Long-term home non-invasive positive pressure ventilation in children: Results from a single center in Japan
概要
序論
小児に対するNPPV(non-invasive positive pressure ventilation)は 1990 年代以降全世界で増加しており,急性期・慢性期ともに呼吸不全に対する管理方法として広く使用されるようになった(Wallis C et al, 2011).デュシェンヌ型筋ジストロフィー(Bushby K et al, 2010), 脊髄性筋萎縮症(Wang CH et al, 2007), 先天性ミオパチー(Wang CH et al, 2012)などのガイドラインでは長期呼吸管理法として推奨され,また肺疾患,上気道の異常,中枢性無呼吸など多彩な疾患に対しても使用されている(Amaddeo A et al, 2016).世界中で小児の長期 NPPV が普及しつつあるにもかかわらず, 本邦における使用の実態についての詳細なデータは乏しい.本研究では,在宅長期 NPPV 導入患者の背景,使用の実態,転帰を明らかにし,疾患分類ごとの傾向を比較検討することを目的とした.
実験材料と方法
2001 年 1 月から2015 年 12 月までに神奈川県立こども医療センターにおいて長期NPPVを導入し,フォローアップを行った 20 歳以下の患者について,診療録を後方視的に検討した.
調査項目は,導入時期,導入時年齢,基礎疾患,導入の契機,使用時間,酸素使用の有無,排痰補助機器使用の有無,インターフェイス,転帰,NPPV 継続期間,観察期間とした.基礎疾患は,神経筋疾患,周産期障害,先天異常,てんかん性脳症,代謝・変性疾患,低酸素性虚血性脳症,急性疾患後遺症,その他の 8 つに分類した.導入契機は,急性期導入および
計画導入の 2 つに分類した.使用時間は,終日使用または夜間のみの使用の 2 つに分類した.転帰は,継続,中止,気管切開,死亡の 4 つに分類した。また,導入患者数の推移や基礎疾患について,同期間に長期 TPPV(tracheostomy positive pressure ventilation)を導入した患者との比較も行った.
統計学的解析は,導入年齢について、神経筋疾患と非神経筋疾患との比較に Mann- Whitney の U 検定を,導入契機および酸素使用について,神経筋疾患と非神経筋疾患との比較にFisher の正確検定を,NPPV 継続期間について,代謝性疾患と非代謝性疾患との比較にlog rank 検定を用い,p 値 0.05 未満を有意差ありとした.
結果
長期 NPPV 症例は 53 例あり,神経筋疾患 19 例,周産期障害 6 例,先天異常 11 例,てんかん性脳症 2 例,代謝・変性疾患 9 例,低酸素性虚血性脳症 2 例,急性疾患後遺症 2 例,その他 2 例であった.同期間の長期 TPPV 症例は 70 例あった.TPPV 症例は基礎疾患として先天異常と低酸素性虚血性脳症が多く,NPPV 症例は神経筋疾患が多くを占めていた. NPPV 症例のうち重症心身障害児者(脊髄筋萎縮症Ⅰ型および福山型先天性筋ジストロフィーを含む)は 38 例(72%)であった.
神経筋疾患では非神経筋疾患と比較して,計画導入が多く(p=0.04),酸素使用が少なかった(p=0.0179).排痰補助機器の使用率はどの疾患分類においても同等の割合であった.インターフェイスは,神経筋疾患と先天異常では鼻タイプが多く,代謝・変性疾患では口鼻タイプが多い傾向があった.
転帰は,全体では,継続 34 例(64%),中止 3 例(6%),気管切開 7 例(13%),死亡9 例(17%)であり,神経筋疾患では継続率が高く(15/19 例,79%),代謝・変性疾患では気管切開に至ることが多い(3/9 例、33%)傾向があった.成人医療機関へ移行した症例は 10 例(29%)あり,神経筋疾患が 6 例と最多であった.
考察
本研究は,本邦における小児への在宅長期 NPPV についての初めての観察研究であり,多彩な疾患に対する小児の長期 NPPV の予後を新たに示した.
神経筋疾患と非神経筋疾患では,導入経過や使用実態に違いがあることが明らかとなった.まず,導入契機として神経筋疾患では計画導入が,非神経筋疾患では急性期導入が多かった.神経筋疾患では疾患ごとのガイドラインが公表されており(Bushby K et al, 2010; Wang CH et al, 2007; Wang CH et al, 2012),臨床経過の中で導入の計画が行いやすい.一方で非神経筋疾患での指標はなく(Winfield NR et al, 2014),急性期 NPPV の離脱困難や慢性呼吸不全急性増悪の反復から導入されることが多いと考えられる.次に,酸素使用は神経筋疾患で少なく,非神経筋疾患で多かった.非神経筋疾患ではほとんどが重症心身障害児者であり,呼吸障害が重度な症例が多く酸素使用の頻度が高いと考えられた.最後に,インターフェイスは,神経筋疾患と先天異常では鼻タイプが多く,代謝・変性疾患で口鼻タイプが多かった.鼻タイプは快適性や吐物誤嚥のリスクが低いことから第一に選択されることが多い(Hull J et al, 2012; Ramirez A et al, 2012)が,より高圧な換気が必要な重症心身障害児者では口鼻タイプが選択されることが多いと考えられた.
全体として,基礎疾患によらず多数の症例で長期 NPPV 管理が可能であった.神経筋疾患では長期間の継続が可能であり,さらに成人医療機関への移行数も多かった.一方で,代謝・変性疾患では継続期間が短く気管切開となる症例が多かった.進行性の疾患では長期 NPPV が継続困難なこともあり,呼吸器管理が緩和ケアである(Bach JR et al, 2013)ことを認識したうえで,症例ごとに適応を検討すべきである.本研究により,多彩な疾患に対する小児の長期 NPPV の予後が明らかとなり,保護者への情報提供や方針決定に有用な情報となることが期待される.