Aberrant Nuclear Localization of aPKCλ/ι is Associated With Poorer Prognosis in Uterine Cervical Cancer
概要
序論
子宮頸癌は世界保健機関(WHO)よりヒトパピローマウイルスのワクチン接種・がん検診・適切な治療により将来的に排除が見込める疾患とされていが,本邦は先進国の中でも罹患率・死亡率が高く(Hori et al., 2015),ワクチン接種勧奨の一時中止やがん検診受診率の低迷(Lei et al., 2020)により今後も浸潤癌の発生が予想される.進行子宮頸癌に対する分子標的治療薬は、ヒト血管内皮増殖因子を標的としたベバシズマブのみが本邦では保険承認されているが,予後は不良で新たな創薬が期待されている.
atypical protein kinase C λ/ι (aPKCλ/ι)は,正常上皮細胞で細胞の分化・細胞極性決定に寄与する蛋白である(Ohno, 2001, Suzuki and Ohno, 2006).子宮頸頸癌の前がん病変である子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)で aPKCλ/ι が異常発現し,病変の進行のリスクと関連すると先行研究で示した(Mizushima et al., 2016).また,子宮頸癌以外のがん腫では aPKCλ/ι の過剰発現もしくは低発現症例の予後が不良であるとの報告があり,癌腫によって aPKCλ/ι の機能は異なることが示唆されている.
本研究では,子宮頸癌において aPKC λ/ι が分子標的治療の標的分子となりえるか評価するために,子宮頸癌における aPKC λ/ι の発現量と局在を評価し臨床病理因子や予後との関連を解析した.また,前がん病変と浸潤癌,および原発巣と転移・再発病巣の aPKCλ/ι 発現様式をそれぞれ比較し, 発がんの初期段階から浸潤癌の進行段階までの幅広い進行過程における aPKC λ/ι の役割を評価する.以上を通して,CIN から進行浸潤癌のどの対象で aPKCλ/ι が治療標的になるか検討した.
実験材料と方法
2004年1月から2011年12月に横浜市立大学附属病院産婦人科と神奈川県立がんセンターで子宮頸癌に対して初回治療を行った168例および良性疾患で子宮頸部検体を採取した13例を対象として,臨床・病理学情報および子宮頸部組織の生検標本もしくは手術摘出標本を収集した.子宮頸部組織のaPKCλ/ιを免疫組織化学で検出して発現形式を評価し,aPKCλ/ιの発現異常と臨床病理学因子を比較と,発現パターンによる予後の差を解析した.また,同一検体に前がん病変と浸潤部が隣接する43症例と,原発と転移巣の両方から組織を得られた8例について,それぞれのaPKCλ/ιの発現様式を比較した.本研究は「子宮がんの病態の解明と治療標的分子同定を目的とした遺伝子発現解析 横浜市大附属病院,神奈川県立がんセンターからの試料を用いた検討」という研究テーマで,横浜市立大学の倫理委員会では2011年11月24日に承認(承認番号 A111124002),神奈川県立がんセンターの倫理委員会では2012年1月13日に承認を得た(承認番号23疫33).
結果
正常扁平上皮におけるaPKC λ/ιの染色様式は,発現量は低く,細胞質と細胞間に局在した.一方,子宮頸癌の69.0%ではaPKC λ/ιが高発現していた(p<0.001).発現量と進行期分類,予後に相関はなかった.高発現群は低発現群と比較し有意にリンパ節転移が多かった(p=0.015).子宮頸癌の36.9%ではaPKC λ/ιが核に異常局在し,進行期分類が進むほど,核局在である率は有意に増えた(p<0.001).aPKC λ/ι核局在群の方が細胞質局在群と比較して有意に予後不良であった(p<0.001).aPKC λ/ιの局在様式は原発巣の浸潤部と転移性腫瘍では8例中7例が一致する一方,前癌病変と隣接する浸潤部の一致率は69.8%(30/43例)であり,27.9%(12/43例)の症例は,前癌病変は核局在であるが,浸潤部では細胞質局在であった.
考察
子宮頸部浸潤癌では aPKC λ/ι の過剰発現と予後の関連は認めなかったが,核に異常局在する一部の症例は予後不良であった.臨床進行期の進行症例ほど aPKC λ/ι の核局在症例の割合が多いが,FIGO III・IV 期の症例に限定した解析でも aPKC λ/ι が核に局在する症例は予後が不良で,進行期とは独立した子宮頸癌の予後因子である.先行研究で aPKC λ/ι の核局在と CIN の進展の関連を示しており,aPKC λ/ι の核局在はがん初期から浸潤がんまでの過程で一貫して病変の進行・進展と関連していると考えられる.
aPKC λ/ι の核局在は乳癌で唯一報告されていた(Paul et al., 2014)が,その機能については神経細胞で増殖と関連する報告があるが不明な点が多く,予後との関連を本研究で初めて示した.浸潤癌の同一症例で aPKC λ/ι は原発巣と転移巣で同じ局在である症例が多かったが, CIN3 と隣接する浸潤癌の部位の比較では aPKC λ/ι が核局在から細胞質局在に変化する症例を認めた.これは,CIN が浸潤癌になる過程で生じる他の遺伝子変異により aPKC λ/ι の局在が影響を受ける可能性を示唆している.浸潤癌に進展した比較的早い段階で aPKC λ/ι の局在は決まると考えられる.
結論
子宮頸部の浸潤癌においてもCIN と同様に aPKC λ/ι の核局在が病変の進展に関与している可能性が示された.子宮頸癌において aPKC λ/ι の異常な核局在が予後予測バイオマーカーとなり,がん細胞の表現型に関与する可能性を初めて示した.また,原発・転移巣の比較から,この異常発現は浸潤癌発生の初期から保持され続ける性質と考えられ,原発巣や遠隔転移巣の両方の分子標的治療の標的となる可能性がある.