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養護教諭の職務上の悩みに関する研究

浦口, 真奈美 筑波大学

2023.09.04

概要

【博士論文概要】

養護教諭の職務上の悩みに関する研究
2022 年度
浦口

真奈美

筑波大学大学院 人間総合科学研究科
生涯発達科学専攻

本研究は,養護教諭の職務上の悩みを明らかにすることを目的とした。第Ⅰ部理論
的検討(第1,2,3章)では,先行研究を紹介し問題点等を整理し,第4章の目的を
導いた。第Ⅱ部実証的検討(第5,6,7,8章)では養護教諭の職務上の悩みを実証
的に検討した。第Ⅲ部総合考察(第10,11章)では,研究全体および課題等が考察
された。
第5章では職務上の悩みの前提となる,職務の現状を職務行動および職務認知の観点
から検討することを目的とした。職務行動は,研究 1 において養護教諭 6 名に対し,タ
イムスタディ法により職務実態を検討し,養護教諭は学校内外で幅広く職務を展開して
おり,ほぼ 1 人配置であることから職務上の悩みが生じやすいことが示唆された。研究
2 では,研究 1 の結果をもとに,養護教諭 346 名に対し,質問紙法により,各職務への
重要度の認知を測定した。「ヘルスリーダーとしての関わり」,「児童・生徒個人への関
わり」,
「教職員自身への関わり」,
「開かれた保健室の雰囲気づくり」の 4 因子構造であ
り,果たすべき役割をほぼ網羅していた。一方,教職員の心身への支援は,校種,経験
年数との関連は示されなかったことが示唆された。
以上から第5章において,職務上の悩みが生じやすい職務の実態,各職務への重要度
認知が確認された。
第6章では,養護教諭の職務上の悩みについて,時代による変化,および現代の悩み
の構造を検討することを目的とした。研究 3 にて養護教諭 10 名に対する自由記述の質
問紙法により,また研究 3 の約 10 年後に実施された研究 4 にて養護教諭 22 名に対する
半構造化面室法により,近年の職務上の悩みを探索的に収集した。研究 4 では,研究 3
と研究 4 および先行研究の,合わせて 7 個の研究をもとに,1989 年から 2020 年までに
収集された職務上の悩みの年度比較を行った。共通して見出されたのは,主に一般教員
との連携の悩みと保健医療の専門的力量の悩みであった。近年では新たに,養護教諭の
1

複数体制に関わる悩み,前任者からの不十分な引継ぎに関わる悩みが確認された。
研究 5 では,養護教諭 346 名に対し,研究 3 および先行研究から作成された質問項目
を用いた質問紙法により,現代の養護教諭の職務上の悩みが「多忙感」,
「意欲の低さ」

「専門性への理解の低さ」,
「人間関係の悪さ」,
「力量不足感」のの 5 因子構造であるこ
とが示唆された。「多忙感」と「力量不足感」は経験年数による差がみられたが,連携
に関連する「専門性の理解の低さ」と「人間関係の悪さ」は,校種や児童生徒数,問題
状況,経験年数等とは明確な関連が示されなかった。
以上から第6章において,連携の悩みと保健医療の力量の悩みが,質的調査でも量的
調査でも,また時代を超えても,職務上の悩みのテーマでもあることが確認された。
第7章では,職務上の悩みの関連要因について,職場環境と動機づけの観点から検討
することを目的とした。職場環境については,研究 6 において,養護教諭等 6 名を対象
に,半構造化面接により,養護教諭が職務遂行に関わると認知する職場環境を探索的に
検討した。その結果,連携体制や教職員との関係性が職務に関わる環境要因として認知
され,連携や関係性の悩みを生じさせていた。研究 7 では,一般教員と養護教諭の 38
名を対象にした自由記述の質問紙法により,一般教員の養護教諭への認知を,養護教諭
の職務上の悩みに対する各立場の差異から検討した結果,連携の悩みは共通課題にはな
りにくいことが示唆された。
研究 8 と研究 9 では,動機づけに着目し,養護教諭の連携への動機づけについて検討
した。研究 8 では,養護教諭 10 名に対し,自由記述による質問紙法を用い,職務への
動機づけを探索的に検討し,自己決定理論(Deci & Ryan,2000)に基づき,連携動機づけ
の質問項目を作成した。研究 9 では,養護教諭 346 名に対し,研究 8 で作成した質問項
目を用いた質問紙法により,連携動機づけの構造を検討した。その結果,養護教諭の連
携動機づけは,「子どもや関係者への関心」,「規範意識」,「立場安定希求」,「連携への
関心」の 4 因子構造であることが示唆されたが,自己決定理論が前提とするシンプレッ
クス構造は確認されなかった。また,調査対象の養護教諭は「低動機づけ群」,
「非連携
関心型自律的動機づけ群」,
「連携関心型自律的動機づけ群」,
「他律的動機づけ群」の 4
群に分類された。最も他律的な動機づけ群において,職務行動が活性化している可能性
が示唆された。
以上から第7章において,職務上の悩みには職場環境と連携動機づけの関連が確認さ
れた。特に連携動機づけの検討において自己決定理論の前提とは異なる結果が得られた
背景には,文化的背景の影響が考えられた。同時に,本研究では,職務上の悩みが,他
律的動機づけ群においては,解決を目指した課題として積極的に意味づけられている可
能性が考えられた。
最後に,第8章では,養護教諭の職務上の悩みを軽減する方策および保健活動との関
連を検討することを目的とした。先行研究で養護教諭の職務効力感は経験年数により高
まることが示され,経験を重ねることで職務上の工夫として何らかの対処を行っている
ことが考えられた。そのため,研究 10 では,養護教諭 22 名に対し,半構造化面接によ
2

り,養護教諭が職務上の悩みへの直面や経験を通して獲得した,職務上の工夫を探索的
に検討した。その結果,子どもに対して,「保健医療の専門性の高いケアを提供するた
めの工夫」,
「子どもとの関係を作りニーズを捉えるための工夫」

「子どもの課題解決力
を高める工夫」を行っていた。教職員へは,「学校全体の保健活動レベルを向上させる
ための工夫」,
「教職員と円滑な連携関係を作るための工夫」,
「組織内の自身の立場を活
かし連携するための工夫」を行っていた。また少数専門職として,「養護教諭自身の精
神的な安定のための内的な工夫」,「職務上の悩みに伴う負担感への行動レベルの工夫」
を行っていた。広範囲にわたる職務に対し工夫していることが示唆された。
これらの職務上の工夫が養護教諭個人で完結するものか,または学校保健活動の推進
と関連するか検討する必要性が考えられた。そのために,研究 11 において,管理職 6
名に対し,半構造化面接により,管理職が認知する学校保健活動を推進する力量のある
養護教諭の職務行動や職務態度を特定し,研究 10 で得られた職務上の工夫との関係性
を検討した。その結果,管理職はほぼ共通して「養護教諭としての職務や保健室運営が
できる」

「疾患等の判断や処置,対象に適切に対応できる」,
「教職員や専門職と適切に
連携できる」,
「集団の健康課題への保健活動を実施できる」,
「教員として自律的に取り
組める」養護教諭を力量があると捉えていることが確認された。さらに,これらの力量
を示す職務行動および態度と,研究 10 で収集した職務上の工夫とを比較した結果,概
ね一致した。すなわち職務上の工夫が学校保健活動の推進に寄与することが示唆された。
第9章の総合考察においては,実証的検討の各章ごとの考察および職務上の工夫が職
務上の悩みを軽減する可能性についての考察を通じ,主に 3 点について考察した。第 1
に,一般教員との連携の悩みは,職務実態や職務重要度でも確認された,養護教諭によ
る一般教員への援助行動が影響する可能性についてである。一般教員との連携関係に加
え,養護教諭による一般教員への援助行動は,専門職役割と保護役割の多重役割を生じ
させる。連携場面での専門的態度と,援助関係での保護的態度は,養護教諭に役割葛藤
を生じさせる可能性がある。関係性維持のため,一般教員への保護役割が優先された場
合は,専門性が発揮しづらくなり連携の悩みが生じる可能性がある。
また研究 10 の半構造化面接で,
「一般教員に職務を認められないのは,教員としての
歴史が浅いから仕方ない」や,「担任が元気であれば子どもへの対応も良くなるだろう
から,担任の健康を支援する」といった発言があった。これらから関係性に対する諦め
や専門性とは異なる役割を担っていることが伺われる。養護教諭の不全感は,個人の力
量や資質,校内の体制や関係性のほか,教育現場における価値観や役割のヒエラルキー
等の要因の影響も考えられ,これら含めた検討の必要性が考えられた。
第 2 に,職務上の工夫は保健活動を推進し,職務上の悩みを軽減させる可能性につい
てである。職務上の工夫は事例性が高いものもあり,これまで個人内あるいは小集団内
での共有にとどまってきた可能性がある,今後職能団体としてのスキルとして確立して
いく必要性があると考えられた。
第 3 に,日本の養護教諭の職務上の悩みを検討する際には,個人の文化的志向性を考
3

慮する必要性がある点についてである。本研究における自己決定理論は,理論上は職務
上の悩みや職務行動は自律性に依存し,介入が可能であることから採用した経緯がある。
しかし本調査においては,他律性の高まりが必ずしも職務行動を低下させないことが示
唆された。今後は文化的影響の背景も含めた検討の必要性が考えられた。
今後,これらの必要な検討および本研究の問題を踏まえ,養護教諭の専門性の更なる
明確化,それらをもとにした現職者や養成課程に向けた教育プログラムの開発,現職者
へのサポート体制の構築,個人の専門性や専門分野を客観的把握できる仕組みの創設,
さらに一般教員をはじめとする関係者間の連携促進のための相互理解の機会の提供等
の対策が考えられる。これらの対策をとおして,養護教諭が専門職として,学校保健活
動を自律的に推進にする力量が高まることが期待できる。 ...

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