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大学・研究所にある論文を検索できる 「熱弾性応力測定法および有限要素解析における大腿骨応力分布と術後骨反応の関連性の検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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熱弾性応力測定法および有限要素解析における大腿骨応力分布と術後骨反応の関連性の検討

竹橋, 広倫 筑波大学

2021.08.03

概要

【背景】
人工股関節全置換術は非常に優れた術後成績をおさめている一方で,未だ術後に応力遮蔽によりステム周囲の大腿骨近位部で骨萎縮が起こる場合が少なくない.これにより,ステムの長期成績への影響が懸念されている.このような人工股関節ステム周囲の応力遮蔽による骨萎縮を避けるため,これまでも様々なステムデザインの研究開発が行われてきた.その過程で重要となるのが,ステムデザインが骨の表面応力分布に与える影響を,定量的に正確に評価することである.

【目的】
1 熱弾性応力測定法と有限要素法における模擬骨での応力分布を比較すること
2 臨床例における有限要素法と骨密度変化の相関性を検討すること

【方法】
・実験 1: 熱弾性応力測定法
熱弾性応力画像法は断熱的な弾性変形に伴う物体の応力変化と温度変化の関係を応用するものである.具体的には,赤外線サーモグラフィを使用して,試料に周期荷重を加えたときに生じる試料の熱弾性効果による微小温度変化(△T)を捉えて,試料表面の主応力和変化(Δ[σ1+σ2])をイメージングする方法である.

大腿骨試料には模擬大腿骨 (composite femur #3403, Pacific Research Laboratories, U.S.A.)を用いた.模擬皮質骨の主応力和変化に伴う熱弾性変化は線形であり,1K の温度変化は約 227MPa の主応力和変化に対応している.模擬大腿骨 2 本を用いにサイズ#0 の Polar カラーレスステム(Smith & Nephew, Memphis, TN)をそれぞれ設置した.2 本のステムは同じアライメント(前捻や挿入深度)とし,模擬骨は前額面で約 9 度外反,矢状面ではニュートラルに試料ホルダーに固定した.ステムを設置した後,試料ホルダーをサーボ油圧試験機(MTS 858 minibionix,MTS,USA)に固定した.測定中は,正弦波 5 Hz の鉛直圧縮荷重(-1.0±0.9kN)を骨頭に加えた.

・実験 1: 有限要素法(模擬大腿骨)
ステム設置後の CT データを用い,大腿骨とインプラントの輪郭を抽出し,大腿骨およびインプラントの 3 次元モデルを作成した.インプラントはチタン合金でありヤング 率は 109GPa ポアソン比 0.28 とし,模擬大腿骨のヤング率は,皮質骨 1.67GPa,海綿骨は 155MPa とし,ポアソン比 0.3 とした.解析にはMechanical Finder Ver.10(RCCM, Japan)を使用し,荷重条件は,骨頭の最上点に 1800N を鉛直下方に負荷した.モデルは力学実験同様に前額面内において内反で約 9 度屈曲 6 度の傾きを持たせ,大腿骨遠位端を完全拘束とし,最大・最小主応力の分布を算出した.

・実験 2: 骨密度変化
対象は筑波大学附属病院でTHA を行った患者で,1 年以上の経過観察を経てステム周囲の骨塩定量検査の測定が可能であった 13 関節とした.男性 5 関節女性 8 関節で,年齢は平均 57.9 歳(範囲 34– 68 歳),原疾患は発育性股関節形成不全に伴う二次性変形性股関節症が 7 関節,特発性大腿骨頭壊死が 6 関節であった.

術後 1 週と術後 1 年でのステム周囲の骨密度をGruen’s zone 別に算出した.それらより術後 1 年での骨密度変化率を,術後 1 週の骨密度を 100%として算出した.計算式は下記のように設定した.
骨密度変化率= 術後 1 年骨密度(g/cm2)/ 術後 1 週骨密度(g/cm2)×100 (%)

・実験 2: 有限要素法(患者毎)
術後 1 週に撮影した CT データから大腿骨,ステムモデルを作成し,相当応力の評価を行った.ステムと大腿骨の境界条件は節点共有の固着とした.骨組織の不均質性を考慮して骨組織要素の材料特性を決定した.骨の弾性率は Keyak らの式を用いて CT 値より算出し,ポアソン比は 0.40 とした.ステムはチタン合金製であり,弾性率 109GPa,ボアソン比 0.28 とした.Gruen の zone に準じて定めた region of interest ごとに,大腿骨の外表面を中心とする半径 3mm 球内の要素における平均相当応力を測定した.

相関性の検討には単回帰分析を用いた.なお骨密度変化率を目的変数,相当応力を説明変数として統計処理を行った.P 値が 0.05 未満の場合,有意な相関ありとした.

【結果 1】
熱弾性応力測定法と有限要素法によるステム周囲の応力分布は類似した結果であった.すなわち,内側には最小主応力である圧縮領域が,外側には最大主応力和変化である引張り領域が分布していた.一方で両者の違いは,熱弾性応力測定法で大腿骨近位前方に局所的な最小主応力和変化(Δ[σ1+σ2])の分布を認めたが,有限要素法ではそれは見られなかった点である.

【結果 2】
術後 1 週,術後 1 年での骨密度は表 1 に示す.Zone 別でみるとzone 1, 2, 7 で有意に減少し,zone 4, 5 で優位に増加した.特に大腿骨近位部である zone 1 では平均 10.5%,zone 7 では平均 25.5%の減少であった.

術後 1 週の CT から得られた平均相当応力を表 2 に示す.Zone 別では zone 3 で一番高く,続いてzone 5 であった.一番低いのはzone 1 の大転子周囲であった.

次に骨密度変化率と相当応力間の相関性の検討を行った.目的変数である骨密度変化率は正規分布しておらず二乗変換し,単回帰分析を行った.単回帰分析の結果,術後 1 年における骨密度変化率と術後 1 週での相当応力との間に,弱いが有意な相関関係を認めた(R = 0.354, p = 0.01)(図 1).術後 1 年での骨密度変化率を Y,相当応力をX とすると,回帰直線は Y2= 8584+163.2X であった.

【考察】
模擬骨を使用した熱弾性応力測定法と有限要素法における解析では,応力分布は非常に類似していたが,ステム前後方向の応力分布を表現できたのは熱弾性応力測定法のみであった.有限要素法は荷重拘束条件やインプラントの表面加工,ステムと大腿骨の境界条件などの設定を今後も検討していく必要があるが,いずれにせよ熱弾性応力測定法は,大腿骨とステムとの接触状態をはじめ種々の実験条件が複合的に反映された試料の表面主応力和変化を忠実に検出するため,より細やかな応力分布の検出が可能であった.

また術後 1 週の各測定点における相当応力と術後 1 年での骨密度変化率は,弱いが有意な正の相関 (R= 0.354)を認めた.すなわち術後 1 週時点で応力がより大きい部位では 1 年後の骨密度は増加し,術後 1 週での応力が小さいと骨密度は低下していた.この結果,術後 1 週の CT データを用いて,各要素の相当応力を算出することで骨密度および骨萎縮の将来予測が可能であるものと考えられる.

従前の研究においても,熱弾性応力測定法における応力分布と臨床上の骨反応は相関性があると述べられており,ステムが挿入された大腿骨の応力分布を知ることは将来的な骨吸収や骨反応を予測する手がかりとなる.すなわち,一定の荷重負荷に伴う大腿骨の応力分布は股関節ステムの材料や形状の違いを反映する.そして,骨表面応力分布と長期的な骨反応や臨床成績との相関から,人工股関節ステムの設計段階における力学的生体適合性評価が可能となる.

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