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大学・研究所にある論文を検索できる 「生体ブタにおけるESD後潰瘍へのポリグリコール酸シート貼付に対するエンベロープ法の有用性に関する検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

生体ブタにおけるESD後潰瘍へのポリグリコール酸シート貼付に対するエンベロープ法の有用性に関する検討

Sakaguchi, Hiroya 神戸大学

2021.03.25

概要

背景
内視鏡的胃粘膜下層剥離術(Endoscopic submcosal dissection;ESD)は早期胃癌の治療として広く普及しているが、合併症としてESD後潰瘍底より術後出血が0-15.6%程度認められ、患者のQOLを低下させている。高齢化に伴い抗血栓薬内服者が増加していることより、今後術後出血はさらに増加すると予想される。しかしながら、術後出血を予防するする止血法は未だ確立されていない。

近年ESD後潰瘍に対するフィブリン糊を用いたポリグリコール酸(Polyglycolic acid;PGA)シート貼付療法が、術後出血を予防する方法として期待できると報告されている。PGAシート・フィブリン糊併用療法は、外科領域を中心とした他領域で創部の被覆法として多く報告・使用されているが、消化管領域、特に反重力方向での施行は技術的難度が高い。その理由として、消化管内でPGAシートを貼付する際に、貼付時間が長くなることや、PGAシートが粘液により濡れることによりPGAシートの貼付力が落ち、PGAシートが剥がれやすくなることが考えられる。この問題を解決するため、鷹尾らの研究でPGAシートを濡れずに早くデリバリーするデバイス(GIエンベロープ®)と貼付法を開発・考案し、ブタ摘除胃を使用し重力側に作成したESD後潰瘍でその有用性を示した。

しかしながら、実際に唾液や胃粘液が存在する生体胃での検討や、貼付が技術的に難しい反重力側でのPGAシート貼付の有用性は未だ不明である。本研究は、生体ブタにおけるエンベロープ法でのPGAシート・フィブリン糊併用療法の有用性を重力側と反重力側で検討した。

方法
概要
生体ブタの重力側・反重力側にESDを施行して人工潰瘍を作成し、同部位に内視鏡を用いてPGAシートを後述する従来法とエンベロープ法で貼付し、貼付時間を比較検討した。また、貼付したPGAシートをフィブリン糊で固定し、内視鏡所見を比較検討した。最後にPGAシートが固定された潰瘍を組織学的に比較した。

人工潰瘍の作成
3頭の生体ブタ(体重20-30kg)に対し全身麻酔下で処置を行った。まず生体ブタ2頭(No.1, No.2)の反重力側にそれぞれESDを行い、ESD後潰瘍(Ulcerl, 2)を作成した。次に生体ブタ1頭(No.3)の重力側にESD後潰瘍(Ulcer3, 4)を作成した【Figure2A】。

PGAシートの運搬・貼付
従来法は15×7mmにカットした小PGAシートを生検紺子で把持し、鉗子口を通して胃内に1枚ずつ揷入して潰瘍底に貼付する手法と定義した。【Supplementary video 1】。

エンベロープ法は、潰瘍サイズに合わせてカットした約30mmの大PGAシートと15×7mmにカットした小PGAシートを2層式のエンベロープ(BOLHEAL GI Envelope, NIPRO CORPORATION, Osaka, Japan)に格納して、エンベロープを内視鏡の先端から出した止血紺子で把持して胃内に輸送し、胃内でエンベロープからPGAシートを取り出して潰瘍底に貼付する方法と定義した【Figure l】【Supplementary video 2】。

2個の重力側のESD後潰瘍と2個の反重力側のESD後潰瘍に、従来法とエンベロープ法でPGAシートをそれぞれ3回ずつ繰り返し貼付した。重力側のESD後潰瘍と反重力側のESD後潰瘍に、従来法とエンベロープ法で計6回ずつPGAシートを貼付し、貼付時間を測定した【Figure 2A】。

測定
貼付時間は、PGAシートを胃内に運搬し潰瘍底に貼付し被覆終了するまでの時間とした。両手法における潰瘍サイズを完全に一致させることは難しいため、単位面積あたりの貼付時間を比較した。従来法では、内視鏡を潰瘍近傍まで挿入し、PGAシートを把持した鉗子が紺子口に入った時点を測定開始とした。エンベロープ法では、内視鏡先端から出した紺子によって把持されたエンベロープがマウスピースを通過した時点を測定開始とした。潰瘍がPGAシートで概ね覆われた時点で測定終了した。潰瘍底の大きさは、胃内の空気量で変化するため、貼付毎に潰瘍底のサイズをメジャー鉗子で測定した。

組織学的評価
生体ブタの胃の反重力側の人工潰瘍(ulcerl, 2)と重力側の人工潰瘍(ulcer3, 4)に、従来法とエンベロープ法でPGAシートを貼付しフィブリン糊で固定した【Figure 2B】。PGAシートを固定後、生体ブタを安楽殺し、潰瘍部を10%中性緩衝ホルマリン液で固定したのち、パラフィン切片とし、ヘマトキシリン・エオジン染色を行って組織学的に評価した。

統計
Mann-Whitney’s U検定を用い、貼付時間の有意差を検討した。サンプルサイズは先行研究より有意差が求められる最小施行回数の6とした。P値は両側検定で0.05未満を有意とした。全ての分析はEZRを用いた。

結果
重力側の潰瘍に対するPGAシートの輸送から被覆までにかかる時間を【Table 1, Figure 3A】に示し、反重力側潰瘍に対する貼付時間を【Table 2, Figure 3B】に示した。

重力側潰瘍への単位面積あたりのPGAシート貼付時間中央値(range)は、従来法で1.00(0.68-1.30)min/cm2であり、エンベロープ法で0.32(0.18-0.52)min/cm2であり、エンベロープ法で有意に短かった(P=0.002)。また、反重力側潰瘍への単位面積.あたりのPGAシート貼付時間中央値(range)は、従来法で1.20(1.13-1.63)min/cm2であり、エンベロープ法で0.50(0.39-0.58)min/cm2であり、反重力側でもエンベロープ法の貼付時間が有意に短かった(P=0.002)。

内視鏡所見上、反重力側の潰瘍に従来法で貼付されたPGAシートは、全ての施行で不均一であり、塊状になっていた【Figure 4A】。一方、反重力側の潰瘍にエンベロープ法で貼付されたPGAシートは、全ての施行で平坦であり薄く重なり潰瘍底を被覆していた【Figure 4B】。

組織学的所見上、従来法でPGAシートを貼付した反重力側の潰瘍は、PGAシート間に間隙が存在し、部分的に潰瘍底が露出していた【Figure 5A】。一方、エンベロープ法でPGAシートを貼付した反重力側の潰瘍は、PGAシートとフィブリン糊によって一様に被覆され【Figure 5B】、厚さは約300mm認められた。

考察
本研究では生体内での3つの重要な知見が認められた。第一に、PGAシートの運搬と反重力側の潰瘍への貼付は、従来法と比べエンベロープ法で有意に早かった。第二に、内視鏡所見上、エンベロープ法では、反重力側の漬瘍にPGAシートが適切に貼付されていた。第三に、組織学的にも、エンベロープ法では、反重力側の潰瘍にPGAシートが適切に貼付されていた。

上述のように、PGAシートの運搬と反重力側の潰瘍への貼付は、従来法と比べエンベロープ法で有意に早かった。臨床では、ESD後に従来法で潰瘍にPGAシートを固定することが多い。しかしながら従来法ではPGAシートが濡れることで貼付に時間がかかる。特に、従来法において鉗子口内で濡れて一塊となったPGAシートは自重で下方に落下する傾向があるため、反重力側にPGAシートを貼付することはより困難であった。エンベロープ法では、PGAシートを乾燥した状態で胃内に運搬できるため、反重力側潰瘍においても早く貼付することが可能であった。

第二の知見については、エンベロープ群では、内視鏡所見上、乾燥した条件下、すなわち生体内で唾液や粘液にさらされていない条件下で、PGAシートが反重力側潰瘍に適切に貼付されていることが示された。先行研究では、唾液または粘液に曝露された場合、フィブリン糊がPGAシートに浸透しないことによりPGAシートの潰瘍への貼付力を低下させることが示されている。また、鷹尾らは以前折り畳みフィルムで包装されたPGAシートを生きたブタの消化管内に運搬した報告しているが、輸送中にPGAシートが湿ったものもあった。一方、本研究のエンベロープ群では、搬送されたシートは全て濡れずに送達されており、従来法よりもエンベロープ法の方が唾液や粘液からPGAシートを保護する効果が高いことが示された。今回の研究では、生体内でも乾燥した状態でPGAシートを胃に届けることが可能であることが実証された。

第三の知見として、エンベロープ法では、組織学的に反重力側の潰瘍に適切に貼付されていることが明らかとなった。PGAシートは乾いていると軽いため、大きなシートもシワにならずに貼付できた。また、フィブリン糊を反重力側の潰瘍に塗布する際、シートに十分にフィブリン糊を留まらせることが困難な可能性があることが懸念されていたが、本研究では反重力側の潰瘍のPGAシートとフィブリン糊の厚みは300μmであり、反重力側の潰瘍にも十分なフィブリン糊が保持されていることが証明された。

今後の展望
抗血栓薬内服患者の増加や、抗血栓薬継続下での内視鏡処置の増加により、内視鏡治療後の出血率の増加が懸念されているが、フィブリン糊を併用してPGAシートで潰瘍を被覆する治療法はこの課題を解決しうるpromissingな治療法として注目されている。合併症の予防としてPGAシートの有効性を検証するためには、生体環境下でPGAシートを効果的に運搬し、しっかり貼付することが前提となる。

今後はこのエンベロープを用いて、臨床で潰瘍の場所によらずに確実な輸送が達成できるか実証する必要がある。また、最終的には、PGAシートによるshielding methodが、ESD後の出血や遅発性穿孔などの合併症を予防しうるか臨床試験において実証していく予定である。

Limitation
本研究は一人の術者によって施行された。ブタとヒトの胃の構造はやや異なる。今後の検討は複数の術者で多施設で行うべきである。

Conclusion
エンベロープ法は生体ブタにおいてPGAシートを早く運搬し適切に貼付できた。また、同方法は重力側と反重力側の両方の潰瘍に貼付可能であった。

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