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大学・研究所にある論文を検索できる 「大臼歯CAD/CAMレジン冠における失敗要因の統計学的解析 -後ろ向きコホート研究-」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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大臼歯CAD/CAMレジン冠における失敗要因の統計学的解析 -後ろ向きコホート研究-

伴, 晋太朗 大阪大学

2022.03.24

概要

【目的】
 Computer-aided design/Computer-aided manufacturing(以下CAD/CAM))の技術が進歩し,わが国では2014年より高度に重合したレジンブロックから製作されるCAD/CAMレジン冠が保険導入された.これにより審美性が高く,かつ高強度のメタルフリー歯冠修復が広く普及することとなった.先に保険適応となった小臼歯に対するCAD/CAMレジン冠については,装着直後における冠脱離が他の歯冠補綴装置と比較して多いことが報告されている.このCAD/CAMレジン冠は,2017年より大臼歯部においても保険適応となったが,大臼歯CAD/CAMレジン冠の予後に関する報告は十分とは言い難く,詳細な臨床研究結果は報告されていないのが現状である.
 本研究では,大阪大学歯学部附属病院口腔補綴科にて装着された大臼歯CAD/CAMレジン冠の臨床経過を後ろ向きに調査した.さらに,記録されている三次元デジタルデータを活用し,冠,および支台歯の形態的要因が大臼歯CAD/CAMレジン冠のトラブルに及ぼす影響を統計学的に解析した.

【方法】1.大臼歯CAD/CAMレジン冠の臨床経過調査とその統計学的解析
 研究対象の選択基準は,大阪大学歯学部附属病院口腔補綴科において,2017年12月から2021年3月の間に製作されたすべてのCAD/CAMレジン冠とした.除外基準は,1)装着後の経過が確認されていないもの,2)ブラスト処理あるいはシラン処理が行われていないものとし,観察打ち切りは2021年6月とした.診療録から患者の年齢,性別,装着部位,最後方臼歯か否か,装着用材料の種類,支台歯処理の有無と種類,支台築造の有無と種額,イベントの発生の有無と種類を調査した.診療録で不明な点はエックス線写真の閲覧や主治医への問い合わせを行った.レジンブロックの種類は技工台帳から確認した.アウトカムは冠の生存とし,非生存となったイベント(脱離,冠破折,その他)を確認した.
 カプランマイヤー法を用いて生存曲線を作成し,累積生存率,累積成功率を算出した.また,ログランク検定を用いて調査した各項目における生存曲線間の統計学的な差を確認した.さらに,多変量解析としてコックス比例ハザードモデルを用いて材料についてそれぞれの因子が相互に及ぼす影響を調整して検討した.複数の装置を装着した患者を含むため,データのクラスターを考慮し,マルチレベル分析を用いた.有意水準は5%とし,解析ソフトウェアは,Rx64Ver.4.0.5を使用した.

2.三次元デジタルデータ分析ならびにその統計学的解析
 臨床経過調査で得られた情報をもとに,CADソフトウヱアから冠,および支台歯の三次元デジタルデータを抽出し,①支台歯高径,②テーパー度(近遠心,頰舌),④冠咬合面の厚み,③冠マージン部の厚み,および⑤支台歯表面積の冠脱離に対する影響について多変量解析を用いて検討した.それぞれの因子は以下のとおり三次元デジタルデータから計測した.
 ①支台歯高径:二次元デジタルデータに記録されている咬合平面を基準とし,フィニッシュラインの最も低い部分から支台歯の最も高い部分までの垂直的距離
 ②テーパー度:支台歯の近遠心,頰舌断面における対向する軸面に接線を引きなす角の総和(ただし,2面形成の場合は1面目の接線を採用)
 ③冠咬合面の厚さ:近遠心,頰舌断面における冠咬合面の最も薄い部分の距離
 ④冠マージン部の厚さ:支台歯軸面の1面目から歯頸側に向かって傾きが変化する点とフィニッシュラインとの水平的な距離
 ⑤支台歯表面積:支台歯データのフィニッシュラインより歯冠側部分の表面積

 各因子間の相関分析にはスピアマンの順位相関係数,多変量解析としてコックス比例ハザードモデル用いた.さらに,装着用材料と形態的要因の関係を検討するため,非線形回帰曲線を描記し,曲線間のコントラストを確認した.母集団におけるテーパー度,支台歯高径,支台歯表面積,冠咬合面の厚みの分布から,25%,50%,75%点における装着用材料ごとの対数ハザードを推定し,有意差検定を行った.多変量解析についてはマルチレベル分析を用いた.有意水準は5%とし,解析ソフトウェアは,Rx64Ver.4.0.5を使用した.
 本研究は,大阪大学大学院歯学研究科・歯学部及び歯学部附属病院倫理審査委員会の承認を得て行った(Rl-El).

【結果および考察】
1. 大臼歯CAD/CAMレジン冠の臨床経過調査とその統計学的解析
 調査期間内にCAD/CAMレジン冠が装着された患者は101名(男性8名,女性93名,平均年齢49.8土12.1歳),117装置であった.冠装着から調査までの期間は,平均16.2±10.8か月であり,この間に16装置にイベントを認めた.内訳は,脱離が14装置,冠破折が1装置,歯根破折が1装置であった.カプランマイヤー法を用いて母集団の生存曲線を描記した結果,最長観察期間1281日(3年6か月)の累積成功率は83.3%,累積生存率は95.5%となった.
 装着用材料とレジンブロックの種類を説明変数とした多変量解析の結果,装着用材料に有意差を認めた(SAルーティング/パナビアV5; P<0.001,スーパーボンド/パナビアV5; P<0.001).レジンブロックの種類には有意差を認めなかった(カタナアベンシアPブロック/セラスマート300; P=0.55,松風ブロックHCスーパーハード/セラスマート300; P=0.06).

2. 三次元デジタルデータ分析ならびにその統計学的解析
 三次元デジタルデータが破棄されているものや破損しているものを除外した結果,103装置のデータが抽出された(脱離あり群;14/14装置,脱離なし群89/103装置).スピアマンの順位相関係数より,支台歯表面積と支台歯高径に強い相関を認めたため,支台歯表面積と支台歯高径を分けて多変量解析を行った.その結果,支台歯表面積(P=0.002),冠咬合面の厚さ(P=0.003),頰舌テーパー度(P=0.017)が脱離に対し有意に影響していることが明らかとなった.また,支台歯高径を解析に含めた場合は,支台歯高径(P<0.001),冠咬合面の厚さ(P=0.003),頰舌テーパー度(P=0.004)が脱離の発生に有意に影響していた.冠,支台歯の各パラメー夕と装着用材料の関係を示した非線形グラフについて,グラフ間のコントラストを解析した結果,支台歯表面積においては,母集団の25%点である120.3mm2の場合(P₌0.02),支台歯高径においても母集団の25%点である3.20mmの場合(P=0.04),SAルーティングとパナビアV5の間に有意差を認めた.冠咬合面の厚み,頰舌テーパ一度においては,いずれの点においても有意差を認めなかった.これらの結果から,支台歯表面積および支台歯高径が小さい値をとる場合にプライマー併用型接着性レジンセメントを用いることが冠脱離に対して有効である可能性が示された.

【結論】
 2017年12月から2021年3月の間に大阪大学歯学部附属病院口腔補綴科にて装着されたすべての大臼歯CAD/CAMレジン冠117装置の臨床経過を後向きに調査した.さらに,その支台歯および冠の三次元デジタルデータを解析した結果,以下のことが明らかとなった.
 1. 大臼歯CAD/CAMレジン冠の臨床経過を最長1281日(3年6か月)調査した結果,約16.7%にイベントを認め,主なイベントは脱離であった.
 2. 「装着用材料の種類」について,セルフアドヒーシブレジンセメントと比較してプライマー併用型接着性レジンセメントを用いることが,冠の脱離を防ぐことに有効であることが示された.
 3. 三次元デジタルデータの解析により,「頰舌テーパー度」,「支台歯高径」,「支台歯表面積」,「冠咬合面の厚み」が冠の脱離に有意な影響を与えていることが明らかとなった.
 4. 非線形回帰曲線より「支台歯高径」,「支台歯表面積」が小さい値であるときに,プライマー併用型接着性レジンセメントを用いることが有効であることが示された.
 本研究結果より,CAD/CAMレジン冠の臨床において現在推奨されている支台歯形成量は過多であり,少なくする必要があるという新たな知見が得られた.

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