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大学・研究所にある論文を検索できる 「生存圏研究所ニュースレター「生存圏だより No.23」」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

生存圏研究所ニュースレター「生存圏だより No.23」

「生存圏だより」編集部/広報委員会 京都大学

2023.09.30

概要

Research Institute for Sustainable Humanosphere Newsletter

2

研究トピックス
「未来開拓研究センターからの発信:学際研究について」

3

リサーチ最前線
「絶滅危惧植物ムラサキが紡ぐ文理融合の紫の糸」

4

リサーチ最前線
「大気の研究? それとも、植物の研究?
        いえ、生存圏科学の研究です。」

5

リサーチ最前線 プレスリリース Pick-up

6

2022 〜 2023年度 受賞者
オンライン公開講座報告

7

2022 〜 2023年度 新任教員の紹介
リサーチ最前線 ミッション専攻研究員の紹介

8

23

No.

2023.10

https://www.rish.kyoto-u.ac.jp/

9
10-11
12

退任挨拶
「リグニン、リグナン及び関連化合物の生成と分解」梅澤俊明名誉教授
「退任に際して」大村善治名誉教授
訃報 阿部 賢太郎 先生/追悼シンポジウム/
生存圏フォーラム通信
研究紹介マンガ 生存圏って何?
「日本のオーロラと磁気嵐」
「ひとかけらの木片が教えてくれること 木材×科学×歴史」が
主要新聞4社他で掲載されました
教員が執筆・監修した図書

研究トピックス

未来開拓研究センターからの発信:
学際研究について

センター長 桑島 修一郎 特定教授

京都大学生存圏研究所では、 中
核 研 究 部と並 設されてきた開 放 型
研究推進部及び生存圏学際萌芽研
究センターの体制を見直し、新領域
の開 拓と社 会 への訴 求力を強 化す
るため、2022年 度より生 存 圏 未 来
開拓研究センターへと改組されまし
た。 当年11月より前 任 の 五 十田博
先生を引き継ぎセンター長に就任し
ました。 当センター運営には積極的
に外部の視点を取り込むことが要請
されたこともあり、これまで直接には生存圏研究と関係を有
していなかった立場で参加させてもらうことになりました。
私自身は、国の産業技術・イノベーション政策立案の経験
をもとに、この10年間ほど学内の産官学連携本部において
産学連携を軸とした国家プロジェクト形成を支援する実務を
担ってきました。 特にこの10年間で産学連携の実態は大きく
変わったと感じています。 科学技術によるイノベーションへの
期待から、それまでイノベーションの脇役であった大学が主
役の一人に押し出されるようになりました。 世界的な産業構
造の転換により、企業のニーズが多様化し、大学に対しても
これまでの特定分野における「知」に加え、複合的な「知」に
対するニーズが高まったと言えます。
この複合的な「知」を考える場合に重要となるのが学際研
究です。 生存圏研究所では2004年の設立当初から生存圏
学際萌芽研究センターを設置し積極的に学際研究を推進し
てきました。 その背景には、当研究所の前身である2つの研
究組織、木質科学研究所と宙空電波科学研究センターとの
融合が大きく起因していると言えます。 研究分野が大きく異
なる組織間の融合は容易ではなく、 単に多様な研究者がひ
とつ屋根の下に集うだけでは学際研究を生み出すことになり
ません。 生存圏研究所では、その名の通り、人類の生存範
囲に「圏」の概念を導入することにより、それぞれの研究領
域が対象とする「圏」が明確になると同時に、圏間の境界が
設定できたことが重要であったと考えています。
学際研究における学際性の概念についての研究は欧州を
中心に活発に行われてきた歴史があり、科学技術政策のみ
ならず教育政策にも大きな影響力を持ってきました。日本で
は「学際」の用語で片付けられることが多いですが、 一般的
参画者の
多様度

新たな学問の芽

“生存圏科学”

学問の再構築

な学 際 性の概 念も時 代とともに変 化しており、 例えば、 初
期の形態として、単一学問分野同士が相互乗り入れせずに
境界を接して連携している学際形態(Multi-disciplinarity)
から、 学問分野が相互に乗り入れ共通の研究課題を設定し
て連 携する形 態(Inter-disciplinarity)へ 進 化し、 近 年で
は、 学問分野以外にも社会を構成する多様なステークホル
ダーの知までを含む連 携 形 態(Trans-disciplinarity)にま
で拡張されています。 後者ほど新領域開拓への期待は高く
なりますが同時に難易度も高くなり、 各国とも有効な方法論
を模索している状況と言えます。このような背景を考慮する
と、仮説の域を超えませんが、生存圏研究所は「圏」の導入
によりMulti-disciplinarityを実 現したことが、 次の段 階で
あるInter-disciplinarityとしてのミッション研究体制に進化
することができたのではないかと考えています。 そして、 生
存圏未来開拓研究センターにおいて学際性の概念をTransdisciplinarityにまで拡張させることにより、新たな学問分野
としての生存圏科学の確立にさらに近づくことができるのか
も知れません。
現 在、当センターにはスモールアイランド型の4つの研 究
ユニットが所属しています。 木材科学文理融合ユニットでは、
木への科学的アプローチにより人の営み(歴史・文化・観念)
を描写すること
(木と時間の相互作用)、大気圏森林圏相互
作用ユニットでは、 大気圏と森林圏との研究分野間境界を
精緻に理解すること
(圏間相互作用)、先端計測技術開発ユ
ニットでは、キーテクノロジー(計測技術、 微細気泡)
を軸と
した多分野の集積を制御すること
(多分野間相互作用)、バ
イオマスプロダクトツリー産学連携共同研究ユニットでは、国
の主要な政策にも設定されている木質バイオマスの社会実
装に向けた実効的な解を提供すること
(産官学相互作用)、
をそれぞれ遂行中です。
以 上のように、 生 存 圏 未 来 開 拓 研 究センターでは、 広く
社 会 に 開 か れた 新 たな
学 際 性を探 求する中で、
従 来 の 価 値 観に囚 われ
ない研 究 活 動 のプラット
フォーム形 成を目指すと
同 時 に、 大 命 題 である
生 存 圏 科 学 の 確 立に挑
戦したいと考えています。
Trans-disciplinarity

副センター長
仲井 一志 特定准教授

Inter-disciplinarity

学問以外の要素

Multi-disciplinarity

Discipline
(mono)

ディシプリン思考

脱ディシプリン思考

学問分野の
融合度
T. Ramadier, “Transdisciplinarity and its challenges: the case of urban studies”, Futures 36 (2004)
423-439. を一部参照

2

研究トピックス

2023年6月から副センター
長として仲井一志特 定准教
授が民間企業(ヤマハ株式会
社)
からのクロスアポイントメン
トとして着 任しました。 大 学
教員と企業研究者双方の立
場を同時に有する特殊性を活
かし、イノベーションに向けた
実効的な産学連携のモデル
づくりを行っています。

リサーチ最前線

絶滅危惧植物ムラサキが紡ぐ
文理融合の紫の糸

森林圏遺伝子統御分野 矢﨑 一史 教授

有史以前より人間の生活は、衣食
住 のみならず、生 活 の 質や健 康 維
持などあらゆる面で植物に支えられ
てきました。身近なところでは、食に
使われる香辛料や生薬成分など口に
入れるものから、化粧品や衣類に使
われる色素などがありますが、それ
らはみな二次代謝産物と言われる天
然の化 合 物 群なのです。日本の伝
統文化の中で、
「色」が政治に使われ
た最 初 の 例は、今から1500年 近く
も前の飛鳥時代(538–644)
に聖徳太子が定めた冠位十二階
(604年)
ではないかと思います。 官職の位を冠の色で表した
わけですが、その最上位を象徴する色が「大徳」と言われた
濃紫色です。この色を染めたのが、ムラサキという植物です。
白い花が群がって咲くので「むらさき」と名付けられたとされ、
その根から取れる色を紫色というようになったとされています。
この植物の根が有する色素はシコニンという赤色の代謝産物で、
その色素を熱水で抽出して椿の灰を媒染剤として交互に染め
ることで、美しい紫色を得たのです。この色で染めた布は「禁
色(きんじき)」と言われ、最高位の文官や高僧など、ごく一
部の高貴な人しか身につけることが許されなかった特別な色の
装束となったのです。また、聖武天皇は741年の勅命により
仏教普及のために全国に国分寺を設置しましたが、そこに仏
教の真髄として納められた経典「金光明最上王経(国分寺経)

も、
「紫紙金字」といってこの根で紫に染められた紙に金文字
で経文が書かれています。この経典は現存しており、国宝と
して大切に保管されています。しかし、紫根染めは基本的に
光に脆弱で、日光に当たることで退色してしまうため、濃い紫
色を維持するためには、常に大量の根が必要だったわけです。
そのため、奈良の朝廷は「税」としてこの植物を各地で栽培さ
せ、貢進させていました。その証拠となっているものの1つのが、
大宰府から出土した木簡です。 木簡は奈良時代、物流におけ
る荷札として輸送荷物に付けられ、どこの産地の何であるか、
その量までを書いたタグです。そのため当時の物流の状況を
知る重要な情報源となっていますが、出土する木簡のうち紫
草に関するものが著しく多いことがわかっています。
ムラサキはその後も、江戸時代まで特別な意味を持つ色素
原料として国の伝統文化を支えてきました。 江戸時代の例で
有名なのが、江戸歌舞伎に登場する「助六」です。この役柄
は、自分のシンボルとして必ず頭に紫色のハチマキを巻いてお
り、それが紫根染めなのです。その当時、武蔵野はムラサキ
の一大栽培地であったという記録も残っています。ちなみに、

ムラサキの立ち姿

綾部のムラサキの花

京都の紫根染めを京紫あるいは古代紫と呼ぶのに対し、江戸
の紫根染めは江戸紫と称し、色調が少し異なっていたとされ
ています。さらに紫根染めは東北地方でも盛んにおこなわれ、
岩手の南部地方の南部紫も紫根染めの特産品として有名でし
た。しかし、明治時代になって安価な化学合成の染料が導入
されるに伴い、手間と時間のかかる紫根染めは次第に行われ
なくなり、ムラサキ栽培も廃れていきました。さらに輪をかけて、
環境の変化やキュウリモザイクウイルスなどの病害蔓延の打
撃なども加わり、現在ムラサキは環境省の絶滅危惧植物(IB
類)
に指定されるまで個体数を激減させています。もう一つ厄
介なのは、セイヨウムラサキという頑強な外来種の存在です。
このヨーロッパ由来の外来種はほとんど根にシコニンを有しま
せんが、時折「ムラサキ」の名で種苗会社から販売されていたり、
ムラサキの栽培地であったはずがそこで繁殖しているのが実は
セイヨウムラサキだったという例もあります。 実は、セイヨウム
ラサキはムラサキと染色体数が同じで、両者の交配が危惧さ
れているのです。 雑草化しやすく色素を生産しない西洋種と、
繊細であるがシコニンを作る日本在来種との交雑種が国内に
広まるのは何としても避けねばなりません。こうした背景から、
意識の高い栽培農家からは「日本純系のムラサキであるお墨
付きが欲しい」との声が上がるようになりました。そう言われて
みると日本のムラサキを定義する基準はありません。
私らは、同じ問 題 意 識を持っておられた佐 賀 大 学の岡田
貴裕博士らと共同で、長野県産の栽培ムラサキをはじめ各地
で細々と生き延びているムラサキのゲノムを解析し、それらと
セイヨウムラサキのゲノムを比較することを始めました。 現在
は日本各地のムラサキのサンプルを増やし、共通する遺伝子
配列を特定するとともに、PCRでセイヨウムラサキとの判別が
できるマーカー遺伝子の絞り込みを行っているところです。 幸
いにして、令和5年6月に行ったプレスリリースの波及効果は大
きく、これまで未同定であった地方からも野生ムラサキに関す
る情報が届くようになり、現在このプロジェクトが発展しつつあ
る段階にあります。これが進めば、交雑種の判定が容易にな
るだけでなく、飛鳥時代から人の手で「税として」各地に配布
されたこの特殊な伝統文化植物、ムラサキの旅路を解き明か
すことができるのではないかとも考えている所です。
日本各地のムラサキ株の収集に関しては、天藤製薬(株)、
武田薬品京都薬用植物園、盛岡の草紫堂、岩手県立平舘
高等学校、東近江の農業法人あぐりきっず、など、多くの方々
にご協力いただきました。 深く感謝申し上げます。 本研究は、
京都大学人と社会の未来研究院の文理融合プロジェクトの支
援を得て行なわれました。

ムラサキの赤い根

平舘紫根染め

リサーチ最前線

3

リサーチ最前線

大気の研究? それとも、植物の研究?
いえ、生存圏科学の研究です。

大気圏森林圏相互作用ユニット 髙橋 けんし 教授

2021年の秋、グラスゴーで開催
観察しました。私たちの戦略
された第26回国連気候変動枠組み
でとりわけユニークなのは後
条 約 締 約 国 会 議において、 世 界の
者 の 活 用です。 cryo-SEM
メタン排 出 量を2030年までに20年
は水を含んだ生物試料の観
比で3割減らすことを目指す “グロー
察に威力を発 揮します。 観
バル・メタン・プレッジ” が発 足し、
察の結 果、 ハンノキの細 根
世界の100を超える国・地域が参加
の細胞および細胞組織の間
を表 明しました。 報 道でも取り上げ
に、 多 数 の“隙 間”を発 見し
られたので、ご存じの方も多いので
ました
( 図2)。 この 隙 間は、
はないでしょうか。
メタンが気体のまま移動でき
大 気 中 のメタン濃 度は、 人 為 的
る通路の一つになっているよ
な排 出と自然 起 源の放 出の双 方か
うです。 言うなれば、 根か
ら影響を受けます。自然の最大のメタン発生源は湿地です。
ら幹へとメタンガスが輸送さ
湿地のような嫌気的環境にある土壌にはメタン生成細菌が
れる“パイプライン”というイ
棲んでおり、それゆえ、土壌表面や沼地などからメタンが発
メージです。 これは従 来 の
生します。ところが近年、ある種の湿地性樹木から、これま
仮説を裏付ける解剖学的証
で知られていなかったほどの大量のメタンが大気中へと放出
拠であると考えています。一
図1 ハ ンノキの幹からメタンが発
されているという報告が相次ぎ、 気候科学や植物学の分野
般に植 物には、 道 管という
生する量を測定するために、
で大きな論争が巻き起こっています。 本当に樹木からメタン
養水分(樹液流とよばれてい
チャンバーとよばれる密閉容
が出ているのか?  もし出ているならば、その量はどのくらいな
る)を運ぶパイプが存 在しま
器を取り付けた様子。
のか? また、樹木からメタンが放出されるなら、どのようなメ
すが、 今 回 発 見したパイプ
カニズムなのか? こうした疑問に答えるため、 私たちは代表
ラインは道管のように養水分
を研究対
的な湿地性樹木であるハンノキ(Alnus japonica )
で満たされておらず、ガスの輸送に適した空洞の状態になっ
象に選び、野外調査と室内実験を行っています。
ていることが分かりました。 ただし、これですべての疑問が
私たちの野外調査地は、京都大学桐生水文試験地(滋賀
解決したわけではありません。 例えば、細根の“パイプライン”
県大津市)の渓畔湿地です。 私たちはまず、「ハンノキの樹
は、根から幹へとどのようにつながっていくのか? また、幹ま
幹からメタンガスが出ているのか?」を調べるため、大気汚染
で通じたパイプラインは、いったいどこで“ガス漏れ”を起こし、
物質の超高感度分析技術の一つである半導体レーザー分光
幹から大気中へとメタンガスを放出しているのか? こうしたミ
法を樹木の計測へ応用しました。 通常、 大気濃度レベルの
クロな世界の謎解きは、地球温暖化というグローバルな問題
メタン検出には、ガスクロマトグラフィー(GC)
とよばれる分
にも関わっているのです。
析装置が用いられます。しかしながら、GCは人手による操
最後に、エピソード的な話へ脱線します。 ハンノキの幹か
作が基本であり、また、 森林のような野外環境での安定的
らメタンが出ていることを確信した直後から、 私は「どうやっ
な動作制御には困難を伴います。 一方、半導体レーザー分
て幹からメタンが出てくるのか? 」ということばかり考えていま
光法はリアルタイムな計測を無人で安定的に行えるという利
した。もう、気になってしまってしかたがありません。そしてと
点があります。 昼夜を問わず、 天候にも左右されず、 野外
うとう、生存圏研究所の今井友也先生のところへ押し掛けて
での実験が可能です(図1)。 その結果、 複数のハンノキ個
しまいました。 今井先生は私のようなずぶの素人のいうこと
体の幹からメタンが放出されており、その放出量は晩夏に最
にも真摯に耳を傾けてくださり、そのうえで、農学研究科(当
大、 晩冬に最小となる季節変化を示すことが分かりました。
時)の松村康生先生(現・生存研特任教授)が管理されてい
さらに、春から秋にかけての着葉期間に限り、メタンの放出
るcryo-SEMを使ってハンノキの細根を調べることを提案して
量が昼間に増え、夜間に減るという日変化を示すことも突き
くださいました。 私自身は大気化学をバックグラウンドにして
止めました。
いますので、 今井先生が提案されたような実験は絶対に思
次に私たちは、「ハンノキからメタンが放出されるのはなぜ
いつかなかったと思います。この研究成果は、大気100%で
か?」を探る実験に挑みました。 実は、湿地性樹木が水気の
もなく、 植 物100%でもない、 真に学 際 的な生 存 圏 科 学の
過剰な環境でも自生できる理由の一つは、 樹皮を介して空
成果です。
気中の酸素を根へと送り届ける機能が備わって
いるからだと考えられています。 その酸素の通
り道を伝って、 土壌中でメタン生成細菌が作り
だしたメタンガスが、 根から幹へ、 幹から空気
中へと拡散輸送されているという仮説が提唱さ
れていました。 私たちは、その仮説の妥当性を
ハンノキで調べようと考えました。まず、ハンノ
キの根 元の土壌を掘り、 細根を採取しました。
細根は樹木の根系の先端部にある文字通り細
い根で、 土 壌から水 分や養 分を吸 収するとい
う樹木にとって重要な機能を有しています。 採
図2 ハンノキの細根を採取したサンプル(A)と、光学顕微鏡(B)とcryo-SEM(C)を用いてサンプ
取した細根を実 験 室へ持ち帰り、 光 学 顕 微 鏡
ルを観察した事例。光学顕微鏡で観察するためには、事前に試薬を用いて染色しているので、
とクライオ走 査 型 電 子 顕 微 鏡(cryo-SEM)と
写真で見えている色は、実際の根の色とは異なる。cryo-SEMを使うと、光学顕微鏡では見え
よばれる2種 類 の 顕 微 鏡を用いて細 胞 組 織を
にくい細かい構造や養水分の有無などを判別できる。

4

リサーチ最前線

リサーチ最前線

プレスリリース Pick-up

ダイズ根圏へのイソフラボン供給量を増やす酵素を発見

〜植物が機能性成分を根から土壌へ分泌するメカニズムの理解に貢献〜
森林圏遺伝子統御分野 杉山 暁史 准教授

杉山 暁史准教授らの研究グループは、ダイズの根に存在する酵
素の、ダイズ根圏(植物の根から影響を受ける根のすぐ近くの土壌)
へのイソフラボン類の分泌関与を明らかにしました。ダイズの根の細
胞の中では、大部分のイソフラボン類は配糖体として存在します。こ
のイソフラボン配糖体を根圏で機能する形態である非配糖体(アグリ
コン)
に変換するICHG酵素に着目し、実験を行った結果、ICHG酵
素の働きによりダイズ根圏へのイソフラボン類の供給量が増加するこ
とが明らかになりました。 植物が細胞内で生産した代謝物を根外へ
分泌するメカニズムの一端を明らかにしたものであり、植物根圏で機
能する有用物質を農業へ活用する研究につながります。
2023年1月31日に、国際学術誌「Plant and Cell Physiology」
に掲載されました。

宇宙空間で電子から電波へのエネルギー
手渡しを直接捉えることに成功

生存科学計算機実験分野 大村 善治 教授
宇宙圏電磁環境探査分野 小嶋 浩嗣 教授

大村 善治教授、小嶋 浩嗣教授ら国際研究グループは、米国の
Magnetospheric Multiscale(MMS)編隊衛星による観測から、宇
宙空間で「電子」が「電波」にエネルギーを手渡ししている現場を捉え、
その理論の実証に成功しました。このようなエネルギーの移動を宇宙
空間において直接捉えたのは初めてで、今後、この観測手法により、
宇宙空間での「粒子加速」や「電波の発生メカニズム」について理解
の進展が期待されます。
2022年10月28日に、科 学 誌「Nature Communications」に掲
載されました。

磁場(紫)に沿って伝わる電波(水色)とすれ違う電子(赤)のイメージ。このすれ違う過程で、
エネルギーが電子から電波へ受け渡される(提供:東京大学)

完全ワイヤレス社会の実現に向け、ミリ波の通信装置にワイヤレス
電力伝送機能を実装したシステムの開発と実験に成功

気温ラマンライダー用の多波長分光検出器を開発

〜気温・水蒸気量をいつでも安定に同時計測し、線状降水帯などの豪雨予測への貢献を期待〜

生存圏電波応用分野 篠原 真毅 教授

篠 原 真 毅 教 授、ソフトバンク株 式 会 社、金 沢 工 業 大 学らの 研
究グループは、国 立 研 究 開 発 法 人 情 報 通 信 研 究 機 構(NICT)の
「Beyond 5G研究開発促進事業」に係る令和3年度新規委託研究
の公募(第1回)
で採択された「完全ワイヤレス社会実現を目指したワ
イヤレス電力伝送の高周波化および通信との融合技術」に関する共
同研究として、完全ワイヤレス社会の実現に向けて、ミリ波の通信装
置にワイヤレス電力伝送の機能を実装したシステムの開発と実験に成
功しました。
2022年10月7日にプレスリリースを行い、20社以上のメディアに取
り上げられました。

大気圏精測診断分野 矢吹 正教 特任准教授

矢吹 正教特任准教授、英弘精機株式会社の研究グループは、
深紫外波長のレーザー光を用いて気温の高度分布を計測するラマン
ライダー用の迷光の少ない多波長分光検出器を共同開発しました。
先行して開発された水蒸気量の高度分布を計測するラマンライダー
に追加することで、気温・水蒸気量を昼夜問わず安定に同時計測す
ることが可能となり、線状降水帯や局所的な豪雨などの予測精度向
上に寄与できると期待されます。 近年、全国各地で水災害の激甚化
が深刻な問題となっており、気象予報精度をさらに向上できれば被
害低減にもつながります。
2022年12月16日にアメリカ地球物理学連合秋季大会(AGU Fall
Meeting 2022)
にて、発表を行いました。 ...

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