Clinical risk factors for patients with myelodysplastic syndromes undergoing allogeneic hematopoietic stem cell transplantation
概要
1. 序論
骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes:MDS)とは,血球の形態異常と無効造血を特徴とする難治性造血器腫瘍の総称であり,多様性に富んだ疾患群である(Tefferi and Vardiman,2009).予後予測として,染色体異常や骨髄芽球の割合,血球減少を含めた International Prognostic Scoring System(IPSS)や Revised IPSS(IPSS-R)があり,これらを指標に治療法を決定することが一般的である(Greenberg et al.,1997:Greenberg et al., 2012).同種造血幹細胞移植は,治癒を目的とする唯一の治療であるが,その成績につい ては,疾患の多様性や移植関連死亡,患者の合併症など様々な要因が複雑に交錯し,予測が困難である.移植関連死亡の予測として,患者の臓器障害や合併症から構成される Hematopoietic Cell Transplant-Comorbidity Index(HCT-CI)が頻用されるが,疾患の性質を含まないため,予後を予測することは困難である(Sorro et al.,2005).よって,予後予測因子の更なる検討や,より総合的な予後予測システムの構築が必要であり,本研究で検討することとした.
2. 実験材料と方法
2000 年から 2015 年 3 月で当院とその関連施設において,MDS に対する初回同種造血幹細胞移植を施行した 18 歳以上の 55 例について後方視的に解析し,予後予測因子や新たな予測システムの構築を検討した.本研究は,ヘルシンキ宣言および厚生労働省の臨床研究に関する倫理指針に従って実施された.また,横浜市立大学附属病院の人を対象とする医 学・生物学的研究に関する倫理委員会(B170400006)の承認を得た.各施設の倫理委員会からプロトコルの承認とインフォームドコンセントの書面を取得した.
3. 結果
年齢中央値は 51 歳,追跡期間中央値は 45.8 カ月で,3 年生存(overall survival:OS)率,無イベント生存(event free survival; EFS)率はそれぞれ 61.8,56.4%であった.単変量解析において,55 歳以上,HCT-CI 3 点以上,移植前の IPSS-R に基づく染色体異常が Intermediate もしくはそれより不良,非血縁ドナー,好中球絶対数 800/μl 未満,CRP 上昇が,OS と関連していた.比較的少数例での検討であったため,これら 6 因子のうち,55 歳以上,HCT-CI 3 点以上,移植前の IPSS-R に基づく染色体異常が Intermediate 以下,非血縁ドナーの 4 因子を選択し,3 年OS もしくはEFS に対して Cox 回帰分析を行い,それぞれの症例において該当するリスク因子の回帰係数を合算したリスクモデルを構築した.これらのモデルをROC 分析で評価し,Area under the curve(AUC)はそれぞれ 0.738,0.778であった.ROC 曲線のカットオフ値で分類した場合の感度,特異度は,3 年 OS(カット オフ値 1.635)に対してそれぞれ 65%,78.1%であり,3 年EFS(カットオフ値 1.420)に対してそれぞれ 70.0%,72.4%であった.Over-fitting を考慮し,5-fold Cross-validation を 50 回施行し,それらの平均はそれぞれ,0.711,0.723 であった.さらにリスクモデルを検証するため,3 年OS の ROC 曲線でカットオフ値(1.635)以下(n=32),またはそれ以上(n=20)の 2 群を Kaplan-Meier 法で比較し,カットオフ値以下のグループの方で生存率が高かった(p<0.001).3 年 EFS においても,カットオフ値(1.420)以下の群(n=28)は,それ以上の群(n=24)に比べて良好であった(p<0.001).このリスクモデルを簡便に臨床応用するため,3 年 OS において,年齢を 2点,HCT-CI を 3 点,染色体異常と非血縁ドナーを各 1 点とした新たなリスクモデルを作成し,3 点以上を高リスク群と定義すると,上記のカットオフ値で分けた 2 群に一致した.3年 EFS についても,年齢と染色体異常を各 1 点,HCT-CI を 3 点,血縁ドナーを 2 点と設定し,3 点以上を高リスク群と定義すると,やはりカットオフ値で分けた 2 群と一致し
た.
4. 考察
これらの結果により,4 因子を総合的に考慮することで MDS に対する同種造血幹細胞移植後における予後予測となり得る可能性が示唆された.年齢や HCT-CI は患者の基本的な重要因子であり,染色体異常は疾患の性質を,非血縁ドナーの状態は移植条件を反映しており,これら 4 因子は MDS に対する同種造血幹細胞移植後の予後に影響する重要な因子である.また,本研究では,診断時ではなく移植前のデータや疾患の状態を評価した.診断時よりも移植直前のデータが移植後の予後予測に重要であるとの報告もあり,本研究においても,診断時の骨髄芽球,末梢血芽球,染色体異常は全生存に対する有意な因子ではなかった.16 人(29.1%)で疾患状態の進行もしくは改善を認め,16 人(29.1%)で診断時と移植時の染色体異常の変化が見られた.このことは,診断時よりも移植直前のデータや疾患状態が予後に影響する可能性を示唆している.年齢 55 歳以上,HCT-CI 3 点以上,IPSS-R 分類に基づく移植前の染色体異常が Intermediate もしくはそれより不良,非血縁ドナーの 4 因子を含む,MDS に対する同種造血幹細胞移植のリスクモデルを検討,検証した.疾患の性質,病期,患者背景をより正確に組み込んだ包括的な予後予測モデルが必要であり,より個別化された治療選択が望まれる.