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大学・研究所にある論文を検索できる 「訪問看護におけるケアリングの相互性―心理的困難に対する継承的捉え直しの観点から―」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

訪問看護におけるケアリングの相互性―心理的困難に対する継承的捉え直しの観点から―

平野, 智子 筑波大学

2023.09.04

概要

【博士論文概要】
訪問看護におけるケアリングの相互性
―心理的困難に対する継承的捉え直しの観点から―
2022 年度
202040454
筑波大学大学院

平野

智子

人間総合科学学術院

人間総合科学研究群

カウンセリング科学学位プログラム

近年,我が国での急激な高齢化に伴い,医療や介護をはじめ,予防や住まい,そして生活
支援福祉までの各種サービスを一体化した地域包括ケアシステムの基盤を整理することが
急務とされ,在宅での医療を推進する流れが強まっている。こうした流れを背景として,地
域包括ケアシステムの中心的担い手として訪問看護師に対する期待と需要が高まっている
が,
訪問看護師として勤務する人材の不足や離職に関する課題も報告されている
(第 1 章)

訪問看護師を対象とした先行研究の概観を通して,訪問看護における支援においては
様々な心理的困難が伴い,心身両面に対しネガティブな影響を及ぼすことを示す知見が蓄
積されていることが確認された(第 2 章)
。これらを踏まえると,支援に伴う心理的困難を
経験しつつも,どのように支援業務を継続していくことができるかという点が重要な問題
となる。この問いに関して本博士論文では,看護師が利用者を支援することは相互的な行為
であると考えるケアリングの相互性(Mayeroff,1971)に関する議論および心理学領域にお
けるネガティブ感情体験に関する感情制御に関する知見に基づき,訪問看護師が利用者を
支援する際に様々な心理的困難を経験したとしても,それらの経験に対し認知的再評価を
行うことで,看護師自らもまた「利用者の支援を通して,自分も受け取っているものがある」
というようにポジティブな意味を見出しケアリングの相互性の実感を得ることで,支援を
継続する上で必要な心理的状態を得ている可能性を想定した。そして,これを実証的に検討
することを本博士論文における中核的な目的とした(第 3 章)

まず,訪問看護師が経験する心理的困難およびケアリングの相互性の実感がどのような
内容であるかについて探索的に検討した(第 4 章)
。まず研究1においては,心理的困難に
関する検討に先立ち,訪問看護業務の実態を明らかにするために,訪問看護ステーションの
営業時間外対応について事例データを収集し,分類を行った。その結果,深刻な病状に対し,
医師不在の中にもかかわらず重要な判断が訪問看護師に委ねられることによる重大なプレ
ッシャーを経験するなど,多岐にわたる心理的困難が経験されていることが示唆された。そ
して研究 2, 3 を通して,訪問看護師は,
「後悔」
「無力感」
「悲嘆」
「迷い」など,様々な心
理的困難に直面しながらも支援にあたっている様子が示された。特に「利用者からの否定」
「責任の重さ」
「不安・戸惑い」なども経験されている可能性が示され,これらは訪問看護
師の離職率を高める一因にもなっている可能性も推察される。しかし訪問看護師は,心理的

困難を経験していると同時に,ケアリングの相互性を多方面から実感していることも明ら
かになった。利用者への支援を通して「感謝や思いやりの言葉」を受け取りながら,自身の
看護師としての「成長の実感」や「達成感」などを実感していること,ひいては,利用者の
人生や人柄に触れる中で,看護師自身が死や生の意味を考える機会に繋がっていることな
どが示された。すなわち Mayeroff(1971)などが示すように,利用者を支援する過程の中
で,訪問看護師自身もまたその支援を通して癒しや気づきを得ており,自らの存在が支えら
れているという実感にも結び付いている可能性が示唆された。さらに手記分析およびイン
タビュー分析からは,利用者の支援における心理的困難とケアリングの相互性の実感の両
者は共起しやすく,さらにその両者をつなぐ要因として継承的な視点からの捉え直しが介
在している可能性が推察された。
これらの結果に基づき,訪問看護師は支援時に様々な心理的困難に直面しているものの,
その心理的困難に対し,継承的な視点から捉え直すことで,ケアリングの相互性の実感を得
るという心理過程を想定したうえで調査を実施し,検証を行った(第 5 章)
。研究 4 では訪
問看護師を対象に質問紙調査を行い,心理的困難およびケアリングの相互性について因子
分析を通して整理しながら,共分散構造分析による検討により上記の仮説モデルが支持さ
れうることを示した。その際,心理的困難からケアリングの相互性へと至るまでの過程にお
いて,
「未来に向けた継承的捉え直し」が有効に機能し得ることも示された。さらに研究 5
として行った調査からは,ケアリングの相互性の実感を通して,自身の看護師としてのあり
方についての自信とアイデンティティの確信を抱くことが,日々の支援業務に対するワー
クエンゲージメントの促進や,看護師としての専門性・技術・質の向上を志すような取り組
みの促進にもつながることを明らかにした。
ここまでに得られた知見に基づき,実際に心理的困難を経験している訪問看護師に対し,
電子メールを用いて,未来に向けた継承的捉え直しを促す介入を行い,その効果を検討した
(第 6 章)
。研究 6,7 として介入群と対照群を設けた検証を行った結果,介入群でのみ,ケ
アリングの相互性の実感が多岐にわたって実感されており,さらに訪問看護師としての勤
務継続意思や看護観の確立にも肯定的な影響を及ぼすことが示された。このように,外部か
ら介入を行うことによっても,未来に向けた継承的捉え直しを促進することは可能である
ことも示唆された。
さらに,一連の研究を通して効果の確認された未来に向けた継承的捉え直しが,コロナ禍
という平時とは異なる状況下においても効果をもたらすのかについて検討した(第 7 章)

研究 8 からは,訪問看護師は昨今のコロナ禍の中で,感染の恐怖や業務の試行錯誤など多岐
に渡る困難を経験しつつも,同時にポジティブな視点からもこの状況を捉え直している可
能性が推察された。この結果を踏まえて研究 9 では,コロナ禍における心理的困難に対し,
未来に向けた継承的捉え直しがポジティブな効果を持つのかについて検討するとともに,
その効果が長期にわたって続くコロナ禍のなかでも効果をもつのかについて検討するため
に,訪問看護師に対し,コロナ禍以前から禍中に及ぶ 3 波の縦断的調査を行った。その結

果,コロナ禍における心理的困難は,訪問看護師の精神的健康の悪化をもたらしていたが,
コロナ禍中においても,未来に向けた継承的捉え直しがなされている場合,精神的健康にポ
ジティブな影響をもたらしている可能性が示された。その意味で本研究から明らかとなっ
た未来に向けた継承的捉え直しは,コロナ禍という非常事態においても訪問看護師のメン
タルヘルスの維持にも寄与し得ると考えられる。
さらに,各地域の訪問看護ステーションでの業務体制やコミュニケーションの実態につ
いて把握しながら,未来に向けた継承的捉え直しの促進に寄与している職場内要因につい
ても検討した(第 8 章)
。研究 10 として,未来に向けた継承的捉え直しを経験したエピソー
ドについて尋ねつつ,そのきっかけとなった要因について抽出し,整理を試みた。その結果,
個人の思考だけでなく,職場内での他者とのやり取りやコミュニケーションを経た気づき
などからも,未来に向けた継承的捉え直しがもたらされていることが示唆された。さらに,
研究 11 では,職場内のスタッフ間での連携や相互支援がなされているなど職員個々の自律
性を尊重する職場であるほど,職員個々の持つコーピングが十全に発揮され,最終的に継承
的捉え直しが促進されやすいことも示された。ここで,研究 4, 5 からは,継承的捉え直し
およびケアリングの相互性の実感によって看護観の確立が促されるとともに,それが周囲
のスタッフへの支援や連携を行おうとする姿勢にも結びついていたことも総合して考察す
ると,訪問看護師が,未来に向けた継承的捉え直しを行いケアリングの相互性の実感を得る
ことで,最終的に周囲のスタッフへの支援や連携にもつながり,それが職場内の雰囲気の改
善を通して,さらに他の訪問看護師の継承的捉え直しやケアリングの相互性の実感にも結
びつくという循環的な影響過程が存在する可能性も想定された。
以上の結果を集約し,総合考察を行った(第 9 章)
。本研究で着目してきたケアリングの
相互性の実感は,利用者への支援に伴う様々な心理的困難からの回復を支えるものとなる
ばかりか,訪問看護師としての自信やアイデンティティの確信をもたらし,その後の安定的
な業務継続や人材定着にも寄与する可能性が考えられる。さらにその効果は,未来に向けた
継承的捉え直しによって支えられていると同時に,その捉え直しは訪問看護師個人の心理
的変化に留まらず,その後の支援業務への積極的な取り組みや,自身が行う看護の質向上に
向けた研鑽,そして周囲・地域・他組織への積極的関与にも結びつき,個人内に留まらない
波及効果を地域在宅看護にもたらすことが示唆された。さらにそうした過程は,利用者との
間でも,他の訪問看護師および職場との間でも循環的に影響しあいながらより強められて
いくことも推察された。本博士論文では,これらのプロセスを総括し,
「ケアリングの相互
性と継承性の循環的影響モデル」として提唱し,詳細についての説明を行った。
そして,本研究から得られた知見について,学術的側面と実践的側面からその意義を論じ
るとともに,今後の課題についても考察した。 ...

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