Outcome of renal cell carcinoma in patients on dialysis compared to non‐dialysis patients
概要
1.序論
透析患者では一般人口に比べて腎細胞癌の発生率が高い.また、その発症機序,臨床的特徴,病理学的特徴も異なっていることが知られている(Vamvakas et al., 1998; Tickoo et al., 2006).予後についても様々な研究がおこなわれており,以前は予後良好とされてきたが,近年では病期や核異型度を含めた多変量解析を行うと,透析患者と非透析患者の癌特異的生存率に有意差はないとの報告がされている(Neuzillet et al., 2011; Breda et al., 2015; Hashimoto et al., 2015).さらに透析患者では、予後不良な経過をたどる肉腫様変化を伴う腎細胞癌の症例も報告されている(Tickoo et al., 2006; Sassa et al., 2011).本研究では,透析患者と非透析患者における腎細胞癌の特徴,特に腎細胞癌の予後とそれに影響を与える因子について研究し,透析が腎細胞癌に与える影響を明らかにすることを目的とした.
2.実験材料と方法
2005 年 4 月から 2013 年 12 月までに虎の門病院で根治的または部分的腎摘除術を受け,組織学的に腎細胞癌と診断された患者を対象とし,除外基準は,腎移植を受けた患者,透析 1 年未満の患者とした.基準を満たした患者 388 名を対象とし,患者背景(性別,年齢,血液透析の有無,透析期間,診断契機),組織学的特徴(組織型,核異型度),病期,予後(腎癌特異的死亡率,全死亡率)とそれに影響を与える因子について後ろ向き研究を行った.病理標本は病理医 1 名と腎臓専門医 2 名の合計 3 名の医師によって再評価し,組織型と核異型度を決定した.組織型は 2016 年 WHO 分類,核異型度は Fuhrman 分類に準じて分類した.病期は,2009 年 UICC(Union Internationale Contre le Cancer)による TNM分類を使用した.生存推定値は Kaplan-Meier 法によって算出し,Log-rank 検定によって比較した.腎細胞癌特異的生存率に関係する因子の特定のために Cox 比例ハザード回帰モデルを使用した.
3.結果
388名うち血液透析患者は66名,非透析患者は322名であった.透析患者の透析期間は中央値14年(四分位範囲[interquartile range; IQR] 11, 23)であり,透析導入の原疾患は慢性糸球体腎炎が56%と最も多く,次いで多発性嚢胞腎(20%),糖尿病性腎症(8%)の順であった.透析患者と非透析患者の患者背景として,性別,年齢に有意差はみとめなかった.検診によって無症状で腎細胞癌が発見された偶発診断は,血液透析患者で65%,非透析患者で78%と非透析患者が多かった(P = 0.01).画像検査では,透析患者はCTで診断される割合が高かったのに対し,非透析患者では腹部超音波での発見が多かった.また,CTやMRIで腎細胞癌を診断された透析患者のうち,25%は腹部超音波で腎細胞癌を指摘されていなかった.透析患者では両側性(14% vs. 0.6%, P < 0.01)や多中心性(41% vs. 1.2%, P < 0.01)の腎細胞癌をみとめる症例が多かった.組織学的特徴としては,透析患者では乳頭状腎細胞癌が多く(26% vs. 7%, P < 0.01),核異型度が高かった(P < 0.01).透析患者では,淡明細胞乳頭状腎細胞癌や後天性嚢胞随伴腎細胞癌がみられることも特徴であった.病期は透析患者でStage I(86% vs. 74%, P = 0.04)が多かった.癌特異的5年生存率は,血液透析患者で82.8%,非透析患者で93.5%であった.生存率の比較では,癌特異的生存率と全生存率の両者において,有意に透析患者の生存率が低い結果であった(P = 0.020およびP < 0.0001,Log-rank test).癌特異的死亡に関係する因子を多変量解析で検討した結果,血液透析,病期,核異型度が有意なリスク因子であった.
4.考察
血液透析患者の腎細胞癌は予後良好であると報告されてきた (Satoh et al., 2005; Kojima et al., 2006) .しかし、これらの研究では比較対象群をおいておらず,血液透析患者の腎細胞癌は,腫瘍サイズが小さく,病期が早期であり,核異型度も低く,転移が少ないなどの予後良好となる特徴を持っている患者が多く、生存率が高くなった原因と考えられた.近年,透析患者と非透析患者を比較した3つの研究が報告され,病期や核異型度を含めて補正した多変量解析が行われた結果,血液透析は予後良好因子ではないことが報告されたNeuzillet et al., 2011; Breda et al., 2015; Hashimoto et al.,2015).
血液透析が予後不良因子であるという我々の研究の結果は,これらの研究の結果とは異なっていた.その原因としては本研究における非透析患者の癌特異的生存率が高かったこと,逆に血液透析患者の生存率が低かったことが挙げられる.非透析患者の生存率の高さに関しては,日本における検診率の高さも関係していると考えられた.一方,血液透析患者の生存率が低い要因の1つとして,透析期間が他の研究に比べて長かったことが関係している可能性がある.
本研究では血液透析が腎細胞癌の予後不良因子であることが示された.これまで透析腎細胞癌は予後が良いとされていたが,血液透析自体を予後不良因子としてとらえ,積極的なスクリーニングについても検討していくことが必要である.