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大学・研究所にある論文を検索できる 「同一Ablation Index/Lesion Size Index下での異なる通電出力における焼灼巣および組織温度動態に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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同一Ablation Index/Lesion Size Index下での異なる通電出力における焼灼巣および組織温度動態に関する研究

Takemoto, Makoto 神戸大学

2021.03.25

概要

【背景】
頻脈性不整脈に対して心臓内にカテーテルを挿入し、不整脈の起源に対して高周波通電を行うカテーテル心筋焼灼術(カテーテルアブレーション)が広く行われている。その中で心房細動に対して肺静脈周辺に通電を行う肺静脈隔離術は確立された治療法となっている。しかし、高周波通電による熱伝導により周辺臓器の傷害も発生しうる。特に左心房の後方にある食道に関しては食道胃迷走神経障害や左房食道瘻などの合併症も存在し、一部は致死的になる事も報告されている。このような合併症を避けるため、経験的に左房後壁、特に食道に隣接する領域に関しては他の部位よりも出力を下げた低出力(20-25W×20-30秒)での通電が施行されてきたが、この焼灼方法が最適かどうかは検討されていなかった。近年、通電出力を上げ、通電時間を短くする(高出力短時間通 電)事による心筋組織への焼灼の影響に注目が集まってきており、焼灼巣形成だけでなく近接臓器への影響も異なる可能性がある。さらに通電出力・通電時間・contact force などから導き出される Ablation Index/Lesion Size Indexと呼ばれる焼灼巣形成の新たな予測指標が開発され、実臨床でもその有用性が確認されている。

今回、我々は心筋組織を使用した体外実験において同一 Ablation Index/Lesion Size Index 下での高出力と低出力の異なる出力における心筋の焼灼巣および周辺組織温度動態(特に食道周囲)を検討する。これらを調べることにより同様の焼灼巣を作りつつ、周辺臓器への熱傷害を減らす通電設定を見つけることができる可能性がある。

【方法】
実際のカテーテルアブレーション治療を想定した体外モデル(ブタの心筋組織を使用)を用いた実験系を組んだ。左房後壁および食道壁の厚みの平均は、それぞれ 2.2±0.9mm、3.6±1.7mm と報告されている。よって、ブタの心筋は 5-6mm 厚にスライスし、36.0-37.0℃の生理食塩水を循環させた水槽内の並行な 3 本の温度プローベの上に配置した(図 1、A)。各温度プローベは 7 つの電極を有しており、計 21 電極にて通電箇所の直下だけでなくその縦横の温度動態も同時に観測できるようにした(図 1、B)。左房後壁や食道に近接している箇所での至適 Ablation Index/Lesion Size Index は 350-400/4.0-4.5 と報告されているため、標的値をそれぞれ Ablation Index を使用するグループは 350、 Lesion Size Index を使用するグループは 4.5 として、それらに到達するまで contact force10-12g(実臨床でも一般的に使用されるcontact force)にて通電を施行した。各グループにて 20W 群・40W 群の異なる通電出力で 30 ポイントずつ通電を行い、計 120 個の焼灼巣サイズおよび 2520 箇所の組織温度動態を解析した。また、本研究では組織温 39℃以上を高温と定義し、通電開始から標的 Index に到達して組織温が 39℃を下回るまでの全組織温度動態が記録された。

【結果】
① Ablation Index を使用したグループ(目標 Ablation Index: 350)
A) 組織温度動態(図 2、図 3)
40W 群では通電開始直後から急峻な温度上昇が見られるのに対し、20W群では比較的緩徐な温度上昇を示した。両群で通電終了後も数秒間は組織温の上昇が見られた(thermal latency)。通電箇所の直下を含めた周囲 9 ポイント(3×3)の最高組織温度の分布では、20W 群の方が 40W 群に比べて広がりが大きかった。標的 Ablation Index に到達するまでの時間は 20W 群に比べて 40W 群で有意に短かった(31.1±2.2 vs 11.6±1.4 sec, P<0.0001)が、最高組織温度は両群で差が見られなかった。 Thermal latency は 40W 群で有意に温度上昇が大きく(0.65±1.07 vs 0.84±0.76℃, P=0.04)、持続時間も長かった(0.3±2.8 vs 2.2±2.6 sec, P=0.006)。39℃以上の高温を呈した時間は 20W 群で有意に長く(39±12 vs 24±14 sec, P<0.001)、39℃以上を呈した電極の数も 20W 群で有意に多かった(3.4±1.4 vs 2.5±1.2, P=0.01)。
B) 焼灼巣サイズ
ブタ心筋表面の焼灼巣のサイズ径は 40W 群の方が大きい傾向にあったが、最長の幅や深さに関しては両群で有意差は見られなかった。

② Lesion Size Index を使用したグループ(目標 Lesion Size Index: 4.5)
A) 組織温度動態
40W 群では通電直後から組織温の急峻な立ち上がりが見られた。最高組織温度の分布では、こちらも 20W 群の方が 40W 群に比べて広がりが大きかった。標的 Lesion Size Index に到達するまでの時間は、20W 群が 40W 群に比べて約 5 倍近く長かった(45.2±7.8 vs 9.6±1.8 sec, P<0.0001)。最高組織温度は 40W 群で有意に低かった(42.8±3.4 vs 40.0±3.4℃, P=0.003)。Thermal latency は 40W 群で有意に温度上昇が大きく(0.11±0.10 vs 0.31±0.30℃, P=0.002)、持続時間も長かった (1.0±5.1 vs 4.9±7.2 sec, P=0.019)。39℃以上の高温を呈した時間は 20W 群で有意に長く(77±27 vs 27±34 sec, P<0.0001)、39℃以上を呈した電極の数も 20W 群で有意に多かった(4.4±1.9 vs1.6±1.2, P<0.0001)。
B) 焼灼巣サイズ
Lesion Size Index を使用したグループにおいては、表面の焼灼巣サイズ径、最長の幅(8.5±1.0 vs 7.7±0.6mm, P<0.0001)や深さ(4.3±0.8 vs 3.7±0.7mm, P=0.003)ともに 20W 群の方が 40W 群より有意に大きかった。

【考察】
カテーテルアブレーションで生じる組織の熱は大きく抵抗熱と伝導熱に分 けられる。通電開始後は、カテーテル先端と組織との間で生じる抵抗熱が主で あり、時間経過とともに組織内を伝わる伝導熱の関与が大きくなってくる。 40W 群の方が 20W 群に比べて抵抗熱は高いものの、 標的の Ablation Index/Lesion Size Index に到達するまでの時間は 20W 群の方が長く、伝導熱 の影響が強いと考えられる。上記の結果から、心内膜側からある程度の距離の ある組織(食道など)への熱伝導傷害は、低出力での長時間通電よりも高出力 かつ短時間でのアブレーションの方が少ない可能性が示された結果となった。

実際のカテーテルアブレーションにおいて、カテーテルの安定性は心拍動および呼吸によって影響を受ける。長時間安定性を維持することが難しい状況の中で、短時間で目標の焼灼巣サイズを形成できることは有用かもしれない。また、左房の周辺組織や臓器(食道など)への影響は高出力の方が少ない可能性が示唆されるが、同時に組織温度の急峻な上昇や通電終了後でも温度上昇が持続する thermal latency が存在することを心得ておかなければならない。

・本研究の制約
本研究は体外実験モデルでの結果であり、実際のカテーテルアブレーションのような循環・呼吸による影響などは再現性に欠ける。また今回使用したブタ心筋組織は dead tissue であるため血流がなく、熱伝導が少なくなる可能性や焼灼巣サイズが実際とは異なる可能性がある。

今回、組織とカテーテルの角度は 45 度として施行したが、垂直方向や水平方向など別角度での検証はできていない。また、contact force に関しても 10-12g 以外の値での検証はできていない。

【結論】
Ablation Index/Lesion Size Index は同じでも、組織温度動態は通電出力によって有意に異なっていた。比較的高出力(40W)での通電は、周辺組織や臓器への熱障害を減らす可能性が示唆された。

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