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酵素を利用した糖鎖合成における添加剤及びマイクロ波の効果に関する研究

長島, 生 東北大学

2023.03.02

概要

酵素を利用した糖鎖合成における
添加剤及びマイクロ波の効果に関する研究

長島 生

主査
東北大学大学院農学研究科
桑原 重文 教授

目次
緒言 ........................................................................................................................... 1
参考文献 ................................................................................................................... 6

第1章 ガラクトシルトランスフェラーゼによるグリコシル化に対するシクロデキストリン添加の効果 . 8
1-1. 合成モデル糖を用いたブロッティング反応へのシクロデキストリン添加の効果 ................................... 11
1-2. 合成モデル糖を用いた糖鎖伸長反応へのシクロデキストリン添加の効果...................................... 17
1-3. リンカー配列の異なるモデル糖の糖鎖伸長反応に対するシクロデキストリンの効果 ........................... 21
1-4. まとめ ................................................................................................................ 30
実験項 1 .................................................................................................................. 31
実験項 1-1............................................................................................................... 31
実験項 1-2............................................................................................................... 36
実験項 1-3............................................................................................................... 37
参考文献 ................................................................................................................. 56

第2章 α2,3-シアリルトランスフェラーゼの加水分解副反応に対する有機溶媒添加の効果 . 58
2-1. α2,3-シアリルトランスフェラーゼ JT-ISH-224 の活性.......................................................... 60
2-2. シアル酸転移反応への有機溶媒の添加効果................................................................... 63
2-3. シアリダーゼ活性に対する有機溶媒の作用 ...................................................................... 66
2-4. まとめ ................................................................................................................ 69
実験項2 ................................................................................................................. 70
実験項 2-1............................................................................................................... 70
実験項 2-2............................................................................................................... 72
実験項 2-3............................................................................................................... 72
参考文献 ................................................................................................................. 74

第3章 耐熱性 β-グルコシダーゼ HT1 の加水分解反応におけるマイクロ波照射の効果...... 75
3-1. 誘電加熱を用いた酵素反応におけるマイクロ波の影響 ......................................................... 79
3-2. 複素比誘電率の測定と反応に対する影響 ..................................................................... 84
3-3. 導電加熱を用いた酵素反応におけるマイクロ波の影響 ......................................................... 86
3-4. まとめ ................................................................................................................ 92
実験項 3 .................................................................................................................. 93
参考文献 ................................................................................................................. 95

結語 ......................................................................................................................... 97
論文目録.................................................................................................................. 99
謝辞 ........................................................................................................................100

略語表
A

alanine

AA

amino acid

Ac

acetyl

AcOH

acetic acid

AgOTf

silver trifluoromethanesulfonate

Ala

alanine

Bis-tris

bis(2-hydroxyethyl)aminotris(hydroxymethyl)methane

Bn

benzyl

CBS Catalyst

Corey-Bakshi-Shibata catalyst

CD

cyclodextrin

CMP-NANA

cytidine-5’-monophospho-N-acetylneuraminic acid, 2Na

DIEA

N,N-diisopropylethylamine

DMF

N,N-dimethylformamide

DMSO

dimethyl sulfoxide

DNA

deoxyribonucleic acid

E

glutamic acid

ee

enantiomeric excess

ESI

electrospray ionization

Et

ethyl

EtOH

ethanol

F

phenylalanine

Fmoc

9-fluorenylmethoxycarbonyl

G

glycine

gal

D-galactose

GalT

galactosyl transferase

GlcNAc

N-acetyl-D-galactosamine

Glu

glutamic acid

glu

D-glucose

Gly

glycine

GM3

Neu5Acα(2→3)Galβ(1→4)Glc-ceramide

HBTU

2-(1H-benzotriazole-1-yl)1,1,3,3-tetramethyluronium
hexafluorophosphate

HEPES

4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid

HOBt

1-hydroxybenzotriazole

HPLC

high performance liquid chromatography

HRMS

high resolution mass spectrometry

Km

Michaelis constant

MALDI

matrix-assisted laser desorption ionization

Me

methyl

MeOH

methanol

mRNA

messenger ribonucleic acid

MS

mass spectrometry

NDCPhth

4,5-dichlorophthaloyl

NMR

nuclear magnetic resonance

ODS

octadecylsilyl

PCR

polymerase chain reaction

oxohex

5-oxohexanoyl group

Pd-C

palladium carbon

Ph

phenyl

Phe

phenylalanine

Py

pyridine

RP

reverse phase

rt

room temperature

Rt

retention time

SiaT

sialyltransferase

tert

tertiary

TFA

trifluoroacetic acid

TFC

triple-factor combination

TFE

2,2,2-trifluoroethanol

THF

tetrahydrofuran

TLC

thin-layer chromatography

TMSOTf

trimethylsilyl trifluoromethanesulfonate

TOF

time of flight

UDP-Gal

uridine-5’-diphosphogalactose, 2Na

UV

ultraviolet

V0

initial reaction velocity

Vmax

maximum velocity

WSC

1-ethyl-3-(3’-dimethylaminopropyl)carbodiimide

緒言
生体内には多数の化合物群が存在するが、その中で核酸、タンパク質、糖鎖は、生命活動を担
う高分子体(生命の鎖)である。
核酸は、核酸塩基5種類(DNA ではアデニン、チミン、グアニン、シトシンの4種類、RNA ではチ
ミンの代わりにウラシルを入れた4種類)のシントンがリン酸エステルで結合してできている。核酸の合
成は化学的には Caruthers らによって開発されたホスホロアミダイト法 1)がもっとも広く利用されてお
り、自動合成装置も開発され現在では数十残基のオリゴ DNA を1日で合成することができる。研
究用受託サービスを行っている会社も多く、核酸を実験に使用する多くの研究者は任意の配列を
web 上で入力、発注するだけで数日のうちに精製された化合物を手にすることができる。また、この
ように手に入れた短鎖の DNA をプライマーとして利用し、酵素による DNA 複製技術である PCR
(Polymerase Chain Reaction) により、さらに長い核酸を生化学的に何万倍にも増幅すること
も可能である 2)。
タンパク質は、主に 20 種類のアミノ酸のシントンがアミド結合することによりできている。生体内で
は DNA の塩基配列によりアミノ酸配列が決定され生合成されている。遺伝子工学の発展により、
DNA 配列は自在に組み替えることができるようになり、こうして得られた DNA を細胞や生物に導入
し、有用なタンパク質を生産することが可能になった。化学的には、1963 年に Merrifield が開発
した固相法によるペプチド合成

3)

から発展し、固相担体や試薬の改良、マイクロ波の利用などにより

現在では自動合成装置によるペプチド~低分子量タンパク質の合成が可能となった。また、固相合
成法で合成したペプチド断片を Kent らが開発した Native chemical ligation 法 4)、北条らが
開発したチオエステル法

5)

などにより連結することで分子量1~2万のタンパク質を完全化学合成

で得ることができるようになった。
糖鎖は、核酸、タンパク質に続く第3の生命の鎖と呼ばれている。糖鎖が医学および生物学の分
野で重要な役割を果たすことはよく知られており

6-9)

、近年研究が進んでいる。天然に存在するタン

パク質の多くが糖鎖修飾されていること、ウイルスが細胞に感染する際にその表面の糖鎖構造を認
識していること、がんなどの疾患により生体内の糖鎖構造が変化することなど、糖鎖が重要な役割を
担っていることが分かってきた。ウイルスによる糖構造の認識の例として、インフルエンザウイルスが細胞
上のシアル酸レセプターに結合する例が挙げられる。細胞内に取り込まれ、増殖、出芽した後のウイ
ルスは、細胞からの離脱にシアル酸レセプターとの結合を切断するシアリダーゼを放出して感染を拡
大させる。これに対しインフルエンザの治療薬(増殖阻害剤)であるオセルタミビル(Roche、市販

1

名 タミフル)はシアル酸の誘導体であり、シアリダーゼの活性部位に優先的に結合することで出芽ウ
イルスの細胞表面からの離脱を阻害し、感染拡大を抑制する。
オセルタミビルは計算による薬物設計と合成化学によって開発された、糖構造を模した薬剤である
10-12)

。しかしながら、このような糖鎖の認識を基本機能とした薬剤開発の例は非常にまれである。こ

れは、核酸の例としてコロナワクチンなどに使用される mRNA、タンパク質の例として抗がん剤に使用
されるトラスツズマブなど、多数の薬剤が市場で使われているのに比べても数が少ない。核酸やタンパ
ク質の研究が飛躍的に発展しているのに対し、現状で糖鎖研究はまだまだ遅れを取っていると言わ
ざるを得ない。
しかし、すでに市販されているバイオ医薬品ではタンパク質に糖が付加した構造を持つものが多数
ある

13)

。治療用糖タンパク質では、ヒトや動物の細胞培養によって生産されたものが用いられる。具

体的には、生体内で DNA という設計図から翻訳により合成されたタンパク質はゴルジ体へと移動し、
そこで翻訳後修飾により糖鎖が付加される。ところがこの糖鎖付加は数百種類の糖転移酵素やそ
のほかの物質が関わっているため、多様な混合物になってしまう。したがってタンパク質部分の構造は
設計できても、任意の糖鎖を作らせることは難しい。多様性の程度は、用いた細胞株や培養条件
などによって変化する。ここで生じる糖鎖構造の違いは、構造の極わずかな差であっても、有効性、
安全性、免疫原性に影響を与える可能性が示唆されている。
低分子医薬品においては後発品をジェネリックと呼ぶが、高分子バイオ医薬品の同薬効品はバイ
オシミラーと呼ばれる。バイオシミラーは先行品と安全性、純度および力価に関し臨床的に意義のあ
る差がないことが要求される

14)

。そして、改良されたバイオ医薬品はバイオベターと呼ばれる。バイオ

ベターの例として既存のバイオ医薬品を改良した組換えタンパク質薬がある。しかしながら先述のよう
に、タンパク質部分の構造は設計できても、糖鎖部分が多様な混合物になってしまっては、その効果
がどの構造に起因するのか特定できない。さらにはバイオシミラーであっても、そもそもどういった構造で
あったかの特定さえもできていないのが現状である。すなわち、高分子バイオ医薬品の開発の鍵は
「糖タンパク質上の糖鎖の標準化」と考えられる。
ところが、現状では医薬品の糖鎖構造を標準化するどころか、バイオ医薬品の糖鎖構造を確認
(検定)する方法でさえ確立していない。糖鎖のタンパク質への付加の仕方には、主にアスパラギン
の側鎖と結合している N 型糖鎖とセリンもしくはスレオニンと結合している O 型糖鎖の2種類がある。
そのうち N 型糖鎖については、バイオ医薬品分析に利用できる解析方法が開発されたが、O 型糖
鎖の不均一性についての評価法は現在も開発途上である 15)。前述のように、バイオ医薬品の糖鎖
構造を精密にコントロールすることは難しく、これまで糖鎖の構造は薬理活性に大きな影響を与えな
いということが前提とされてきた。しかし、最近になって分子標的治療薬エタネルセプトを用いた実験
2

より、O 型糖鎖の構造の違いが効力に影響を及ぼすという研究結果が発表された

16)

。これは、糖

鎖の重要性を裏付けるものであり、さらなる研究のためにも、糖化学者には安定した研究用糖鎖の
供給という役割が課せられている。
では、なぜ糖鎖は核酸やタンパク質に比べて研究が遅れているのだろうか。その一因には、糖鎖そ
れ自体が繊細な化合物であり抽出や精製が難しいこと、また生化学的にも有機化学的にも合成が
難しく、高純度の標品を安定して大量に研究のために供給することが難しいことがあげられる。生体
高分子の特徴を Table 1 に示す。ここに比較したように、核酸、タンパク質が生物的に培養で得ら
れたり、自動合成装置により化学的に簡便に得られたりするようになったのとは対照的に、糖鎖は生
体内で任意の糖鎖だけを作らせる手法や汎用的な自動合成装置の技術がいまだ確立されていな
い。
Table 1. 生体高分子の特徴

糖鎖合成の複雑さは、構成単位である単糖の多種性、単糖自体の D 型と L 型の光学異性、
6 員環構造や 5 員環構造を取る構造異性、グリコシド結合のアノマー位におけるα、βの立体異性、
グリコシド結合のヒドロキシ基の位置選択性などにより、その一次構造の段階で核酸やタンパク質より
複雑化することに起因する。したがって同じ2つの糖がつながる場合であっても 20 種類以上の異性
体が生じる。そのため、化学合成においては、これらをすべて精密にコントロールする必要がある。
1970 年以降、多数の糖鎖合成の報告があり、現在ではこれらの異性体制御技術も大きな進歩
を遂げているが、反面、糖鎖化学合成では多くの工程数と時間、熟練、卓越した技術が必要など、
簡便な合成手法が確立したとは言いがたい。
3

化学合成では難しい糖鎖合成を酵素によって簡便に行おうという手段も研究されてきた。糖鎖の
伸長は糖転移酵素により、糖ヌクレオチドをドナーとして用いることで酵素の持つ基質特異性を生か
し、ヒドロキシ基が無保護のままでも、望む位置に高選択的に立体、位置を制御し糖を導入するこ
とができる。また、糖加水分解酵素の逆反応を利用した糖鎖伸長法の研究も盛んである。さらに、
山本らにより単離されたエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ (Endo-M) などの酵素を用いると単
糖のみならず糖鎖を付加することもできる

17)

。これらの反応では、化学合成と違い保護基を用いな

いので、工程数も少なくて済む。化学合成では多工程が必要なシアリルルイス X のような複雑な糖
鎖も、複数の酵素を利用することで合成することができる 18)。
酵素合成はこのように複雑な糖鎖、あるいは大きな糖鎖を合成できるという利点もあるが、一方
で問題点もある。まず、糖転移酵素は多くが膜結合型タンパク質のため発現や精製が難しく価格が
高いことがあげられる。また糖転移反応にドナーとして用いる糖ヌクレオチドも化学合成は難しいため、
現在では細胞培養により生産され市販化されているが価格が非常に高価である。これらのことから
一般に酵素法のみを利用した場合、多量合成には不向きとされている。さらには、糖鎖は結合様式
が多彩なため望むすべての結合を構築できるだけの酵素の種類はまだ見つかっていない。そこで、酵
素では構築ができない部分を化学合成で補い組み合わせて使用する化学酵素的合成 (chemoenzymatic synthesis) の研究も盛んにされており 19)、反応を効率的に進め目的物の生産性を
上げることができるのならば、酵素はとても有用なツールであることは間違いない。
そこで本研究では、酵素を利用した糖鎖合成における添加剤及びマイクロ波の効果に関する研
究として、酵素を使った糖鎖合成の効率化および簡便化を目指し、3つの観点から検討を行った
(Table 2)。
Table 2. 酵素反応プロセスの改良検討

第1章では、グリコシル化に対するシクロデキストリン添加の効果として、糖転移反応の向上を検
討した。溶解度を上げる方法としてシクロデキストリン (CD) の添加を検討した。
4

第2章では、シアリルトランスフェラーゼの加水分解副反応に対する有機溶媒添加の効果として、
糖転移反応の副反応を抑制する条件検討を行った。
第3章では、耐熱性β-グルコシダーゼ HT1 の加水分解反応におけるマイクロ波照射の効果を
検討した。
以下に各章について詳細を述べる。 ...

この論文で使われている画像

参考文献

54) Gedye R, Smith F, Westaway K, Ali H, Baldisera L, Laberge L, Rousell J,

Tetrahedron Lett., 1986, 27, 279-282.

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Chemistry.

57) Zhao H, Microwave-assisted Enzymatic Reactions in Aqueous Media, (Eds;

Polshettiwar V, Varma RS, Aqueous Microwave Assisted Chemistry,

Synthesis and Catalysis), Chapter 5, 2010, pp123-144, Royal Society of

Chemistry.

58) Ohrui H, Kato R, Kodaira T, Shimizu H, Akasaka K, Kitahara T, Biosci.

Biotechnol. Biochem., 2005, 69, 1054-1057.

59) Yoshimura Y, Shimizu H, Hinou H, Nishimura S-I, Tetrahedron Lett., 2005,

46, 4701-4705.

60) Shimizu H, Yoshimura Y, Hinou H, Nishimura S-I, Tetrahedron, 2008, 64,

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62) Nagashima I, Shimizu H, SSOCJ Journals (有機合成化学協会誌), 2012, 70,

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65) Herrero MA, Kremsner JM, and Kappe CO, J. Org. Chem., 2008, 73, 36-47.

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52, 7918-7923.

67) Kappe CO, Angew. Chem. Int. Ed., 2013, 52, 7924-7928.

68) C&EN Washington, Chem. Eng. News, 2014, 92(4), 26–28.

69) Nushiro K, Kikuchi S, Yamada T, Chem. Commun., 2013, 49, 8371.

70) Nushiro K, Kikuchi S, Yamada T, Chem. Lett., 2013, 42, 165-167.

95

71) Tashima S, Nushiro K, Saito K, Yamada T, Bull. Chem. Soc. Jpn., 2016, 89,

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72) Yokoe T, Ohki Y, Nagashima I, Takahashi N, Shimizu H, JEMEA J. 2019, 3,

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73) Vukova T, Atanassov A, Ivanov R, Radicheva N, Med. Sci. Monit., 2005,

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75) Yang T, Leśnierowski G, Acta Sci. Pol. Technol. Aliment., 2020, 19(2) 149–

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76) Young DD, Nichols J, Kelly RM, Deiters A, J. Am. Chem. Soc., 2008, 130

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77) Data sheat from Thermostable Enzyme Laboratory Co., Ltd., Kobe, Japan.

78) Stuerga D, (Eds; Loupy A, and delaHoz A, Microwave in Organic Synthesis,

Third ed.), 2012, pp. 3-56, WILEY-VCH, Weinheim.

79) Sugiyama J, Sugiyama H, Sato C, Morizumi M, Electromagnetic Relations

between

Materials

and

Fields

for

Microwave

Chemistry,

DOI:10.5772/intechopen.106257, IntechOpen, London.

96

2022,

結語

1970 年代からの多くの研究により、多くの糖鎖の化学合成が網羅的に達成される様になったと

はいえ、化学的糖鎖合成では熟練したスキルが必要な上に、その工程数も多くなることから、時間や

コストが多くかかり、糖鎖化合物が創薬や材料などに利用展開される例が非常に少ないのが現状で

ある。酵素反応における基質特異性を上手く利用することで、糖鎖合成の困難さを多く解消できる

とも考えられているが、酵素反応を産業マテリアル生産に利用するためには、基質の可溶性の問題、

加水分解反応などの副反応制御、高活性化などの課題が依然潜んでいる。

本研究では、これらの課題の解決の一策として、酵素を利用した糖鎖合成における添加剤及び

マイクロ波の効果に関する研究を行った。通常、酵素を用いる糖鎖合成では反応の改良を行うため

に、用いる酵素を探索するのが一般的であるのに対し、本研究では添加する化学物質や加熱の手

法など、外的な要因で制御する方法を研究した。

第1章では、「ガラクトシルトランスフェラーゼによるグリコシル化に対するシクロデキストリン添加の

効果」と題し、基質の溶解度に着目した検討を行った。糖転移反応は、水系に溶解している酵素と

接触するために基質も水系に存在していなければならないが、十分な溶解性を持たない場合がある。

そこで、難溶性の基質でも反応が進行する方法としてシクロデキストリンの添加を行った。その結果、

効果が認められ、反応が促進した。これにより糖転移反応が高収率/高濃度で行えるようになった。

第2章では、「α2,3-シアリルトランスフェラーゼの加水分解副反応に対する有機溶媒添加の効

果」と題し、副反応の抑制に着目した検討を行った。シアリルトランスフェラーゼによるシアリル化は、

初期においてドナーが十分な濃度で存在すればその反応は早いが、一方で副反応である加水分解

反応も並行する。副反応が起こりにくい糖転移酵素を使っても加水分解を十分に抑えきれなかった。

そこで、副反応の抑制として有機溶媒の添加を試みたところ、緩やかな酵素失活が起こり、結果とし

て、副反応が抑制された。これは有用な(貴重な)シアル酸含有糖鎖を高収率で得る手法とみら

れる。

第3章では、「耐熱性 β-グルコシダーゼ HT1 の加水分解反応におけるマイクロ波照射の効果」

と題して、マイクロ波加熱による特殊効果に着目した検討を行った。加熱手段としてマイクロ波を用

いた場合、酵素反応にどのような効果があるかは十分に知られていない。検討の結果、低周波数

(400 MHz) の照射による導電加熱は酵素反応の活性をあげるが、高周波数 (5.80 GHz) の

照射による誘電加熱は通常加熱と差がないことが判明した。これは周波数を変えると作用が変わる

という非常に興味深い結果である。反応性の差異は、照射周波数によって応答するバッファーの物

97

性が異なることが原因と考えられる。これを拡張すると、酵素内部のイオン構造が活性化に作用して

いるのではないかと推定される。

以上、酵素を用いた糖鎖合成手法の検討において、シクロデキストリン添加、有機溶剤添加、マ

イクロ波照射という、これまでの酵素反応では利用されていなかった3つの外的な要素が糖鎖の効

率的な多量合成の有効手段となりえることを示した。本研究が糖鎖合成における新規高分子バイ

オ医薬品の創生、構造解析、標準品の提供等に繋がれば幸いである。

98

論文目録

1) Nagashima I, Shimizu H, Matsushita T, Nishimura S-I, Chemical and

enzymatic synthesis of neoglycolipids in the presence of cyclodextrins.

Tetrahedron Lett., 2008, 49 (21), 3413-3418.

2) Nagashima I, Mine T, Yamamoto T, Shimizu H, Efficiency of organic solvents

on the ability of α2,3-sialyltransferase from Photobacterium sp JT-ISH-224

to control a hydrolysis side reaction. Carbohydr. Res., 2012, 358, 31-36.

3) Nagashima I, Shimizu H, Studies of cyclodextrin effect for glycosylation by

galactosyltransferase. Tetrahedron, 2014, 70 (19), 3146-3154.

4) Nagashima I, Sugiyama J, Sakuta T, Sasaki M, Shimizu H, Efficiency of 2.45

and 5.80 GHz microwave irradiation for a hydrolysis reaction by

thermostable β-Glucosidase HT1. Biosci. Biotechnol. Biochem., 2014, 78

(5), 758-760.

5) Nagashima I, Sugiyama J, Shimizu H, Study of 400 MHz microwave

conduction loss effect for a hydrolysis reaction by thermostable βGlucosidase HT1. Biosci. Biotechnol. Biochem., 2023, 87 (2), 158-162.

99

謝辞

本論文の作成に当たり、懇切丁寧なご助言ご指導を賜りました東北大学大学院農学研究科

桑原重文教授に甚謝申し上げます。

本論文の審査をお引き受けくださいました東北大学大学院農学研究科 新谷尚弘教授、石田

宏幸教授、金子淳准教授、二井勇人准教授、榎本賢准教授、堀雅敏教授に感謝申し上げます。

本研究の遂行にあたり、有益なご助言また活発な論議をしてくださいました産業技術総合研究

所 清水弘樹博士、マイクロ波照射装置の作成をしてくださりマイクロ波化学の基礎をご教授いただ

きました杉山順一博士に深謝申し上げます。

酵素反応及びペプチド合成の実験を指導してくださいました産業技術総合研究所 松下隆彦博

士(現 埼玉大学助教)、作田智美氏に感謝申し上げます。

独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO) 「糖鎖機能解明による新規

診断・医療応用の開発」プロジェクトでお世話になりました東京大学 畑中研一元教授、北海道大

学 西村紳一郎教授、慶応大学 佐藤智典教授に感謝申し上げます。

BLase をご供与いただきました塩野義製薬株式会社、α2,3-シアリルトランスフェラーゼをご供与

いただきました日本たばこ産業株式会社 山本岳博士、峰利喜博士、β-グルコシダーゼ HT1 をご

供与いただきました株式会社耐熱酵素研究所 奥崇氏、鹿島康浩博士に御礼申し上げます。

研究生活を送るにあたり、これまで在籍した産業技術総合研究所 創薬シーズ探索研究ラボ、

分子生物工学研究グループ、生物材料工学研究グループ、合成生物工学研究グループ、多細胞

システム制御研究グループの皆様に公私にわたり支えていただいたことに感謝申し上げます。

最後に、研究の道へと通ずる探求心を育む環境を与え、いつも見守ってくれた祖母 渡邉ミ子に

深く感謝いたします。

2023 年 2 月 3 日 長島 生

100

...

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