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大学・研究所にある論文を検索できる 「難治性非感染性ぶどう膜炎におけるアダリムマブ治療前後の脈絡膜構造指標変化の検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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難治性非感染性ぶどう膜炎におけるアダリムマブ治療前後の脈絡膜構造指標変化の検討

西庄, 龍東 神戸大学

2022.03.25

概要

ヒト型抗ヒトTNFaモノクローナル抗体であるアダリムマブ(ヒュミラR,アッヴィ合同会社,米国)は、非感染性の中間部、後部、または汎ぶどう膜炎(noninfectious intermediate, posterior and panuveitis: NIPPU)の治療薬として、2016年にアメリカ食品医薬品局で初めて承認された非ステロイド製剤である。しかしながら、ランダム化比較試験におけるアダリムマブの有効性については従来の生体顕微鏡検査所見のみを基に評価されてきたという問題がある。眼科臨床における近年の画像検査技術の進歩は著しく、最新の画像検査機器では非侵襲的に眼内組織を客観的かつ定量的に計測することが可能であり、従来の生体顕微鏡検査で検出不可能な小さな眼内の変化を検出することができる。従って、眼内炎症の評価に非侵襲的な眼内画像検査機器を用いれば、活動性のNIPPUにおけるアダリムマブの有効性をより正確にモニタリングできるかもしれないと考えた

眼における脈絡膜は、視神経乳頭から鋸状縁に広がる、血管を多く含む組織であり、眼内炎症の主座の一つとして知られている。組織学的に、脈絡膜はいくつかの層(ブルッフ膜、脈絡毛細血管板、ハラー層、サトラー層、上脈絡膜層)に分けられ、深部強調画像光干渉断層計(enhanced depth imaging optical coherence tomography: EDI-OCT)は、これらの脈絡膜層を忠実かつ非侵襲的に描出する。結果的に、EDI-OCTで取得した情報は、これまでに診断の補助やぶどう膜炎の疾患活動性の指標として用いられている。数ある脈絡膜のOCT指標の中で、中心嵩下脈絡膜厚(subfoveal choroidal thickness: SFCT)と脈絡膜の管腔と間質の領域比から導かれる指数の2つは脈絡膜の生体指標としてしばしば用いられている。

本研究では、我々はアダリムマブで治療されたNIPPU患者の眼を調査し、アダリムマブ治療導入後の疾患活動性モニタリングに脈絡膜OCT指標が利用できるか否かを判断するために、脈絡膜OCT指標におけるアダリムマブ治療の検討をすることとした。

方法
本研究は後ろ向き研究であり、神戸大学医学部附属病院にて難治性NIPPUと診断され2016年11月から2020年2月までの期間にアダリムマブ治療が開始され、アダリムマブ治療導入後少なくとも2か月以上経過観察できた症例を対象とした。診療録より、年齢、性別、患眼、ぶどう膜炎の部位と原因、ぶどう膜炎の罹患期間、最高矯正視カ(best-corrected visual acuity: BCVA)、眼圧、水晶体の状態、眼軸長、推定糸球体濾過量、ぶどう膜炎の前治療、副腎皮質ステロイド薬(以下、ステロイド)や他の免疫抑制薬の併用、眼内炎症、OCT指標(中心腐下脈絡膜厚[SFCT]と脈絡膜間質指数[choroidal stromal index: CSI])、有害事象の項目を抽出しその後の解析に用いた。ぶどう膜炎の原因は、診断基準を基に決定した。SFCTとCSIは次のように定義した。中心腐を通るEDIOCT画像の水平断は、スペクトラルドメイン光干渉断層計(スペクトラリスR,ハイデルベルグエンジニアリング,独国)を用いて取得した。SFCTは、中心嵩における網膜色素上皮(retinal pigment epithelium: RPE)の外層から、脈絡膜・強膜境界面までの垂直距離と定義した。CSIの算出は既報に則り、イメージJソフトウェア(versionl.51,アメリカ国立衛生研究所)を用いて行った。注目領域(region of interest: ROI)は、EDI-OCT画像のグレースケールで決定選択した。ROIの上下の境界は、中心禽におけるRPEの外層と、脈絡膜・強膜境界面である。鼻側と耳側の境界は、中心嵩を中央とし3000μmの範囲とした。次に、無作為に選択した管腔3つ(長軸長>lOOμm)のOCT信号値の平均を計算した。その値を、OCT画像のノイズを最小限にするために最小値とした。それから、画像を8bitに変換し局所範囲閾値で二値化した。その画像をRGB画像に変換し、閾値ツールを用いて管腔領域を決定した。ROIの全脈絡膜領域、管腔領域(黒領域)、間質領域(白領域)を自動計測した。CSIは全脈絡膜領域に対する間質領域の割合と定義した。

主要評価項目は、ベースライン(アダリムマブ開始時)からアダリムマブ導入後2か月までのSFCTとCSIの変化とした。副次評価目的は、ベースラインからアダリムマブ導入後2か月までの前房細胞数、前房フレア、硝子体混濁の変化とした。統計解析には線形混合モデルを用い、P値0.05未満を有意差ありとした。

結果
18例33眼が本研究の対象となった。ぶどう膜炎の原因は、フォークト小柳ー原田病(Vogt Koyanagi-Harada disease: VKHD)(42.4%)、自己免疫網膜症疑い(15.2%)、その他(サルコイドーシスもしくはベーチェット病)(12.1%)、分類不能のぶどう膜炎(30.3%)であった。アダリムマブ導入後の全眼の解析では、SFCTの平均値は、ベースラインから2か月後で有意に減少したが(ベースラインは309.7士113.lμm,1か月で295.7土114.5μm,2か月で275.2土98.Sμm;P=0.002)、CSIの平均には有意な変化を認めなかった(ベースラインは0.275士0.050,1か月で0.273土0.068,2か月で0.273士0.046;P=0.862)。ベースラインから2か月までの、前房細胞、前房フレア、硝子体混濁においてもそれぞれ有意な変化を認めなかった(それぞれ、P=0.211[前房細胞],P値不定[前房フレア],P=0.678[硝子体混濁])。アダリムマブ治療導入後2か月では、全身性の有害事象は認めなかった。

サブグループ解析では、VKHD(P=0.007)および分類不能のぶどう膜炎のSFCT(P=0.034)はベースラインと比べてアダリムマブ導入後2か月で有意に減少した。一方、いずれのサブグループでもCSIは有意な変化を認めなかった(P=0.756[VKHDJ,P=0.088[分類不能のぶどう膜炎])。

考察
本研究では、難治性NIPPUに対するアダリムマブ治療後の疾患活動性を脈絡膜OCT指標(SFCTおよびCSI)で評価可能かどうかにつき検討した。CSIはアダリムマブ治療導入後にほとんど変化を示さなかったが、SFCTはアダリムマブ治療導入後2か月で着実に減少した。

脈絡膜厚は最も研究されている脈絡膜の計測値の一つであり、中心嵩下の脈絡膜厚であるSFCTは様々な臨床研究で重要な脈絡膜OCT指標として使用されている。VKHDにおける脈絡膜は眼内炎症の主座として知られており、SFCTはVKHDの疾患活動性をモニタリングするのに適していると報告されている。我々の結果は既報と一致しており、VKHD症例ではアダリムマブの治療効果がSFCTの減少という形で脈絡膜の変化に良く反映されていた。我々のデータからは分類不能のぶどう膜炎症例ではSFCTをアダリムマブ治療効果の判定に使用できる可能性が残るが、実臨床ではVKHDを対象にSFCTを生体指標どして用いることが最適と考えられる。

解剖学的には脈絡膜は脈絡膜血管と脈絡膜間質の二大要素で構成されており、OCTはこれらをそれぞれ管腔領域と間質領域として描出することができる。Agrawalらは、後部または汎ぶどう膜炎の疾患活動性をモニタリングするために、全脈絡膜領域に対する管腔領域の割合として定義した脈絡膜血管指数(choroidal vascular index: CVI)を用いており、これは我々のCSIと同じ情報を提供している(CSl=l-CVI)。一般に、脈絡膜間質は炎症細胞の浸潤によってその面積は拡大するので、血管ではなく間質の変化をより直感的に表現するするCSIを本研究では用いることにした。本研究のベースラインでのCSIが0.275土0.050、Agrawalらの報告のベースラインでのCVIが0.741土0.047であり、本研究での間質領域に対する管腔領域の割合は既報と同等であった。我々の結果では、アダリムマブ治療導入後2か月間では治療反応性をモニタリングするうえで、CSIは良い生体指標とは言えなかった。川野らは、VKHDにおけるステロイド治療に伴うCVIの変化を調査し、ベースラインと比べて治療1週間後にCVIは有意に増加するが、治療後1週から治療後1か月にかけては有意な変化を認めないことを報告している。Agrawalらもまた、VKHDに対するステロイド治療に伴うCVIの変化を調査し、ベースラインと比べて治療後6-12か月で有意に減少することを報告した。したがって、アダリムマブ治療の反応性の指標としてCSIの評価が適している時期を明らかにするにはさらなる研究が必要である。

結論としては、本研究は難治性NIPPUに対するアダリムマブ治療の短期的な効果の生体指標としてOCTに基づく脈絡膜指標の一部が有用であることを示唆している。難治性NIPPUに対する脈絡膜変化についての大規模な臨床試験が将来実施され膨大なデータが得られれば、難治性NIPPUに対するアダリムマブやその他の生物学的製剤による治療をどのようにモニタリングすべきかについての新知見が得られると思われる。

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