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書き出し

補償点を持つフェリ磁性体における磁気共鳴測定

船田, 晋作 京都大学 DOI:10.14989/doctor.k24444

2023.03.23

概要

学位論文の要約
題目

補償点を持つフェリ磁性体における磁気共鳴測定

氏名

船田 晋作

序論
近年、スピントロニクスデバイスの高性能化を目的として反強磁性磁化ダイナミクス
の研究が精力的に行われている。
反強磁性体とは隣合う磁気モーメントが反平行に配列して正味の磁化を持たない磁性体
であり、漏れ磁場が小さく外部磁場による影響を受けにくいといった特徴を持つ。また、
磁気モーメント間の交換相互作用が有効なトルクを与えるためスピンダイナミクスが強磁
性体よりも高速になる。さらにスピンの歳差運動に 2 つの自由度があるため、スピン波の
偏光自由度が利用可能であるという利点がある。こうした利点から、磁気干渉のない高密
度な磁気メモリや THz スピントルク発振器、スピン波の偏光制御器などといった応用が期
待されている。その一方で、反強磁性体では同種の磁気モーメントが反平行に打ち消し合
うため磁気構造を読み取る手法が限定され、THz 帯域の高速な磁化ダイナミクスを持つた
めその制御が困難であった。
こうした困難を回避する手段として、反強磁性体ではなく、フェリ磁性体を用いること
が可能である。フェリ磁性体とは反強磁性体と同じく反平行に配列した磁気モーメントを
持ちながら、互いの磁気モーメントの大きさが異なるために全体として磁化を持つ物質で
ある。近年、希土類-遷移金属フェリ磁性合金において超高速な磁壁の駆動やスピン波の偏
光自由度の直接観測など様々な特異的な現象が反強磁性的な結合を背景として観測されて
いる。本論文では、フェリ磁性体に対して磁気共鳴測定を行い、フェリ磁性体の反強磁性
体的な磁化ダイナミクスに関する以下 2 つの研究を行った。
(1) パルスレーザ堆積法にて作製した Gd3Fe5O12 薄膜のフェリ磁性ダンピング定数評価
(2) 電磁波照射を用いた GdCo 薄膜における反強磁性ダイナミクスの電気的検出

以下では、各課題について詳細を述べる。

1. パルスレーザ堆積法にて作製した Gd3Fe5O12 薄膜のフェリ磁性ダンピング定数評価
磁気ダンピング定数は磁気モーメントの歳差運動におけるエネルギー散逸の比例定数で
あり、磁化ダイナミクスを特徴づける量である。従来、フェリ磁性合金では実効的な磁気
ダンピング定数 αeff が角運動量補償温度(TA)に近づくにつれて増大することが知られており、
特に TA では αeff が発散するとされてきた。一方で、後年の理論研究においてこの実効的な
磁気ダンピング定数の増大はエネルギー散逸自体の変化よりもフェリ磁性体の正味の角運
動量の減少に原因があることが示された。そのため、副格子を考慮したモデルにおけるレ
イリー散逸関数に由来するフェリ磁性ダンピング定数 αFiM が考案され、フェリ磁性合金
GdFeCo において測定された。この試料に対して αFiM は磁気共鳴法と磁壁駆動速度によって
測定され、どちらの測定でも温度に対して不敏感であることが示されている。
磁気ダンピング定数が小さなフェリ磁性体として、希土類鉄ガーネットのようなフェリ
磁性絶縁体が注目を集めている。金属系とは異なり、伝導電子によるスピンの散乱過程が
存在していないため絶縁体はダンピング定数が小さいことが知られている。そのため、希
土類鉄ガーネットを利用したスピン波論理回路や磁壁メモリなどのデバイス研究が盛んに
行われてきた。しかしながら、希土類鉄ガーネット薄膜においてフェリ磁性ダンピング定
数 αFiM を評価した例は数少なく、
実効的な磁気ダンピング定数 αeff による評価が主であった。
以上を踏まえて本研究ではガドリニウム鉄ガーネット(Gd3Fe5O12, GdIG)薄膜をパルスレ
ーザ堆積法にて作製し、そのフェリ磁性ダンピング定数 αFiM の温度依存性を磁気共鳴測定
によって評価した。なお、磁気共鳴測定としては整流検波法と共鳴吸収法を用いた。
はじめに GdIG/Pt 薄膜における整流検波法から αeff の温度依存性を見積もったところ、αeff
は 80 K 以上では予想通り TA に近づくにつれて増大していた。また、80 K 以下では温度が
下がるほど αeff が増大していた。この 80 K 以下の増大について、共鳴吸収法によって GdIG
薄膜と GdIG/Pt 薄膜の αeff を評価し、この効果が Pt 層の影響であることを明らかにした。
続けて αeff の測定結果から αFiM の温度依存性を見積もったところ、 80 K 以下の低温にお
いては αFiM が αeff とほぼ同様に増大していた。その一方で高温側におけるダンピング定数の
増大は αeff と比較して緩やかであり、高温部における αeff の増大についてはエネルギー散逸
自体の変化ではなく正味の角運動量の減少による影響が支配的であったことが改めて裏付
けられた。αFiM は正味の角運動量の減少の効果を差し引いたものであるため、温度に対する
変化が αeff と比較して小さく、フェリ磁性体に対して αeff よりも信頼できるエネルギー散逸
の指標である。本測定で得られた αFiM の値(~0.001)は先行研究のフェリ磁性合金 GdFeCo の
1/10 程度であり、Gd3Fe5O12 薄膜は超高速かつ低エネルギーのフェリ磁性スピントロニクス
デバイスの応用に対して有望な材料であることが示された。

2. 電磁波照射を用いた GdCo 薄膜における反強磁性ダイナミクスの電気的検出
近年、フェムト秒パルスレーザをはじめとする THz 発振・検出技術の進歩により、反強
磁性体デバイスの実現に向けて様々な特性が実験的に明らかにされてきた。しかしながら
このような反強磁性ダイナミクスに関する研究で従来用いられてきた手法は磁気光学効果
や共鳴吸収といった光学的なものであり、その測定には十分な体積を持つバルク試料が必
要であった。そのため、スピントロニクスデバイスで用いられるような反強磁性体の薄膜
における磁化ダイナミクスをこうした手法で測定することは困難であった。こうした背景
から、本章では THz 帯域における薄膜の共鳴特性評価手法を確立することを目的とした。
本研究では試料に電磁波を照射したときに磁気共鳴によって試料に生じる電圧を測定す
る手法(電気的測定手法)を薄膜の共鳴測定手法として用いることとした。これは電気的な測
定が光学的な測定よりも試料の体積による影響が小さいためである。電気的測定手法の一
つとして整流検波法が知られている。整流検波法は電磁波によって誘起された交流電流が
磁気抵抗の振動によって整流される効果を用いた測定法であり、1 nm 以下の強磁性薄膜の
磁気共鳴を測定することができる高感度な測定法である。もう一つの測定手法としては磁
性層/非磁性層の二層膜試料を対象にしたスピンポンピング効果と逆スピンホール効果を用
いた測定法が知られている。この測定では電磁波の高周波磁場によって磁性体の磁気共鳴
を誘起し、隣接した非磁性層にスピン流を注入する。スピン流は非磁性層において逆スピ
ンホール効果によって電流に変換されるため磁気共鳴を電気的に検出することが可能にな
る。こうした測定は近年反強磁性体のバルクに非磁性体薄膜を成膜した試料に対して適用
され、反強磁性体における数百 GHz の共鳴周波数を持つ磁気共鳴の検出に成功している。
整流効果やスピンポンピング効果による測定で得られる電圧はその測定原理上、試料に
印加する電磁波の強度に比例する。THz 帯域においては高強度の連続波光源は非常に限ら
れたものであるため、本測定ではジャイロトロンを光源として用いた。
反強磁性的な磁気構造を持ち、超高速な磁化ダイナミクスを有することで知られるフェ
リ磁性体 GdCo 薄膜を用いて測定を行った。GdCo/Ta、GdCo/Pt 薄膜の測定から、検出され
る直流電圧が整流効果によって生じることが明らかになった。測定された共鳴モードの温
度依存性は磁化や正味の角運動量の温度依存性と整合しており、本測定手法が sub-THz 帯
域における薄膜の磁気共鳴の測定に有効であることが実証された。また、本測定において
は右回りモードのみが観測された。これは右回りモードと左回りモードの磁気感受率に差
があり、左回りモードの歳差運動が小さかったためであると考えられる。この測定手法は
異方性磁気抵抗効果がある磁性薄膜に対しては適用可能であることや、ジャイロトロンが
THz 領域まで発振することが可能であることから、本研究は反強磁性体・フェリ磁性体の
薄膜の磁化ダイナミクス測定の実現に大きく寄与するものであると考えられる。 ...

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