Efficacy of PD-1 Inhibitors in Older Non-small Cell Lung Cancer Patients
概要
1. 序論
免疫チェックポイント阻害薬は肺癌治療に対して,画期的な変化をもたらした薬剤である.切除不能進行非小細胞肺癌において,プラチナ併用化学療法の前治療歴がある症例に対するランダム化第 3 相試験では,ニボルマブやペンブロリズマブといった抗 PD-1 抗体はこれまでの標準治療であったドセタキセルに対して,有意に生存期間を延長させることが示された(Borghaei H, et al. 2015,Brahmer J, et al. 2015,Herbst RS, et al. 2016).しかし,これら臨床試験に登録される症例の年齢中央値は 60 歳代前半であるのに対し,実臨床で肺癌と診断される症例の年齢中央値は約 70 歳と言われており,臨床試験の結果をそのまま実臨床に外挿することが難しいことも多い.また,70 歳を境に人のT 細胞を介した免疫応答は変化するとも言われており (Farber DL, et al. 2014),高齢者に対する免疫チェックポイント阻害薬の効果が若年者と異なる可能性を示唆する基礎データもある.
そこで,70 歳以上の進行非小細胞肺癌に対しての抗 PD-1 抗体の効果を検証するために,本研究を計画した.
2. 実験材料と方法
横浜市立市民病院で 2011 年 1 月から 2018 年 3 月までに非小細胞肺癌と診断された 70 歳以上の症例を対象とした.免疫チェックポイント阻害薬は抗 PD-1 抗体を使用した症例を対象とし,使用した群(Immune checkpoint inhibitors; ICIs group)と殺細胞性抗がん剤のみで治療した症例群(No ICIs group)の 2 つのグループに分け,これらグループにおける予後と,ICIs groupでの毒性を検討した.生存に関してはカプランマイヤー曲線で算出し,予後因子の検討には多変量解析を用い,p<0.05 を有意とみなした.
3. 結果
2011 年 1 月から 2018 年 3 月までに非小細胞肺癌と診断された 70 歳以上の 364 症例の中で,今回の検討の対象症例は 66 症例であった.ICIs group が 31 例, No ICIs group が 35 例であり, ICIs group で使用された薬剤は二ボルマブ治療 23 例,ペンブロリズマブ治療 8 例であった.No ICIs group ではドセタキセルで治療された例が最も多かった.ICIs group と No ICIs groupの症例背景においては, 性別・年齢・組織型・喫煙歴・病期や EGFRTKI 前治療歴の有無には差を認めなかったものの,PS 不良例がICIs group で有意に多かった.生存期間中央値はICIs groupは 9.6 ヵ月,No ICIs group は 8.9 ヵ月(p=0.69)であり差を認めなかった.ただ扁平上皮癌における生存期間中央値は ICIs group が 9.1 ヵ月,No ICIs group が 4.7 ヵ月(p=0.0193)であり,ICIs group で有意な生存期間の延長を認めた.また,高齢者の進行非小細胞肺癌症例における予後因子を解析するため,多変量解析を行ったところ,PS が良好であること(hazard ratio [HR]: 0.269, p = 0.0004),組織型が腺癌であること(HR: 0.410, p = 0.0192)と同様に,抗 PD-1 抗体の使用歴があること(HR: 0.445, p = 0.0193)が予後良好な因子となりうることが明らかとなった.
ICIs group において,Grade3 の有害事象を 6 例(19%)で認めた.その内訳は皮膚炎 2 例(6%),肺臓炎 2 例(6%),AST 上昇 1 例(3%),血糖上昇 1 例(3%)であったが,治療関連死は認めなかった.
4. 考察
進行非小細胞肺癌の化学療法において,免疫チェックポイント阻害薬は重要な役割を示すようになってきているが,高齢者におけるエビデンスはまだ少ない.今回加齢によって免疫応答が変化するといわれている 70 歳以上の症例に対する免疫チェックポイント阻害薬の効果を検討するため,横浜市立市民病院において 70 歳以上の進行非小細胞肺癌で,少なくとも 1 レジメン以上の殺細胞性抗がん剤治療歴のある症例を後視方的に解析した.
我々の検討では,扁平上皮癌の症例で,No ICIs group に比べて ICIs group のほうが,有意に生存期間を延長していた(生存期間中央値 9.1 ヵ月 vs 4.7 ヵ月、p=0.0193).前治療歴のある扁平上皮癌を対象に,二ボルマブとドセタキセルを比較した第 3 相試験である CHECKMATE017(Brahmer J, et al. 2015)では,生存期間中央値は二ボルマブ群 9.2 ヵ月に対し,ドセタキセル群 6.0 ヵ月と有意に生存期間延長を認めた結果であったが,この二ボルマブ群の生存期間と匹敵する生存期間中央値を我々の高齢者の検討でも示している.扁平上皮癌におけるニボルマブ単剤の単アームの試験である CHECKMATE171 においても,70 歳以上のサブグループ解析において,生存期間中央値 11.2 か月,6 ヵ月時点での生存割合 66%を示している(Felip E,et al.2020)これら結果から,扁平上皮癌においては 70 歳以上であっても抗 PD-1 抗体の効果が期待しうると言える.
全体の解析では,ICIs group と No ICIs group においては,生存期間に差を認めなかった.この結果に影響を及ぼした一因として,ICIs group で PS 不良例が有意に多かった(ECOG Performance status(PS)2;ICIs group 45% versus No ICIs group 20%, p = 0.027)ことがあると考えている.また前治療として殺細胞性抗がん剤治療が 1 レジメン以上なされた 70 歳以上の進行非小細胞肺癌における予後因子を検討するために行った多変量解析では,PS が良好であること,腺癌であることと同様に,抗 PD-1 抗体の治療歴があることが予後良好な因子であった.この結果を踏まえると,高齢者においても免疫チェックポイント阻害薬の効果は期待しうると思われる.
これまでの報告では,抗 PD-1 抗体における Grade3-4 の有害事象は約 7-10%と言われているが,今回の検討では ICIs group での Grade3 の有害事象は 19%と既報より高い頻度であった.高齢者においては,合併症を有する症例も多いことから殺細胞性抗がん剤と同様に免疫チェックポイント阻害薬でも有害事象には留意していく必要がある.
後視方的な検討であり,治療選択などにおける担当医のバイアスや,化学療法の変遷に伴って ICIs group と No ICIs group での症例の時期が異なることなどいくつかの limitation はあるものの,高齢者においても抗 PD-1 抗体は効果がある可能性を今回の検討では示しており,今後も高齢者肺癌が増加してくることが予想される中で,バイオマーカーなども含めたさらに効果のある集団を明らかにしていくための検討が必要であると思われる.