転写因子Runx3 の関節形成・維持機構の解明
概要
[課程-2]
審査の結果の要旨
氏名
永田 向生
本研究は軟骨成熟に重要な役割と演じていると考えられてきた転写因子 Runx3 の軟骨細
胞における関節形成・維持機構を解明するため、複数のパターンの軟骨特異的な Runx3 ノ
ックアウトマウスを作成して、軟骨肥大分化や、成熟後の関節軟骨の変性を評価したもの
であり、以下の結果を得ている。
1.
軟骨特異的 Runx3 ノックアウトマウスは、骨格異常を含む明らかな表現型を示さなか
った。
2.
Runx3 は WT マウスの関節軟骨発現しており、2 ヶ月齢でも表層・深層ともに発現して
いた。変形性関節症(OA)を誘導する外科モデルおよび加齢で、WT マウスの関節軟骨の
Runx3 は漸減した。
3.
タモキシフェン誘導性の軟骨全層ノックアウトマウスは外科モデルで OA が進行した。
同様にタモキシフェン誘導性の軟骨最表層特異的 Runx3 ノックアウトマウスでも外科
モデルで OA が進行した。
4.
特に軟骨再表装が ChIP-seq および RNA-seq の網羅的な解析から、転写標的遺伝子と
して、関節潤滑に関わるルブリシンをコードする Prg4 と、軟骨組織に保護的に作用す
る細胞外基質アグリカンをコードする Acan を同定した。
5.
アデノウイルスベクター液を用いて軟骨細胞に投与する系を in vitro で検討して軟骨基
質を破壊する酵素が上昇しないことを確認した。このアデノウイルスベクター液を関節
内に投与して Runx3 を過剰発現させると、外科モデルによる OA の進行を抑制した。
以上、転写因子 Runx3 は、Prg4 や Acan などの関節保護因子の発現を介して、OA に対し
て保護的に働くことが示唆された。本研究は Runx3 の関節形成・維持機構の解明に貢献し、
Runx3 が OA に対する新たな治療標的である可能性を示したと考えられる。
よって本論文は博士( 医学 )の学位請求論文として合格と認められる。