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妊娠高血圧腎症に対するリコンビナント・トロンボモジュリンの効果に関する研究

小田, 紘子 東京大学 DOI:10.15083/0002005092

2022.06.22

概要

妊娠高血圧腎症(PE)とは胎盤形成異常に起因する全妊娠の5-7%に合併する疾患である。高血圧症、腎機能障害、胎児発育不全を主症状とする一連の病態であり、周産期予後を増悪させる主要な因子の一つである。しかしながらPEの有効な治療法はなく、新たな治療薬の開発は現代周産期医療の大きな課題である。リコンビナント・トロンボモジュリン(rTM)は血管内皮細胞膜上に存在する糖蛋白質トロンボモジュリン(TM)のヒト遺伝子組み換え型製剤であり、DICの治療薬として臨床応用されている抗凝固薬である。rTMは炎症性サイトカインメディエーターHigh-mobility group box1(HMGB1)の抑制を介する抗炎症作用を併せ持つことでも知られている。PEは胎盤組織障害を起源とする炎症性サイトカインの過剰分泌が深く関与する全身性血管内皮障害が主な病態であることから、PEの新たな治療薬としてrTMの有効性が期待される。本研究において我々はアンジオテンシンⅡ(AngⅡ)により誘導されるPEマウス疾患モデルを作成し、rTMの治療効果を検討した。さらにHMGB1に焦点を当て、ヒト絨毛細胞株(HTR-8)を用いてrTMの治療効果の機序を明らかにすることを目的としたinvitro実験を行なった。また、妊婦に投与するにあたり胎児毒性のリスクを考えてrTMの胎盤通過性を厳密に制御すること及びrTMの胎盤組織集積率を上げPEに対する治療効果の向上を図ることの2点を目的に、胎盤標的型Drug Delivery System(DDS)としてPEG化rTM(rTMPEG)を作成しその効果をinvivoにて検証した。

AngⅡ持続投与により誘導されるPEマウスモデルを作成しrTMのPEに対する治療効果を検証した。PEの主な臨床症状は胎盤機能障害に起因する高血圧、腎機能障害及び胎児発育不全であり、胎盤より分泌される血清中可溶性fms様チロシンキナーゼ1(sFlt-1)の上昇は病勢を反映するマーカーである。RASの過剰亢進がヒトにおけるPEの病態の一つであることは既知の事実であり、本研究では妊娠マウスへのAngⅡ持続投与により誘導されるPEの動物疾患モデルを用いてrTMの治療効果を検証した。AngⅡ持続投与した妊娠マウスで血清sFlt-1上昇を含めたPEの主要な臨床症状が確認され、rTM投与によりその所見は有意に改善された。

PEの病態の本幹は胎盤組織障害であるため、PEモデルマウス及びrTM投与マウスの胎盤組織の病理学的変化を比較検証した。PEモデル群の胎盤は小さく、機能層の菲薄化が確認されたが、rTM投与によりこの胎盤機能障害を示唆する所見は有意に改善を認めた。更に血管内皮障害を評価する目的で抗CD31抗体による免疫染色を行なった。PEモデル群の胎盤ではCD31の発現が減弱しており、AngⅡ刺激による血管内皮障害が示唆された。一方、rTM治療群の胎盤で1はCD31の著名な発現亢進が確認された。以上の病理学的所見よりAngⅡによって惹起される胎盤組織及び血管内皮の障害がrTM治療により修復されることが示された。

障害された胎盤絨毛細胞から炎症性サイトカインが母体循環に過剰放出され、胎盤局所から全身への炎症波及に伴う全身血管内皮障害がPEの病態生理である。HMGB1は障害された細胞から血液中に排出される炎症性サイトカインメディエーターでありTLRやRAGEを介して二次的炎症を促進する。rTMがPEに対して治療効果を示す機序にHMGB1抑制作用が関与している可能性を考え、PEマウスモデルにおける血清HMGB1値とそれにより誘導される炎症性サイトカインIL−6、TNFαに着目して検証を行なった。マウス母体血清中のHMGB1値はPEモデル群で高値であり、rTM投与によりその上昇が抑制された。また、胎盤組織内に蓄積されたHMGB1タンパク量はコントロール群と比較してPEモデル群で減少を認めた。臨床症状が改善されたrTM治療群においても胎盤内HMGB1タンパク量は減少しており、組織内タンパク量の回復は認められなかった。続いて、胎盤におけるIL−6、TNFαのmRNA発現量を検証した。PEモデル群では血清HMGB1値の上昇に伴ってIL−6、TNFαの遺伝子発現亢進が認められ、rTM治療群ではその発現が抑えられた。以上より、PEモデル群において上昇を認めた血清HMGB1は胎盤由来であり、rTMは血清HMGB1を吸着して二次的炎症を抑えることによりPEに対する治療効果を示すこと可能性が示唆された。

更にin vitro実験でヒト胎盤絨毛細胞株であるHTR-8細胞におけるAngⅡおよびrTMの作用を検証した。AngⅡ刺激を加えたHTR-8細胞では、sFlt-1mRNA発現量及び上清中の分泌sFlt1量の増加が認められ、rTMによりその上昇が有意に抑えられたことから、rTMはHTR-8細胞においてもAngⅡ誘導性sFlt-1発現の抑制作用を示すこと確認された。またAngⅡ刺激を加えた細胞では上清中HMGB1タンパク量が増加し、これもrTMの投与により抑制された。IL−6とTNFαも同様にAngⅡ刺激により細胞内mRNA発現が亢進し、rTM投与によって抑制された。以上の結果よりHTR-8細胞はAngⅡ刺激によりsFlt-1、HMGB1及びそれにより誘導される炎症性サイトカインの発現が促進されることが確認され、その上昇はrTM投与により有意に抑制されことが示された。これは本研究のin vivo実験の結果を裏付けるものであった。

絨毛細胞に対するHMGB1の直接的な作用を検証する目的でsiRNAトランスフェクションによるHTR-8細胞のHMGB1遺伝子抑制を行いAngⅡ刺激に対する反応を検証した。AngⅡ刺激を加えたHMGB1遺伝子抑制HTR-8細胞では、sFlt-1、IL-6、TNFαの発現が有意に抑制されることが示された。さらにHTR-8細胞をリコンビナントHMGB1(rHMGB1)にて刺激し、その反応を検証したところsFlt-1、IL-6及びTNFα全ての発現亢進を認めた。以上の結果より、AngⅡ刺激によって誘導されるHTR-8細胞のsFlt-1及び炎症性サイトカインの発現亢進にはHMGB1が直接的に関与していると考えられる。

続いて妊婦への投与を目指すにあたり薬剤の胎盤通過性を制御し、投与量を減量して副作用のリスクを減らす目的で、DDSナノテクノロジーを応用して胎盤標的型PEG化rTM(rTMPEG)を作成した。薬剤生体内分布を評価するため蛍光標識したrTM単体及びrTMPEGをPEモデルマウスに投与しin vivo imaging system(IVIS)にて解析を行なった。rTM単体、rTMPEGはいずれも胎児への明らかな移行は確認されず、rTMPEGは胎盤特異的集積性が有意に高いことが示された。さらにrTMPEGを上述のin vivo実験と同様の方法でAngⅡ誘導PEモデルマウスに投与し、PEに対する治療効果について検証した。rTMPEGはPEの臨床症状に対しより高い治療効果を示し、投与量を減量しても十分な効果が確認された。PEG化することでrTMを胎盤に効率的に集積させることにより、PEに対する治療効果が向上することが示された。

本研究で我々はAngⅡ誘導PEモデルマウスにおいてrTMがPEの主症状である高血圧、腎機能障害、胎児発育不全を有意に抑制することを示した。その治療効果の機序に炎症性サイトカインメディエーターであるHMGB1とHMGB1により誘導される炎症性サイトカインIL−6、TNFαが深く関与していることを明らかにした。HMGB1を吸着することでrTMは絨毛細胞からの過剰なsFlt1産生と胎盤局所及びそこから波及する炎症を抑制した。この研究結果はrTMがPEの治療薬として大きな可能性を持つことを示している。またrTMをPEG化して胎盤選択的に集積させることにより、胎盤通過性を厳密に抑制し薬剤投与量の減量が可能であることが示された。DDS技術を応用することによりPEの治療薬としてrTMのより安全な臨床応用が可能になると考える

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