PACSIN1 is indispensable for amphisome-lysosome fusion during basal autophagy and lysophagy
概要
細胞内大規模分解系であるオートファジーは、不要になったタンパク質やオルガネラを常時分解・除去することで細胞の恒常性を維持し、神経変性疾患や肝障害、筋萎縮などの疾患から細胞を保護している。また、基底レベル(富栄養状態)のオートファジー活性の他に、飢餓ストレスやオルガネラの損傷に応答して爆発的にオートファジー活性が上昇することが知られている。これらの刺激に応答してオートファジーが誘導されると、扁平な二重膜構造が細胞質成分を取り囲むように新生されオートファゴソームと呼ばれる小胞が形成される。オートファゴソームがリソソームと融合することで隔離した内容物がリソソームの加水分解酵素により分解され再利用される。古くから、オートファゴソームからリソソームへの輸送過程はオートファゴソームが後期エンドソーム/MVBsと融合してアンフィソームと呼ばれる中間体膜構造を形成したのち、リソソームと融合する経路とオートファゴソームが直接リソソームと融合する経路の2経路が存在することが知られていた。しかしながら、この2つの経路を明確に区別することが難しく、生理的な役割や分子機構の違いはこれまで不明であった。本研究ではアンフィソームとリソソームの融合を制御する新規因子としてPACSIN1を同定し、PACSIN1欠損細胞を用いた解析により、栄養条件や特定のオートファジーに依存してオートファゴソーム・エンドソーム/リソソームの融合経路に使い分けがあることを明らかにした。
PACSINsはN末に脂質膜に結合するF-BARドメインとC末にタンパク質相互作用に必要なSH3ドメインをもつタンパク質で3つのパラログ(PACSIN1,2,3)が存在する。F-BARドメインは脂質膜に結合することで膜に曲率を与え、膜の変形を駆動することから、細胞内膜輸送において小胞形成に関与しており、カベオラ形成やリサイクリングエンドソームからの小胞輸送、神経終末におけるシナプス小胞のリサイクル過程に必要であることが知られている。
これら3つのパラログについてHeLa細胞を用いてKO細胞を作製し、オートファジー活性を調べたところ、PACSIN1のみでオートファジー活性の低下が見られた。驚くべきことに、PACSIN1は基底レベルのオートファジー活性を調節するが飢餓誘導性のオートファジー活性には影響しないことが分かった。そこで、PACSIN1に着目しオートファジー経路における役割を調べた。PACSIN1欠損細胞では、リソソーム機能が正常であるにも関わらずオートファゴソームの蓄積が見られ、オートファゴソームからリソソームへの輸送を可視化できるtf-LC3アッセイにより融合過程が阻害されていることが分かった。さらに電子顕微鏡および免疫染色による詳細な観察の結果、PACSIN1欠損細胞においてオートファゴソームではなくアンフィソームが蓄積していたことからPACSIN1はアンフィソーム-リソソーム融合過程を制御していると考えられた。また、PACSIN1はリソソームに局在しており、一部オートファゴソームにも局在していることが分かった。分子機構を明らかにするため既知のオートファゴソーム-リソソーム融合因子である2種類のSNARE複合体の結合を調べたところ、PACSIN1欠損細胞では、これら2種のSNARE複合体の形成が阻害されていることが分かった。さらにPACSIN1はこれらのcomplexで共通因子であるSNAP29と相互作用していた。これらの結果から、PACSIN1はSNAP29を介してSNARE複合体の形成を促進または安定化することにより、アンフィソーム-リソソーム融合過程を制御していることが示唆された。また、選択的オートファジーにおけるPACSIN1の寄与を調べたところ、PACSIN1はリソファジーには必要であるが、マイトファジーにおいては必須ではないことが分かった。このことから、栄養条件やストレスに依存してオートファゴソーム-リソソーム融合経路に使い分けがあることが示唆された。
最後に、PACSIN1の生理的な機能を明らかにするために線虫のPACSINホモログであるsyndpn-1欠損個体を用いて解析を行った結果、線虫においても基底レベルのオートファジー活性の低下がみられ、さらに加齢に伴い凝集体タンパク質の蓄積が増悪し運動能が低下することが認められた。したがって、PACSIN1の機能は広く保存されており、生体において凝集体タンパク質の分解、除去に寄与していることが明らかとなった。
以上の結果から、オートファゴソーム/アンフィソーム-リソソーム融合経路は基底オートファジー、リソファジー、アグリファジーに必要である一方、飢餓誘導性オートファジーとマイトファジーには必要でないことがわかった。すなわち、栄養状態やストレスに応じた融合経路の選択調節が行われているという新たな知見が得られた。