Sequential Versus Combined Heart–Liver Transplantation in the USA
概要
1.序論
心肝同時移植はまれな治療であるが近年その数は増加傾向にある(Beal et al., 2016)。心肝同時移植は心臓単独移植あるいは、肝臓単独移植と比較しても生存率、移植片生着率において遜色のないことがこれまでに報告されている(Cannon et al., 2012)。しかし、心移植後に肝移植を受けた患者と心肝同時移植をうけた患者の予後はこれまで研究されていな い。手術侵襲を小さなものとするために、心移植と肝移植を別々の日程で行うか、あるいは心肝同時移植にメリットがあるのかを知ることが本研究の目的である。
2.方法
研究デザイン;後ろ向き観察研究倫理委員会の許可(承認番号:IRB16-01193)を得たのちに、患者を特定できないかたちでデータはUnited Network for Organ Sharing (UNOS)レジストリから取得した。1987 年から 2018 年までに移植を受けた患者を解析の対象とした。患者フォローアップは 2019年 3 月で中断された。
組み入れ基準は心移植および肝移植前に、心移植と肝移植の両方の待機リストに登録されていた患者、かつ心肝同時移植または心移植後に肝移植をうけた患者とした。主要評価項目は肝移植後生存率、副次的評価項目は肝移植片生着率、心移植片生着率とした。
3.結果
307 人の患者が組み入れられ、301 人が心肝同時移植、6 人が心移植後肝移植を受けていた。患者の背景を比較すると、心肝同時移植群の年齢は中央値 49 歳(IQR37-59)、心移植後肝移植では中央値 55 歳 (IQR: 55-57)であった。統計学的に有意な差を認めた項目は腎移植の同時手術、人工呼吸管理、IABP の使用、医学的な状況だった。腎移植は心移植後肝移植では一連も施行されていなかった。また、心肝同時移植群では 45%の患者が ICUに入室していたが、心移植後肝移植では 83%が入院していなかった。心臓および肝臓の原疾患の重症度についても比較した。心移植の重症度の指標となるUNOS status 1A は心肝同時移植群で 55%(160/289)、心移植後肝移植群で 25%(1/4)(P=0.330, Fischer’s exact test)、肝移植の重症度の指標であるMELD スコアについては、心肝同時移植群で中央値 15(IQR : 10-18)、心移植後肝移植群で 11(10-18)(P=0.613)とどちらも統数学的に有意差はなかった。心臓移植片冷虚血時間、肝臓移植片冷虚血時間も統計学的に有意な差はなかった。肝移植後の生存率は 1、3,5 年後の時点で心肝同時移植群は 88,84,82%、 心移植後肝移植群では 83、67、50%と、心肝臓同時移植群の方が良好であった(P=0.010、Log-rank 検定)。1、3、5 年後の心臓移植片生着率は心肝同時移植群で 86、79、74%、心移植後肝移植群で 83、67、50%(P=0. 009)、1、3、5 年後の肝臓移植片生着率は心肝同時移植群で 88、83、82%、心移植後肝移植群で 83、67、50%(P=0. 0037)と、いずれも心肝同時移植群の方が良好であった。
4.考察
心肝同時移植は近年増加傾向にあり、本研究においても 72%の症例が 2010 年以降に施行されていた。心肝同時移植は心移植後肝移植と比較して、生存率、移植片生着率ともに優れていることが示された。心臓移植の観点から患者を比較すると、UNOS1A の割合は変わらないが、心肝同時移植群は心移植後肝移植群よりも重症度が高かった。また、心移植後肝移植群の MELD スコアは低く、重症度が低いことがわかる。そのため、2 群の差は患者重症度に由来するものではないと考えられる。これまでに、肝移植が免疫寛容を誘導し、拒絶反応の発生率が下げることが肝腎同時移植などで報告されている(Fong et al., 2003)。そのため、今回の 2 群の差は心臓と肝臓を同一のドナーから移植することで免疫寛容を得られた結果と推測した。本研究の問題点として、心移植後肝移植群の人数が少ない点がある。しかし、UNOS という世 界最大規模のデータベースを用いており、さらに移植医療は計画的な比較が困難である。本研究から心移植、肝移植を同時に行うことのメリットを示すことができた。今後心肝同時移植の手術方法や、周術期管理にさらなる進歩が望まれる。