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大学・研究所にある論文を検索できる 「人工心肺を使用する弁膜症および大動脈手術周術期における血清遊離ヘモグロビン値とハプトグロビン値の術後急性腎障害との関連」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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人工心肺を使用する弁膜症および大動脈手術周術期における血清遊離ヘモグロビン値とハプトグロビン値の術後急性腎障害との関連

法華, 真衣 神戸大学

2022.03.25

概要

[研究背景]
術後急性腎障害は、心臓大血管手術後患者における頻度の高い合併症の1 つであり、長期死亡率増加に関連する。周術期において術後急性腎障害の発生に関連する因子は様々報告されているが、現時点において心臓大血管術後急性腎障害を予防する方法は確立していない。

心臓大血管術後急性腎障害における術中のリスクファクターの1 つに溶血がある。溶血は主に人工心肺の使用や自己血回収装置の使用、赤血球輸血などで生じるとされる。高度の溶血が生じると血液中に過剰な遊離へモグロビンが発生し、術後急性腎障害の発生に関連する可能性がある。従来、溶血が重篤化し溶血尿が生じた場合には、遊離ヘモグロビンと複合体を形成するハプトグロビン製剤投与が行なわれてきた。しかし、溶血尿を確認した時点では既に腎障害が生じている可能性も報告されており、従来の投与方法では術後急性腎障害の予防には不十分である可能性がある。ハプトグロビン製剤投与による心臓大血管術後急性腎障害の予防法の確立のためには、周術期血清遊離へモグロビン値およびハプトグロビン値の推移と術後急性腎障害との関連を検討し、治療介入として最適な血清遊離ヘモグロビン値を明らかにする必要がある。その検証のため、我々は「術後急性腎不全と周術期の血清遊離ヘモグロビンおよびハプトグロビン値の推移に関連がない」との帰無仮説を立て、本研究を計画した。

[方法]
本研究は、神戸大学医学部附属病院倫理委員会の承認を受けた単施設前向き観察研究である。2014年から2020年の間に当院において、人工心肺を使用する心臓大血管定期手術を施行する成人患者を対象とした。術前に血清クレアチニン値が2mg/dl以上の患者や透析患者、下行大動脈に及ぶ手術を受ける患者は除外した。

対象患者の背景や周術期の情報は、電子カルテ、麻酔記録、手術記録より収集した。血清遊離へモグロビン値および血清ハプトグロビン値の測定は、麻酔導入後、人工心肺開始60 分後、120 分後、人工心肺離脱30 分後、120 分後、術後1日目の計6回行なった。

本研究における主要評価項目は術後急性腎障害である。術後急性腎障害の定義は、KDIGO(Kidney Disease: Improving Global Outcomes criteria)分類の定義に従い、 術後 48 時間以内の最大血清クレアチニン値が術前値と比較して0. 3mg/dl以上、あるいは1.5倍以上となった場合とした。

術後急性腎障害を生じた群(AKI群:Acute Kidney Injury)と生じなかった群 (非AKI群)に分け、2つのコホート群の差はMann-Whitney U testもしくは力イニ乗検定を用いて比較した。血清遊離へモグロビン値および血清ハプトグロビン値に関しては、両群の推移をTwo way repeated ANOVAを用いて比較し、 P<0. 05を有意差ありとした。また、血清遊離ヘモグロビン値と術後急性腎障害の関係を受診者動作特性(ROC)曲線解析によるROC曲線下面積(AUC)で解析し、術後急性腎障害の有無に関する血清遊離ヘモグロビン値のカットオフ値の算出を行なった。

急性腎障害のリスク因子を評価するため、AKI群と非AKI群の間で有意差がある変数、血清遊離へモグロビン値の最大値、血清ハプトグロビン値の最小値を独立変数とし、術後急性腎障害の有無を従属変数とした多変量解析を行った。さらに、各測定時点での遊離ヘモグロビン値と血清ハプトグロビン値を独立変数とした場合の多変量解析を行い、各々オッズ比の経時的推移を解析した。

[結果]
対象患者120 名のうち、ハプトグロビン製剤を投与された43 名、術後出血のため再手術となった 2 名、術後 PCPS(Percutaneous cardiopulmonary support)装着を必要とした1名の計46名を除外し、74名を解析対象とした。

対象患者74名の内、25名(33. 8%)で術後急性腎障害が生じた。AKI群(25名)と非AKI群( 49 名) の患者背景の比較において、AKI群は非AKI群より高齢であり(中央値75 (67-83)歳vs 67(62-76)歳,p=0.01)、術前eGFR値が低値であった(中央値 54. 8(45. 3-68. l)ml/min/l. 73m2 vs 65. 7(53. 4-78. 2)ml/min/l. 73m2, p=0.04)。その他、手術術式や輸血総量、人工心肺時間、手術時間などに関しては2群間で有意差は認めなかった。

解析対象患者全体の血清遊離ヘモグロビン値は、人工心肺開始後より上昇し、人工心肺離脱2時間後に最大値となり、術後1日目には術前値程度に低下した。 AKI群における周術期血清遊離ヘモグロビン値は、非AKI群と比較して人工心肺開始後から人工心肺離脱2 時間後までにおいて有意に高かった。またAKI群における血清遊離ヘモグロビン値の最大値(中央値)は0.13(0.12-0.15)g/dlであり、非A K I 群における0.08 (0.06 - 0.11) g / d l と比較して有意に高かった(P<0. 001)。 ROC曲線を作成し、各測定時点での術後急性腎障害を生じる血清遊離ヘモグロビン値のカットオフ値を算出した。人工心肺開始1 時間後の血清遊離へモグロビン値では0.06g/dl、最大血清遊離ヘモグロビン値では0.12g/dlを閾値とすることでROC曲線下面積が最大となった。

解析対象患者全体の血清ハプトグロビン値は麻酔導入後をピークに術後1日目まで徐々に低下した。AKI群における周術期血清ハプトグロビン値は、非AKI群と比較して人工心肺離脱後から術後1日目にかけて有意に低値となった。AKI群における血清ハプトグロビン値の最小値(中央値)は15(8-22)mg/dLであり、非 AKI群の29(12-41)mg/dLと比較して有意に低値であった(p=0.01)。

本研究における多変量解析は、血清遊離へモグロビン値の最大値と血清ハプトグロビン値の最小値および、背景因子のうち有意差が認められた年齢と術前 e GFR値の4 つの独立変数を用いて行ない、血清遊離ヘモグロビン値の最大値が術後急性腎障害の発生に独立して関連していることが示された(Adjusted Odds Ratio 1.33(95%CI:1. 12_1.58),p=0. 01)。

各測定時点における血清遊離へモグロビン値の調整オッズ比を検討したところ、血清遊離へモグロビン値は人工心肺開始1 時間後の測定時点から人工心肺離脱2 時間後の測定時点までの4 時点において、術後急性腎障害の発生と独立した関連を持つことが示された。また、各測定時点における血清ハプトグロビン値を用いた多変量解析のオッズ比の検討では、血清ハプトグロビン値は人工心肺離脱2 時間後と術後1 日目の2 時点において、術後急性腎障害の発生と独立した関連を持つことが示された。

[考察]
本研究では人工心肺を使用する心臓大血管手術患者を対象とし、周術期における血清遊離へモグロビン値およびハプトグロビン値の推移を明らかにした。AKI群においては、血清遊離へモグロビン値の上昇や血清ハプトグロビン値の低下が有意に生じており、術後急性腎障害の発生と関連することが認められた。また、ROC曲線解析では、人工心肺開始1 時間後の血清遊離ヘモグロビン値では0.06g/dl、最大血清遊離ヘモグロビン値では0.12g/dlを閾値とすることでROC曲線下面積が最大となることが示された。

溶血に伴う血清遊離ヘモグロビンの増加要因としては、人工心肺の血液ポンプの使用や回路内の乱流、術野の血液吸引やセルセーバーシステムの使用などによる赤血球の機械的損傷に伴う溶血の促進が考えられる。その他の要因として弁置換後の人工弁周囲逆流(Paravalvular leak: PVL)などもあげられるが、PVLが原因であれば、人工心肺終了後より溶血が生じる可能性が高い。本研究結果における血清遊離ヘモグロビン値は、人工心肺使用中から増加し術後1 日目には減少しているため、PVLによる溶血の影響は少ないと考えられた。

溶血によって生じる遊離へモグロビンは、生理的条件下ではハプトグロビンと結合しハプトグロビン- ヘモグロビン複合体を形成し、肝臓で速やかに代謝される。しかし高度の溶血により内因性ハプトグロビンが枯渇すると、過剰となった遊離ヘモグロビンは一酸化窒素と結合し、メトヘモグロビンを生成する。一酸化窒素は強力な血管拡張作用を有するため、一酸化窒素活性が低下すると、微小血管収縮・微小循環不全の要因となり、腎障害などの臓器障害を引き起こす可能性がある。また、生成されたメトヘモグロビンも尿細管でキャストを形成し、尿細管障害を生じる要因となる。さらに、過剰となった遊離ヘモグロビンは腎尿細管で再吸収され、ヘムや鉄に分解されるが、両者はいずれも強い酸化作用を持ち、腎尿細管上皮に損傷を与えると報告されている。これらの機序により、心臓大血管手術では、術中に生じた溶血による遊離ヘモグロビンの上昇が術後急性腎障 害に関連している可能性が示唆されている。

本研究においても血清遊離ヘモグロビンの上昇が術後急性腎障害と関連することが示されており、その上昇を抑制することが予防効果につながる可能性が示唆された。ハプトグロビン製剤はその作用機序から血清遊離ヘモグロビンの上昇を軽減させ、術後急性腎障害を予防できる可能性があるが、その有効性に関する報告は少なく、最適な投与時期に関する検討も不十分である。本研究結果では、術後急性腎障害を生じるリスクのある血清遊離へモグロビン値のカットオフ値を算出している。今後の研究において、血清遊離へモグロビン値の測定値を参考にした治療介入が術後急性腎障害の予防に有効であるかどうかを検証する必要があると考えた。

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