪失して
おり、Atg12 と Atg5 の共有結合が触媒されない。さらに、Atg12 側の共有結合部位である C 末グリシンの欠
損も見られている。これらの生物種では、共有結合によらずとも Atg5 と Atg12 が複合体を形成でき、Atg8
の脂質化が促進されることが明らかとなった。これらは、進化の系統樹上は人や線虫から遠い生物種だが、
このような例外的な非共有結合系は他種にも存在する可能性がある。

一方で、Atg5 非依存的オートファジーも報告されている (Y. Nishida et al., 2009)。東京医科歯科大学の清水
重臣教授らは Ag5 欠損マウスより採取した Atg5 欠損細胞においてもオートファジーが起こることを報告し、
これには LC3(酵母 ATG8 の哺乳類ホモログ)の脂質化が伴わず、Atg7、Atg12、Atg16 等いくつかの Atg タ
ンパク質の関与もないことを明らかとした。そのため、オートファジーには、従来から知られている Atg5
依存系のオートファジー機構と、Atg5 に依存しない新規オートファジーの2種類あることが示唆され、細胞
や外部刺激の種類によって使い分けられている可能性を示唆している。この新規オートファジーの系は酵母
から哺乳類まで保存されているが、いくつかの Atg タンパク質が細胞内分解に必須でないことが示されてい
る。

4

⑸ Atg12結合反応系

Atg16 複合体
Atg12
Atg7

Atg7

Atg12

Atg12

Atg10

Atg5

Atg5

Atg5

E2 酵素

AMP+PPi

E3 酵素
⑹ Atg8結合反応系

Atg8-I型

Atg8

Atg8

Atg8-II型



X

Atg4

Atg7
E1 酵素

Atg16

ATP

Atg12

Atg16

E1 酵素

Atg12

ATP

AMP+PPi

Atg8

Atg8

Atg7

Atg3
E2 酵素

Atg8

Atg8
Atg4



Atg12

PE

図 1-2 Atg タンパク質の機能グループ
Atg12 は Atg5 のリジン残基と共有結合後, Atg5 を介し Atg16 と複合体を形成する. Atg8 は合成後に末端が切断され Atg8I 型となる. Atg8-I 型はホスファチジルエタノールアミン(PE)とアミド結合し Atg8-PE 複合体(Atg8-脂質化型/Atg8II 型)となりオートファゴソーム膜に局在する. Atg12-Atg5 結合体は Atg8-II 型形成を促進する E3 酵素として機能する.

5

1.2 オートファジー以外の機能を持つ Atg タンパク質

1.2.1 Atg タンパク質のオートファジー非依存的機能
近年、Atg タンパク質のオートファジー非依存的機能が注目されている。2022 年に米国で開催されたオー
トファジー領域のゴードン研究会議では、「Functions of Autophagy Proteins in Lysosome-Dependent and Independent Mechanisms」という副題が初めて掲げられた。実際に、Atg タンパク質がシグナル伝達やタンパ
ク質の転写制御、分泌機構に関わるという報告が続き、 Atg のオートファジー非依存的な役割についての研
究はさらに加速している (Bestebroer et al., 2013; Galluzzi & Green, 2019; Mizushima, 2018; Subramani & Malhotra,
2013)。

1.2.2 既知の Atg 変異動物
[1.2.2.1] C. elegans における ATG 変異株
線虫では変異体の取得に際し、エチルメタンスルホン酸やトリメチルソラレンなどの化合物処理や紫外線
照射により次世代以降に現れる突然変異体を探索することが多い (Brenner, 1974)。古典的な突然変異生物の
スクリーニングに代わり、狙った位置に変異を導入できる CRISPR/Cas9 ゲノム編集技術が一般化し、現在は
特定のタンパク質の完全欠損変異体が容易に取得可能となった (Doudna & Charpentier, 2014; Gaj et al., 2013)。
また、新たな配列を挿入することが格段に容易になり、研究ツールとしての線虫の価値を高めた。
しかしながら線虫 C. elegans の ATG 変異株の多くは古典的手法で作成されたものである (Palmisano &
Meléndez, 2019)。表 1-1 では、コア ATG タンパク質として知られている ATG の C. elegans 機能不全株を示す。
この表からわかるように、各 ATG 変異線虫の発生・発達に関する表現型は同一ではない。オートファジー
の最上流を制御する unc-51 や lgg-1-I 型の E2 酵素 atg-3 の変異体は、オートファジー不全でありながら発生・
発達に異常が見られない (Lapierre et al., 2003; Tian et al., 2010)。一方、オートファゴソーム膜形成に関わる
lgg-1 変異体は、F1 世代は正常だがホモ接合体の F1 から生まれる F2 世代の4割が胚性致死であり6割が L1
幼虫期で死ぬ (Sato et al., 2011)。ATG-5 との結合に関わるアミノ酸をコードする領域に変異を持つ ATG-12 の
変異体も、F1 ホモ接合体は正常だが F2 世代がほとんど幼虫期で死ぬか、成長しても不稔であることが多い
(H. Zhang et al., 2009)。つまり、線虫の発生において、atg 遺伝子の欠損によりもたらされる表現型には統一
性がなく、オートファジー阻害による影響に加え、atg 遺伝子のオートファジー非依存的な役割も観察され

6

ている可能性があるが、詳細は明らかとなっていない。以上のことから、個々の ATG タンパク質は C.
elegans の発生・発達に異なる役割を持ち、そこにオートファジーが直接関係しない可能性が示唆される。
タンパク質は機能を示す複数のドメインからなる。 ...

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