関節リウマチにおける炎症および骨破壊の分子機構の解析
概要
[課程-2]
審査の結果の要旨
氏名 杉田 拓也
本研究は、関節リウマチの炎症及び骨破壊の分子機構の一端を明らかにするため、関節リ
ウマチ関連遺伝子 Wdfy4 と、破骨細胞分化因子 RANKL に着目して、CRISPR/Cas9 法に
より作製した遺伝子改変マウスに対して関節炎モデルを用いて評価することで、下記の結
果を得ている。
1. Wdfy4 遺伝子欠損マウス(C57BL/6J 背景、DBA/1J 背景)を作製し、生理的条件下で
の表現型解析および関節炎モデルの評価を行った。Wdfy4 遺伝子欠損マウスでは野生
型マウスと比べて関節炎が増悪化しており、Wdfy4 は関節炎の悪化を抑制する機能を
有することを見出した。
2. 膜結合型 RANKL 欠損マウス(C57BL/6J 背景、DBA/1J 背景)と可溶型 RANKL 欠損
マウス(DBA/1J 背景)を作製し、生理的条件下での表現型解析および関節炎モデルの
評価を行った。可溶型 RANKL 欠損マウスでは生理的条件下での骨代謝や免疫組織形成
に異常は見られないことが報告されている一方で、膜結合型 RANKL 欠損マウスでは顕
著な骨量の増加や鼠径部リンパ節の形成不全を認めた。この結果から、RANKL の生理
的な機能においては可溶型 RANKL よりも膜結合型 RANKL の方が寄与が大きいこと
が明らかになった。また関節炎モデルにおいて、可溶型 RANKL 欠損マウスでは野生型
マウスと同等の骨破壊を認めたが、膜結合型 RANKL 欠損マウスでは骨破壊が抑制され
た。この結果から、関節炎モデルマウスにおける骨破壊には可溶型 RANKL ではなく膜
結合型 RANKL が必要であることを明らかにした。
以上、本研究は関節リウマチ関連遺伝子として同定されていたものの関節リウマチにお
ける役割は未解明であった Wdfy4 について、関節炎の悪化を抑制する機能を有することを
見出した。また、膜結合型 RANKL と可溶型 RANKL については、関節炎に伴う骨破壊に
おいて、膜結合型 RANKL を介した細胞間の直接接触が重要であること、可溶型 RANKL
は直接骨破壊を誘導できないことを見出した。本研究により、関節リウマチにおける炎症と
骨破壊のそれぞれの分子機構の一端が明らかにされた。Wdfy4 の機能を亢進することや、
膜結合型 RANKL から可溶型 RANKL への変換を促進して膜結合型 RANKL の量を減らす
ことが、それぞれ関節リウマチにおける炎症と骨破壊に対する新たな治療法につながるこ
とが期待できる。
よって本論文は博士( 医学 )の学位請求論文として合格と認められる。