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大学・研究所にある論文を検索できる 「Integrated genomic/epigenomic analysis of sub-types and their cellular origin in clear cell ovarian carcinomas」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Integrated genomic/epigenomic analysis of sub-types and their cellular origin in clear cell ovarian carcinomas

西島, 明 東京大学 DOI:10.15083/0002002456

2021.10.15

概要

卵巣明細胞癌は卵巣癌における他の組織型(高異型度漿液性癌、低異型度漿液性癌、粘液性癌、類内膜癌)と同様に主要な組織型の一つである。特に日本においては卵巣癌全体の25パーセントと高頻度に発生することで知られている。
 また、上皮性卵巣癌の起源については、従来いずれの組織型においても卵巣表層上皮から癌化すると考えられてきたが、最近の病理学的研究、分子生物学研究の両面から卵巣表層上皮が細胞起源でない卵巣癌の存在が明らかとなってきた。特に卵巣高異型度漿液性癌では、卵管采を発生母地とする説が有力となっている。一方、卵巣明細胞癌は子宮内膜症と高頻度に合併することがわかっているが、明細胞癌の細胞起源に関してはまだ未解明な部分が大きい。本研究では、統合的解析によって、遺伝子変異プロファイル、変異シグネチャー、DNAメチル化プロファイル、遺伝子発現のそれぞれの関連性を明らかにするとともに、卵巣明細胞癌の細胞起源についての新たな知見を得ることを目的とした。

方法
 対象は東京大学医学部附属病院および埼玉医科大学国際医療センターにて手術により採取された卵巣明細胞癌の腫瘍検体とペアとなる正常検体(90症例分)を採取した。なお、正常骨盤腹膜、正常卵巣上皮は、東京大学医学部附属病院において良性腫瘍手術の検体より採取した卵巣明細胞癌78例において全エクソンシークエンスを実施し、シークエンスはHiSeq2000(Illumina)により100bpのペアエンドシークエンスで行った。変異シグネチャーは、非負値行列因子分解(Non-negative Matrix Factorization:NMF)アルゴリズムを使用した。腫瘍検体のDNAサンプルをInfinium Human Methylation450 Bead Chip Kitを用いて解析を行った。腫瘍検体、正常検体は前述通り東京大学医学部附属病院で採取された検体を用いたほか、GSE51820、GSE81227、からダウンロードした公的データを使用しNMFを用いてサンプルを3つの群に分類した。さらに、卵巣明細胞癌90例を、G-U133Plus2.0アレイを用いて教師なし階層型のクラスタリング解析行った。距離尺度として非中心化ピアソン相関を用い、平均連結法とした。さらに2群間の発現遺伝子比較としてGene set enrichment analysis(GSEA)を行った。

結果
1) 卵巣明細胞癌の遺伝子変異の概要
全体として19, 582の突然変異が同定された。体細胞性突然変異の中央値は133であった。78症例中2症例はミスマッチ修復(MMR)機能喪失変異および、高頻度遺伝子変異を認めた。1例はMSH6の生殖細胞系列変異と、変異アレルの片親性ダイソミーを認めた。もう1例はMLH1のプロモーター領域にメチル化を示した。したがって、卵巣明細胞癌ではMMR関連異常の割合は2.6%であった。染色体コピー数異常は、全エクソーム解析データに基づいて評価した。コピー数増加は染色体8q24.21(c-MYC遺伝子座)に55%、3q26.32(PIK3CA遺伝子座)に28%と高頻度に認めた。また、染色体1p36.1-p35(ARID1A遺伝子の座位)に9.0%のアレル欠失が検出された。
2) パスウェイ関連の遺伝子変異
全エクソン解析で有意に変異を来たしていた遺伝子は41個であった。上位4例はARID1A(n=43, 55%)、PIK3CA(n=42, 54%)、KRAS(n=10, 13%)、TP53(n=6, 7.7%)であった。
 ARID1A変異に加え、SWI/SNF複合体遺伝子の体細胞変異が13例(17%)で同定された。その他、SMARCA4に7.7%、ARID1Bに6.4%、SMARCAL1、SMARCA2、SMARCC1を1.3%に同定した。
 PI3K/AKT/mTOR経路における体細胞変異は、PIK3CA遺伝子において高頻度に同定された。他の遺伝子変異の比率はPTEN、AKT1、AKT2、mTORおよびTSC1でそれぞれ1.3%であった。
 RTK/RAS経路遺伝子において、KRAS変異12.8%の他、FGFR2:5.1%、ERBB3:5..1%、CTNNB1:5.1%、NRAS:1.3%、MAP2K1:1.3%の変異を認めた。
 ARID1A/PIK3CAダブルネガティブ遺伝子型は、進行期およびリンパ節転移(それぞれp=0.040および0.0012)および予後不良と有意に関連していた。PIK3CA変異群では、有意に全生存率が延長していた(p=0.007)。
3) 変異シグネチャー
 変異シグネチャーをNMFアルゴリズムにより分析した。最初に、MMR遺伝子異常を呈し、遺伝子変異総数が多かった2症例が、MMR欠損シグネチャーと関連することを確認した。卵巣明細胞癌と卵巣高異型度漿液性癌の間では、明らかにシグネチャーの構成が異なっており、卵巣明細胞癌ではMMR, AGE, APOBECシグネチャーが優位であり、卵巣高異型度漿液性癌ではBRCAシグネチャーが最も優位であった。
 MMRシグネチャーはAGEシグネチャーと類似し分離困難であるため、2症例を除外し、残りの76例で変異シグネチャーについて再解析を行った。卵巣明細胞癌76例において、4つの代表的なシグネチャーが見つかった。4種のシグネチャーのうち3種(加齢、BRCA、およびAPOBEC)は、現在のCOSMICのシグネチャーとよく合致することが確認された。もう一つのシグネチャーはいずれの既報のものと一致しなかった。AGEシグネチャー優勢群は卵巣明細胞癌51例(67%)で最も多く、他にAPOBECシグネチャー優勢群14例(18%)、BRCAシグネチャー優勢群4例(5.2%)であった。
4) DNAメチル化解析
 我々は270例の卵巣癌データと26の正常組織(卵管采上皮、卵巣表層上皮、骨盤腹膜)と比較して、NMFアルゴリズムを用いて、クラスタリング解析を行った。分類された3群は3種の正常組織のメチル化プロファイルとそれぞれ対応することを確認した。卵管采様クラスターには、高異型度卵巣漿液性癌の157例中139例(89%)が含まれていたが、明細胞癌では94例中5例(5.3%)のみ含まれていた(p<0.001)。
 対照的に、骨盤腹膜様クラスターには、卵巣明細胞癌の81%(94例中76例)が分類された。卵巣表層上皮様クラスターは、卵巣明細胞癌94例中のうち13例(14%)、高異型度漿液性癌157例中7例(4%)、粘液性癌8例中4例(50%)、類内膜癌11例中3例(27%)が含まれた。卵管采様クラスターに含まれた3例の明細胞癌はいずれもTP53変異を有し、さらにBRCA変異シグネチャーが優位な症例であった。一方、ARID1AおよびPIK3CA変異を有する症例では、それぞれ95%が骨盤腹膜クラスターに含まれた。
5)分子生物学的分類
 78例の卵巣明細胞癌症例についてマイクロアレイを行い、階層型クラスタリングによって、2つの主要なサブタイプを同定し発現遺伝パスウェイ解析は、上皮間葉転換(EMT)伝子が有意に高発現のグループと免疫反応関連遺伝子高発現に分類された。
 卵巣明細胞癌は、細胞起源を反映し得るメチル化プロファイル、および遺伝子変異プロファイルに基づいて、(1)骨盤腹膜様のメチル化プロファイルでミスマッチ修復機構の破綻を伴う、(2)骨盤腹膜様のメチル化プロファイルでPI3K経路の変異に加えてSWI/SNF複合体の遺伝子変異を伴うもの、(3)骨盤腹膜様のメチル化プロファイルでPI3K経路の変異陽性であるが、SWI/SNF複合体の変異が低頻度の群)、(4)卵巣表層上皮様のメチル化プロファイルを示し、ダブルネガティブ型である群、(5)卵管采様のメチル化プロファイルを示し、BRCA-likeな性質を有する群、の5つのサブグループに分類することができると考えられた。

考察
本研究では、卵巣明細胞癌78例の統合ゲノム・エピゲノム解析を行い、細胞起源を反映したメチル化および変異プロファイルに基づき、層別化されることを明らかとした。卵巣明細胞癌の発癌起源や発癌機構はいまだに完全には理解されていない。DNAメチル化に関して起源となる細胞で既に生じている変化を保持している場合が多く、細胞起源を推測する上で有用であったとする報告がなされている。本研究では、卵巣明細胞癌に関して、正常組織を含めたメチル化アレイを利用し、起源を探ることとした。その結果、他の組織型の上皮性卵巣癌とは明確に区別され、また、大半の卵巣明細胞癌は骨盤腹膜様クラスターに入りその細胞起源が高異型度漿液性癌と違う可能性が示された。一部の卵巣明細胞癌では、卵管采様クラスターに含まれ、また、TP53変異およびBRCAシグネチャーによって特徴付けられることも明らかとなった。これらの希少型の卵巣明細胞癌における病理学的所見は、エピジェネティックな所見も含めて高異型度漿液性癌様の分子生物学的特徴を含むことを示している。卵巣明細胞癌の起源は子宮内膜上皮細胞ではなく、骨盤腹膜細胞の可能性があり、卵巣明細胞癌の起源を明らかにするために、さらなる追試が必要であろう。

結論
統合ゲノム・エピゲノム解析により、卵巣明細胞癌の亜分類を明らかにした。その亜分類は、特定の変異プロファイルおよび変異シグネチャーを反映するのみならず、細胞起源によっても規定されていることが示唆された。こうした亜分類による生物学的特性をもとに、発癌機序の更なる解明や個別化治療法の開発につながることが望まれる。

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