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大学・研究所にある論文を検索できる 「肝類洞閉塞症候群におけるTP受容体、血小板の役割」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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肝類洞閉塞症候群におけるTP受容体、血小板の役割

大高 史聖 北里大学

2021.07.20

概要

【背景】
 肝類洞閉塞症候群(Sinusoidal Obstruction Syndrome, SOS)は、造血幹細胞移植時の化学療法や放射線療法、大腸癌などに用いられるオキサリプラチンベースの化学療法、またクロタラリア属の植物に由来する有毒なピロリジジンアルカロイドの過剰摂取などにより生じる進行性の致命的な合併症である。重症化すると劇症肝不全や多臓器不全となり、80%以上の死亡率がみられる。肝類洞内皮細胞(Liver Sinusoidal Endothelial Cell, LSEC)は、SOS の主要な初期標的であると考えられており、 LSEC の破壊により類洞の血流障害が起き、続いて類洞外出血、類洞内皮細胞障害、中心静脈周囲の肝細胞壊死、および肝線維症が引き起こされる。また SOS では末梢血中の血小板減少ならびに、肝障害部に著明な血小板集積が起こることが報告されているが、その病的意義は不明である。また、トロンボキサン A2(Thromboxane A2, TxA2)はその受容体である T-プロスタノイド(T-Prostanoid, TP)受容体を介して強力な血小板活性化作用や凝集作用を示すことが知られている。TP 受容体シグナルが SOS における血小板集積や肝障害に関与する可能性があるがその詳細は不明である。

【目的】
 SOS におけるTP 受容体ならびに血小板の役割を明らかにする。

【方法】
 ピロリジジンアルカロイドであるモノクロタリン(Monocrotaline, MCT)をげっ歯類に投与することで、ヒト SOS に類似した肝障害モデルを作成することができる。本研究ではマウスに MCTを投与し、MCT 誘導マウス肝障害モデルを作成し、SOS モデルとして使用した。
 実験動物として、週齢 8~10 週の雄性 TP 受容体欠損(TP-/-)マウスと雄性野生型(WT)マウスを使用した。評価方法として、MCT 投与 96 時間後までの生存率、MCT 投与 48 時間後までの血清 ALT 値、肝壊死面積、類洞内皮障害関連マーカーの mRNA 発現量、また肝障害部に集積する血小板面積についてTP-/-と WT で比較検討を行った。また、単離したTP-/-と WT の肝類洞内皮細胞(LSEC)に対し、MCT を添加して障害を加えた際の細胞生存率、類洞内皮障害関連マーカーの mRNA 発現量についても比較検討を行った。また、WT マウスから単離した LSEC に TP受容体アゴニストである U-46619 を投与した際の類洞内皮障害関連マーカーのmRNA 発現について対照群と比較検討を行った。
 血小板の SOS における役割を調べるために、抗 CD41 抗体と抗血小板血清で末梢血中の血小板を減少させたマウス(血小板減少群)、またトロンボポエチン(Thrombopoietin, TPO)とトロンボポエチン受容体作動薬(Romiplostim, ROM)で末梢血中の血小板を増加させたマウス(血小板増加群)を作成した。血小板減少群においては、MCT 投与 0、24 時間後までの血清 ALT 値、末梢血中の血小板数、肝壊死面積について対照群と比較検討を行った。また、血小板増加群においては、MCT 投与 0、24、48 時間後までの血清 ALT 値、末梢血中の血小板数、肝類洞内皮関連マーカーの mRNA 発現量、MCT 誘導肝障害部に集積する血小板面積、また MCT 誘導肝障害部に集積する血小板活性化率について対照群と比較検討を行った。また、WT マウス由来の LSECを MCT で刺激し、異なる 3 つの濃度の血小板(0, 1×106/well, 1×107/well)を添加したときの LSEC 生存率や類洞内皮障害関連マーカーの mRNA 発現量について比較検討を行った。

【結果】
1. TP-/-において MCT 誘導肝障害は増悪
 TP シグナルの MCT 誘導肝障害における役割を調べるために TP-/-とWT について比較した。生存率はWT において MCT 投与 96 時間後時点まで 100%であったのに対し、TP-/-では MCT 投与 48 時間後に 70%、MCT 投与 72 時間後に 10%まで低下した。この結果をもとに、それ以降は MCT 投与 48 時間後までの検討とした。血清 ALT 値を測定すると、WT、TP-/-両群共に経時的に上昇し、MCT 投与 48 時間後に TP-/-において有意な上昇が認められた。また、MCT 投与 48 時間後の肝障害部の壊死面積もTP-/-で増大傾向が認められた。

2. MCT 誘導肝障害により TP 受容体の発現は亢進
 MCT 投与後、WT において、肝臓内の TP 受容体、TxA2 合成酵素のmRNA 発現量は有意に増強した。また TxA2 の代謝産物である TxB2 の産生量を ELISA で評価すると、MCT 投与 48 時間後まで経時的に増加した。また、MCT 障害肝におけるTP 受容体の局在について免疫 2 重染色で検討すると、LSEC および血小板、マクロファージに TP 受容体の発現がみられた。TP-/-ではTP受容体の発現が認められなかった以外は、WT と同様の結果であり、また有意差も認められなかった。MCT 誘導肝障害部に集積するマクロファージの数は TP-/-, WT 間で差がみられなかったことから、血小板もしくは LSEC に発現する TP 受容体のどちらかが MCT 誘導肝障害の抑制に関与している可能性が示唆された。

3. 血小板由来の TP シグナルは MCT 誘導肝障害部の血小板集積に影響しない
 末梢血中の血小板数は MCT 投与 48 時間後、WT、TP-/-両群共に著明に減少を認めたが、TP-/-, WT 間で有意差はみられなかった。また、MCT 投与 48 時間後までの肝障害部に集積する血小板を抗 CD41 抗体で染色し、その面積を免疫染色で評価したところ、両群共に MCT 肝障害部の血小板面積は経時的に増加したが、WT、TP-/-両群間で有意差は認められなかった。以上の結果から、血小板に発現する TP 受容体シグナルは MCT 誘導肝障害における血小板集積には関与せず、MCT 誘導肝障害に影響を与えないことが示唆された。

4. MCT による LSEC 障害は TP-/-で増悪
 MCT 誘導肝障害時のLSEC 障害について WT, TP-/-間で差がみられるかについて LSEC のマーカーである CD31 と LYVE-1 抗体を用いて中心静脈周囲の類洞を染色し評価を行った。MCT 投与 0 時間後では両群共に中心静脈周囲の類洞の染色性に差は見られなかった。しかし、MCT 投与 48 時間後では、WT にくらべ TP-/-において中心静脈周囲の類洞の染色性がより消失し、LSECの構造が不明瞭となった。また、MCT 投与 48 時間後において、類洞内皮障害関連マーカーである MMP-9、PAI-1、ICAM-1 のmRNA 発現量は WT にくらべ TP-/-で有意に上昇した。以上の結果から、TP 受容体シグナルが MCT による LSEC 障害を抑制する可能性が示唆された。

5. LSEC に発現する TP 受容体シグナルが MCT による LSEC 障害を抑制
 LSEC に発現する TP 受容体シグナルの役割を調べるため、WT と TP-/-の肝臓から CD146 抗体を用いて LSEC を単離し 24 時間培養後、MCT により 20 時間障害を加えた際の LSEC の細胞生存率や類洞内皮障害マーカーの mRNA 発現量について WT と TP-/-間で比較検討を行った。その結果、TP-/-由来の LSEC 生存率は、WT 由来の LSEC 生存率とくらべ有意に低下した。また MCT 投与後、WT 由来 LSEC の TP 受容体 mRNA 発現は増強し、また MMP2、MMP9、PAI- 1、ICAM1 などの類洞内皮障害関連マーカーの mRNA 発現は WT にくらべ TP-/-で増強した。また、WT 由来 LSEC の TP 受容体をTP 受容体アゴニストであるU-46619 で刺激を加えると、U- 46619 非投与群に比べ、上記の類洞内皮障害関連マーカー発現が有意に抑制された。以上の結果から、LSEC に発現する TP 受容体シグナルが LSEC の障害を抑制し、MCT 誘導肝障害を抑制していると考えられた。

6. 末梢血中の血小板数減少により MCT 誘導肝障害が増悪
 MCT 誘導肝障害部への血小板集積の意義を明らかにするため、末梢血中の血小板数を減少させた後に WT マウスに MCT 誘導肝障害を惹起しその影響について対照群と比較検討を行った。末梢血中の血小板数を減少させるために、抗 CD41 抗体、抗血小板血をマウスに投与した。その結果、末梢血中の血小板数は対照群の 10%以下となり、これを血小板減少群とした。また MCT投与 48 時間後の時点で血小板減少群の生存率が著しく低下したため、MCT 投与 24 時間後までの検討とした。MCT 投与 24 時間後、血清 ALT 値は対照群と比べ血小板減少群で有意に上昇を認め、MCT 投与 24 時間後の肝障害部の出血壊死も対照群と比べ血小板減少群で明らかな増悪を認めた。以上の結果から、血小板が MCT 誘導肝障害を抑制する可能性が示唆された。

7. 末梢血中の血小板数増加は MCT 肝障害部の血小板活性化率を上昇させ、肝障害を抑制
 TPO と ROM の投与により作成された血小板増加群は、対照群と比較して MCT 投与前の末梢血中の血小板数が 30~40%程度増加した。MCT 投与 48 時間後において、末梢血中の血小板数は両群共に減少したが、対照群にくらべ血小板増加群で有意にその数は高かった。MCT 投与 48 時間後の血清 ALT 値は血小板増加群において対照群よりも有意に減少した。MCT 投与 48 時間後の類洞内皮(障害)関連マーカーの mRNA 発現について PCR で評価すると、類洞内皮障害マーカーである MMP9 は血小板増加群でその発現は有意に低下し、また類洞内皮細胞マーカーである VEGFR2 は血小板増加群でその発現が有意に上昇した。類洞内皮細胞マーカーである VEGF-A と CD31 の発現は両群で有意差を認めなかった。
 また TPO と ROM を投与し末梢血中の血小板数が増加した血小板増加群において、MCT 投与後の肝障害部への集積血小板数の増加を予想し、肝障害部に集積した血小板面積を対照群と比較したが、両群間で有意差は認められなかった。しかし MCT 投与 48 時間後の肝障害部に集積した血小板を、血小板マーカーであるCD41 抗体と活性化血小板マーカーである CD62p を用いて染色し、血小板の活性化状態を FACS で評価すると、血小板増加群において対照群にくらべ MCT 肝障害部の血小板の活性化率が有意に上昇した。以上の結果から、末梢血中の血小板数の上昇は MCT誘導肝障害部に集積する血小板の活性化率を上昇させ、MCT 誘導肝障害を抑制する可能性が示唆された。

血小板は MCT による LSEC 障害を抑制
 MCT 誘導肝障害における血小板のLSEC に与える直接的な影響を調べる目的で細胞培養実験を行った。まず、WT マウスの肝臓から CD146 抗体を用いて LSEC を単離し、それを①血小板非投与群 , ②血小板 1×106/ml 投与群, ③血小板 1×107/ml 投与群の 3 群に分け、その後に MCT で LSEC を障害した際の細胞生存率を比較した。その結果、血小板 1×107/ml 投与群において、他の 2 群よりもLSEC 生存率が有意に上昇した。また、類洞内皮障害マーカーである MMP9 の mRNA発現は血小板 1×107/ml 投与群で有意にその発現が抑制され、また類洞内皮細胞マーカーである CD31、VEGFR2 の mRNA 発現は血小板 1×107/ml 投与群において有意に上昇した。また VEGF- A は血管内皮保護作用、血管新生作用を持つことから、MCT 投与後の LSEC における VEGF-A mRNA 発現について、3 群で比較したが有意差は認められなかった。しかし、MCT 投与後の培養上清中の VEGF-A 産生量を ELISA で評価すると、血小板 1×107/ml 投与群において、他の 2 群よりも有意にVEGF-A 産生量の増加を認めた。これらの結果から、培養上清中の血小板から放出された VEGF-A が LSEC 保護作用を示し MCT による LSEC 障害を抑制する可能性が示唆された。

【結論】
 LSEC に発現するTP 受容体シグナルが LSEC 障害を抑制し SOS 肝障害を抑制する可能性が示された。また SOS 肝障害部の活性化血小板が VEGF-A を放出し、LSEC 保護作用を示すことで SOS 肝障害が抑制される可能性が示唆された。

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