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大学・研究所にある論文を検索できる 「直腸癌患者のNACRT後腹会陰式直腸切断術における大網充填術の有用性に関する後ろ向き観察研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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直腸癌患者のNACRT後腹会陰式直腸切断術における大網充填術の有用性に関する後ろ向き観察研究

Nagata, Machiko 神戸大学

2021.03.25

概要

【背景】
局所進行直腸癌に対する標準的治療法は、術前補助化学放射線療法(NACRT)を行った後に腹会陰式直腸切断術(APR)を施行するものである。しかしこの治療法では会陰創の術後合併症として感染や創離開が起こることがある。APR では直腸を切断した後に骨盤内に大きな空洞ができるが、術中に感染した血液や漿液がこの空洞に貯留することで会陰創の感染や離開を引き起こす。また術前放射線照射も創傷治癒の阻害という点に関して会陰創合併症のリスクファクターとなることが分かっている。直腸癌に対し NACRT を行う症例が増加してきたこともあり、会陰創の合併症はこの治療を行った患者の 59%に発生しているという報告もある。これらの会陰創の合併症を予防するため、大網充填術や腹直筋皮弁、biological mesh の使用が行われてきた。

【目的】
大網充填術は会陰創の合併症を減少させるという報告がある一方で、大網充填術は合併症予防に有効ではないという報告もある。今回我々は NACRT 後に APR を行った症例を後方視的に比較検討し、大網充填術の有用性について明らかにする。

【対象と方法】
我々は大網充填術の有用性を明らかにするために、当院で 2005 年 9 月 1 日~2019年 12 月 31 日の間にNACRT 後 APR を行った症例 45 例を後方視的に比較検討した。その内会陰形成術を同時に施行した 3 症例は除外し、大網充填を行った群 (Omentoplasty(+)群:28 例)と大網充填を行わなかった群(Omentoplasty(-)群:14 例)とで会陰創の合併症発生率を検討した。

大網充填術:栄養血管となる右胃大網動脈を残して胃や脾臓、横行結腸から大網を切離し、骨盤内の空洞に留置する。直腸を切断し会陰部を縫合した後にこの術式を行い、骨盤内の空洞に血液や漿液が貯留するのを防ぐ。

【結果】
Table I. 術前の患者や腫瘍の特徴では Omentoplasty(-)群に糖尿病を持つ患者が有意に多いという以外に、年齢や性別、BMI、ASA-PS、腫瘍の TNM 分類において両群間に明らかな差は認められなかった。

Table II. 手術成績では Omentoplasty(+)群は腹腔鏡下手術、Omentoplasty(-)群は開腹手術が優位に多かった。また Omentoplasty(+)群で手術時間が長かったが、その他側方郭清の施行率や出血量、輸血の有無に有意差は認めなかった。

Table III. 術後合併症はほとんど両群間に差はなかったが、特に会陰創の合併症については Omentoplasty(+)群で少なく、Omentoplasty(-)群で多く見られた(46.4% vs. 78.6%, p<0.001)。会陰創の合併症としては会陰創離開が Omentoplasty(+)群で少なく、Omentoplasty(-)群で多かった(17.9% vs. 64.3%, p=0.003)。会陰創感染は両群間で有意差はなかった。入院期間は両群間で差はなかった。

Table IV. 病理学的診断では腫瘍の組織型や TNM 分類、脈管侵襲の有無、完全切除率、NACRT の組織学的効果判定において両群間に差はなかった。

Table V. 単変量解析・多変量解析では大網充填術が会陰創の合併症を予防する最も効果的な方法であると分かった(odds ratio=0.020, 95% 信頼区間=0.001-0.393; p=0.001)。

【考察】
NACRT 後に APR を施行した症例では会陰創の離開や感染、ヘルニアなどの合併 症が発生することがある。これらの合併症を予防するために大網充填術や腹直筋皮弁、 biological mesh などの方法がとられている。これらの方法の中で大網充填術は自家組 織を使用し、手術方法がシンプルであるという点でメリットがあると考えられている。大網充填術の最近の研究に基いて、我々は 2009 年頃から NACRT 後に APR を施行 した患者に対して合併症の予防目的に大網充填術を行っている。最近の研究では、大網充填術は NACRT 後 APR の創部離開や感染を含む会陰合併症の発生頻度を大きく 減少させているといわれている。

Nilsson らは会陰創の治癒と骨盤内空洞の減少、創部離開について大網充填術が非常に重要であったという systematic review を報告している。Killeen らも大網充填術で良好な結果を出したと報告しているが、Blok らによる meta-analysis では直腸癌患者に大網充填術を行っても利点がなく、直腸癌に対する APR で毎回大網充填をするのは勧めないとしている。この違いは、前者 2 つは直腸の良性疾患を対象としている点と、後者は術前化学療法を行っていない直腸癌を対象としている点である。最近の研究では NACRT を施行した直腸癌だけを計算したものが含まれている。両群間の会陰創感染率には差はないが、会陰創部離開と感染を合わせた会陰創自体の合併症では、大網充填術を行った群で有意に減少が見られた。

手術内容も重要な因子で、我々は右胃大網動静脈をメインの栄養血管としているが、 Killeen らは半分以上の症例で左胃大網動静脈をメインとして残している。どちらの 血管を栄養血管として残すのが良いかは、切除した後の大網の血流量が関わってくる。もし血流が足りない場合は、筋皮弁などの他の方法をとるのが合併症予防として効果 的であろう。

今回の我々の研究は単施設の後方視的研究であり、対象となる患者数も少なくバイアスがかかっている点は否定できない。また手術方法も開腹からより侵襲の少ない腹腔鏡下手術へと変化している。今後ロボット支援下手術や経肛門的手術が普及するとより侵襲の少ない手術が行われるようになり、大網充填術の重要性も変わっていくことが予想される。ただ今回の単変量・多変量解析では、侵襲の少ない腹腔鏡下手術よりも大網充填術の方が会陰創の合併症を予防する重要な因子であるという解析結果が出た。

【結論】
直腸癌患者の NACRT 後の APR において、大網充填術は会陰創合併症を減少させる非常に有用な方法であると考えられた。

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