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大学・研究所にある論文を検索できる 「高齢者の歯の喪失に関連するリスク因子についての縦断研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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高齢者の歯の喪失に関連するリスク因子についての縦断研究

佐藤, 仁美 大阪大学

2021.03.24

概要

【目的】
歯の喪失は,栄養状態の悪化,認知機能の低下,心血管疾患や脳卒中などのリスクとなることや死亡と関連があることが報告されている.このように残存歯数は,高齢者の健康長寿に重要な役割を果たしていると考えられる.したがって,高齢期におけるさらなる歯の喪失を防ぐために,どのような人が歯を喪失するかを検討することは重要である.

歯の喪失のリスク因子としては,歯周病や齲蝕などの直接的な因子のほか,年齢や喫煙などの間接的な因子について多くの報告がある.また,これらの因子は,年齢,喫煙など,個人で異なる「人レベル」と,歯周病,齲蝕など,個々の歯で異なる「歯レベル」の2種類に分類される.このような階層性のあるデータに関しては,歯レベルの情報を反映でき,かつ,同一口腔内の歯の相関も考慮することのできるマルチレベルの統計分析を行うことが望ましい.

また,歯列の状態,すなわち,対合歯や隣在歯の有無や咬合支持状態などは,残存歯の負担を考慮するうえで重要な因子であると考えられる.しかし,歯の喪失について,歯列の状態を含めたうえで,マルチレベル分析を用いて検討した報告はない.

そこで,本研究は,地域在住の高齢者を対象に6年間の縦断調査を行い,マルチレベル分析である一般化線形混合モデルを用いて,高齢期における歯の喪失に関連するリスク因子を明らかにすることを目的とした.本研究の仮説は,咬合支持状態や隣在歯,対合歯などの歯列の状態が歯の喪失のリスクとなることとした.

【方法】
本研究の対象者は,自立した地域在住高齢者とした.ベースライン調査に参加した者は,1,973名(70歳群1,000名,80歳群973名)であった.また,ベースライン時の残存歯数(残根状態の歯を除く)が0本であった220名は,本研究の分析対象者から除外した.6年後の追跡調査に参加した845名(70歳群526名,80歳群319名)のうち,すべてのデータに欠損値のない812名(70歳群501名,80歳群311名)を最終的な分析対象者とした.なお,本研究は大阪大学大学院歯学研究科・歯学部および歯学部附属病院倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号:H22-E9,H27-E4).

全身的には,質問票を用いて,年齢群,性別,教育年数,経済状況,喫煙習慣を評価した.また,日本語版Montreal Cognitive Assessment(MoCA-J)を用いて,認知機能を評価した.

歯科的には,質問票を用いて,1日のブラッシング回数,かかりつけ歯科医の有無,定期検診の間隔を評価した.また,口腔内検査により,対象者の残存歯数,咬合支持状態(Eichner分類),上下顎の可撤性義歯の使用の有無を記録した.また,デンタルプレスケール50H,Rタイプ(ジーシー社,東京,日本)を用いて,最大咬合力を測定した.さらに,1歯ごとに,部位,歯周ポケット深さ,齲蝕の有無,修復・補綴状態,欠損部の補綴状態,隣在歯の有無,対合歯の有無を記録した.

統計学的分析には,一般化線形混合モデル(GLMM: Generalized Linear Mixed Model)によるロジスティック回帰モデルを用いた.1歯ごとの歯の喪失の有無を目的変数とし,説明変数には,人レベルの因子として,年齢群(70歳群*/80歳群),性別(男性*/女性),教育年数(13年以上*/10年から12年/9年以下),経済状況(ゆとりがある*/ふつう/ゆとりがない),喫煙習慣(なし*/あり),MoCA-J(点),1日のブラッシング回数(3回以上*/2回/1回以下),かかりつけ歯科医(なし*/あり),定期検診の間隔(3か月以内*/4か月以上1年以内/受けていない),残存歯数(24本以上*/20-23本/10-19本/1-9本),Eichner分類(A群*/B1-2群/B3-4群/C群),最大咬合力(下位75%群*/上位25%群)を,歯レベルの因子として,部位(下顎前歯*/上顎前歯/上顎小臼歯/上顎大臼歯/下顎小臼歯/下顎大臼歯),歯周ポケット深さ(3㎜以下*/4-5㎜/6㎜以上),齲蝕の有無(なし*/あり),修復・補綴状態(健全歯*/コンポジットレジン・インレー修復/クラウン/ブリッジ支台),隣在歯の有無(両隣在歯あり*/片側欠損/両側欠損),対合歯の有無(あり*/なし),可撤性義歯の使用(なし*/あり)を用いて,分析を行った.なお,参照カテゴリは,「*」を付与したカテゴリとし,説明変数については,ベースライン時の値を解析に用いた.また,残存歯数と咬合支持状態は相関係数が高いため,多重共線性を考慮し,別のモデルで分析を行った.有意水準は5%とした.

【結果】
歯数モデルでは,人レベルの因子では,定期検診の間隔(4か月から1年以内:OR=1.49,受けていない:OR=1.73),残存歯数(20-23本:OR=1.46,10-19本:OR=2.92,1-9本:OR=4.83)が,歯の喪失の有意なリスク因子であった.また,歯レベルの因子では,部位(下顎小臼歯:OR=1.31,上顎小臼歯:OR=1.33,下顎大臼歯:OR=1.80,上顎大臼歯:OR=1.65),歯周ポケット深さ(4-5㎜:OR=1.79,6㎜以上:OR=6.51),齲蝕の有無(OR=1.93),修復・補綴状態(クラウン:OR=2.65,ブリッジ支台:OR=3.38),隣在歯の有無(片側欠損:OR=1.97,両側欠損:OR=2.71),対合歯の有無(OR=0.61),可撤性義歯の使用(OR=1.72)が,歯の喪失の有意なリスク因子であった.

咬合支持モデルでは,人レベルの因子では,定期検診の間隔(4か月以上1年以内:OR=1.50,受けていない:OR=1.79),咬合支持状態(B1-2群:OR=1.53,B3-4群:OR=2.97,C群:OR=4.39)が,歯の喪失の有意なリスク因子であった.また,歯レベルの因子では,部位(下顎大臼歯:OR=1.72,上顎大臼歯:OR=1.59),歯周ポケット深さ(4-5㎜:OR=1.82,6㎜以上:OR=6.63),齲蝕の有無(OR=1.90,修復・補綴状態(コンポジット・インレー修復:OR=1.29,クラウン:OR=2.69,ブリッジ支台:OR=3.61),隣在歯の有無(片側欠損:OR=2.02,両側欠損:OR=2.82),対合歯の有無(OR=0.61),可撤性義歯の使用(OR=1.81)が,歯の喪失の有意なリスク因子であった.

【考察】
6年間の縦断的研究により,人レベルの因子では,定期健診の間隔,残存歯数,咬合支持状態が,歯レベルの因子では,臼歯,歯周ポケット深さ,齲蝕,修復・歯冠補綴,隣在歯の欠損,対合歯の存在,可撤性義歯の使用が,歯の喪失のリスク因子として示された.

残存歯数や咬合支持数の減少は,残存歯への負担を増加させ,歯の喪失を引き起こすことが考えられる.また,隣在歯が欠損すると,欠損側への抵抗がなくなるため,歯周組織の圧迫や炎症,骨吸収が生じ,最終的に歯を喪失するリスクとなると考えられる.対合歯の欠損と歯の喪失との間に有意な負の関連を認めたが,この理由として,咬合支持状態の影響が考えられる.つまり,咬合支持数が減少している場合に,対合歯の存在が歯の喪失のリスクとなる可能性がある.

本研究の結果より,高齢期において,歯列の状態が不良であることは,さらなる歯の喪失を招く可能性が示された.そのため,高齢期に至るまでに,いかに残存歯数や咬合支持を保つかということは,高齢期における歯の喪失を防ぐために,重要であると考えられる.また,高齢期に至るまでに歯を喪失し,歯列の状態が不良な者については,歯科医師は,定期検診の重要性を伝え,その間隔を短く設定することが必要となる.

【総括ならびに結論】
本研究では,地域在住の高齢者を対象に6年間の縦断調査から,マルチレベル分析である一般化線形混合モデルを用いて,歯の喪失に影響を与えると報告されている変数を調整したうえで,高齢期における歯の喪失に関連するリスク因子の検討を行った.その結果,咬合支持状態や対合歯の存在,隣在歯の欠損などの歯列の状態は,歯の喪失のリスク因子となることが明らかとなった.

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