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Oscillating gradient spin-echo (OGSE) 法を用いた拡散強調像の基礎的検討と臨床応用

前川, 朋子 東京大学 DOI:10.15083/0002004989

2022.06.22

概要

magnetic resonance imaging(MRI)で撮像される拡散強調像(diffusion-weighted imaging、DWI)とは水分子の拡散運動を信号変化として強調した画像のことであり、水分子の拡散が制限された領域を相対的に高信号として描出する。定量的な拡散の大きさを表すために拡散係数という指標を用いる。DWIで拡散係数を扱う場合、純粋な拡散現象のみを表していないため、みかけの拡散係数(apparent diffusion coefficient、ADC)を指標として用いる。

臨床で用いる従来のDWIは主にpulsed gradient spin-echo(PGSE)法を使用しており、PGSE法では拡散時間の短縮化に技術的な限度があるため比較的長い拡散時間が使用されている。近年、oscillating gradient spin-echo(OGSE)法という新しい手法が臨床MRI装置でも使用可能となってきた。従来のPGSE法と比べOGSE法によるDWIは、motion probing gradient(MPG)の周波数を変化させることにより、拡散時間を短縮化することができる。

自由拡散(ガウス分布)の場合、ADCは拡散時間に依存しない。すなわち、設定した拡散時間内に水分子が障壁に衝突するほど移動しない場合、測定されるADCは基質固有の拡散係数である。組織内の拡散は、線維組織、細胞膜、細胞内小器官など様々な微細構造を存在するため、自由拡散ではない。そのため、拡散時間が長くなると、前述のような微細構造に由来する障壁と水分子はより衝突し、測定されるADCは漸近的に低下する。反対に、拡散時間が短くなると、障壁と水分子の衝突は減少し、ADCは漸近的に増加する。このように、OGSE法によるDWIを用いて、異なる拡散時間におけるADCの変化を検討することにより、病変の微細な内部構造を推定することが期待されている。

ファントムやシミュレーション、培養細胞を用いた先行研究では、OGSE法によってμmスケールでのサイズ測定が可能であることを立証している。動物やヒトの脳に対する研究では、OGSE法で拡散時間が短くなると正常脳組織のADCが増加するという拡散時間依存性が報告されている。動物の脳虚血モデルやヒトの急性期脳梗塞に対する研究では、ADCの低下は長い拡散時間よりも短い拡散時間においてより小さくなることを明らかにした。特に、BaronらはOGSE法のdiffusion tensor imaging(DTI)による検討とシュミレーションモデルを用いて、急性期脳梗塞で観察される制限拡散が軸索のビーズ状変性に起因するものであることを明らかにした。悪性腫瘍における拡散時間のADCへの影響についても関心が高まってきている。OGSE法を用いた短い拡散時間によるヒトの悪性腫瘍の検討は、現在のところ頭頚部腫瘍においてのみに対して行われている。飯間らは、OGSE法とPGSE法による異なる拡散時間を使用して、良性と悪性の頭頸部腫瘍を区別するのにADCの変化が有用であることを明らかにした。

このように、微細な内部構造の推定や腫瘍の良悪性の判断のために、ヒトの急性期脳梗塞や頭頚部腫瘍を検討したOGSE法によるDWIの報告がなされているが、臨床応用の有用性についての研究の蓄積はまだ不十分である。また、OGSE法によるDWIの臨床プロトコルの精度評価に有用なファントムも明確にされていない。

本研究では、まず研究1で、等方性拡散ファントムとして知られるアルカンが、OGSE法によるDWIの臨床プロトコルの精度評価に有用なファントムであるか検証した。研究2では、日常画像診断において比較的遭遇しやすいDWI高信号病変である脈絡叢嚢胞の内部構造がOGSE法によって推定可能か検証した。研究3では、低悪性度と高悪性度の脳腫瘍を区別するのにOGSE法を用いた異なる拡散時間におけるADCの変化が有用であるか検討した。

研究1基質粘度の違いによるOscillating gradient spin-echo(OGSE)法を用いた拡散強調像のADCの変化

【目的】等方性拡散ファントムとして知られるアルカンが、OGSE法によるDWIの臨床プロトコルの精度評価に有用なファントムであるか検証した。

【方法】9つのアルカンファントム(C8H18〜C16H34)を3TMRI(Prisma, Siemens社)を用い撮像した。b値0,7000s/mm2とした。OGSE法では拡散時間4.3、5.1、6.5、9.3ms(周波数50、40、30、20Hz)、PGSE法では拡散時間20、40、60msと、合計7ポイントの拡散時間を設定した。それぞれのアルカンファントムのADCを測定した。ADCの安定性は、変動係数を算出して評価した。

【結果】アルカンファントムのADCは、拡散時間を変化させてもほぼ一定だった。各アルカンファントムの拡散時間の変化に対する変動係数の平均値は0.90〜2.18%であり、いずれも5%未満と安定していた。

【考察】アルカンはOGSE法によるDWIの臨床プロトコルの精度評価に有用なファントムといえる。DWIで高信号を示す病変に対し、OGSE法による短い拡散時間のDWIを追加することは、内部構造に基づく空間的制限拡散と基質粘度のADCへの寄与を区別するのに役立つ可能性がある。

研究2短い拡散時間を用いた拡散強調像による脈絡叢嚢胞の検討

【目的】脈絡叢嚢胞は両側側脳室において拡散強調像で高信号を示し、MRIで高頻度に認める。脈絡叢嚢胞の内部構造を推定するために、OGSE法で拡散時間を短くしたDWIを撮像して脈絡叢嚢胞のADCの変化を評価した。

【方法】脈絡叢嚢胞を認めた27名を後方視的に評価した。MRI撮像には3T(Prisma, Siemens社)を用い、b値0,1000s/mm2とした。周波数は0Hz(拡散時間35.2ms)、30Hz(拡散時間6.5ms)に設定して撮像した。各々の拡散強調像で脈絡叢嚢胞、白質、脳脊髄液にROIを設定しADCを求め、異なる拡散時間における各構造のADCの変化を検討した。

【結果】脈絡叢嚢胞および白質のADCの平均値は、拡散時間35.2msと比較して、拡散時間6.5msで有意に高かった。脳脊髄液のADCの平均値は、拡散時間35.2msと比較して、拡散時間6.5msで有意に低かった。脈絡叢嚢胞のADCの平均値は、拡散時間35.2msと6.5msのいずれの場合も、脳脊髄液より低かった。

【考察】脈絡叢嚢胞におけるADCの拡散時間依存性は、空間的制限拡散を示唆する。短い拡散時間によるADCが脳脊髄液よりも脈絡叢嚢胞で低いのは、空間的制限拡散の存在と嚢胞内の粘度に由来する可能性がある。脈絡叢嚢胞における基質粘度と空間制限拡散のADCへの寄与を区別するには、6.5msより短い拡散時間で検討する必要がある。

研究3短い拡散時間を用いた拡散強調像による高悪性度と低悪性度の脳腫瘍の鑑別

【目的】脳腫瘍は病理組織学的な悪性度や予後などによってWHO分類に基づきgradeⅠ〜Ⅳに分類される低悪性度脳腫瘍(WHO gradeⅠ、Ⅱ)と高悪性度脳腫瘍(WHO gradeⅢ、Ⅳ)を区別するのにOGSE法を用いた異なる拡散時間におけるADCの変化が有用か検討した。

【方法】高悪性度の脳腫瘍11名(WHOgradeⅣ8名、gradeⅢ3名)、低悪性度の脳腫瘍10名(WHOgradeⅡ7名、gradeⅠ3名)を後方視的に評価した。撮像方法は研究2と同様である。拡散時間6.5msのADCmapから拡散時間35.2msのADCmapを減算し、ADC subtraction mapを作成し、ADC subtraction mapにおける腫瘍のROI内の最大値(ΔADCmax)を測定した。低悪性度と高悪性度の脳腫瘍におけるΔADCmaxに違いがあるか比較した。

【結果】高悪性度脳腫瘍は低悪性度脳腫瘍よりも有意にΔADCmaxが高かった。

【考察】6.5〜35.2msにおける拡散時間依存性は低悪性度脳腫瘍よりも高悪性度脳腫瘍のほうが強く、内部組織構造の違いが示唆された。この拡散時間依存性の違いは、脳腫瘍のgrade分類に役立つ可能性がある。

本研究では、拡散時間の短縮が可能となったOscillating gradient spin-echo(OGSE)法を用いた拡散強調像の基礎的検討と臨床応用を試みた。基礎的検討では、等方性拡散アルカンファントムのADCは拡散時間に依存しないことを確認し、アルカンが臨床プロトコルの精度評価に有用な等方性拡散ファントムであることを実証した。臨床応用では、内部構造の推定のために、脈絡叢嚢胞に対し短い拡散時間を用いてADCの変化を評価したところ、ADCの拡散時間依存性を認め、空間的制限拡散の存在が示唆された。また、高悪性度と低悪性度の脳腫瘍に対し短い拡散時間を用いてADCの変化を比較検討したところ、6.5〜35.2msにおける拡散時間依存性は低悪性度脳腫瘍よりも高悪性度脳腫瘍のほうが強く、内部組織構造の違いが示唆された。

しかしながら、臨床MRI装置ではOGSE法による拡散時間の短縮化に限度がある。そのため、ヒトにおけるin vivoの細胞サイズの定量化には至っていない。また、観察された拡散時間依存性が具体的にどのような内部構造から由来しているかはまだ不明確である。in vivoにおける拡散時間依存性の原因として、細胞サイズや細胞内変化だけでなく、細胞外組織や組織自体の不均一性の影響も考えられる。これらの検討には議論の余地があるが、さらなる内部構造の推定には、より短い拡散時間の使用、複数の拡散時間の使用、DTIによる解析を加えることが望ましい。

臨床画像診断において、OGSE法がDWI高信号病変の鑑別診断に寄与するためには、今後さらなるOGSE法による知見を蓄積していくことが望まれる。

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