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大学・研究所にある論文を検索できる 「数理モデルを用いた骨代謝ダイナミクスの解明」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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数理モデルを用いた骨代謝ダイナミクスの解明

金, 英寛 東京大学 DOI:10.15083/0002002475

2021.10.15

概要

骨は, 周囲の力学状態に対して機能的に適応するために自らの構造を再構築する.このマクロな適応現象は, 骨系細胞同士が力学情報や生化学情報を伝達し合うミクロな協調的活動に基づいている.骨の恒常性を維持する骨代謝調節系を理解するために, 数理モデルを通じてミクロな素過程からマクロな骨形態の発現にいたる複雑な多階層ダイナミクスを解明しようとする試みは, バイオメカニクスの重要な課題として引き継がれてきた.この数理モデル研究は, 臨床応用のためにマクロな骨の適応現象の統合的理解を目指すアプローチと, 骨代謝メカニズム解明のためにミクロなダイナミクスに基づく分析的理解を目指すアプローチが両輪となることで, 骨代謝領域におけるバイオメカニクスの発展を推し進めてきた.本研究では, 両者のアプローチに基づき, 数理モデルを用いて骨代謝ダイナミクスの解明を試みた.

 第一の研究では, 骨小腔―骨細管系内の間質液の流体圧勾配により生じる流れ刺激を骨細胞が感知するというミクロなメカニズムに基づき, 新しいマクロな骨リモデリング数理モデルを構築し, その理論的評価を行った.これは, 臨床応用のためのマクロモデル構築における多階層の問題を解決しうる統合的手法を提案するものである.本数理モデルでは, 骨細胞によるミクロな力学刺激感知のメカニズムをふまえ, 海綿骨内の平均応力またはその勾配が空間的に一様な状態へと向かうようにリモデリングが駆動されるものと仮定し, リモデリング刺激量を定義した.モデルは, 骨リモデリング平衡状態が大域的に定義される条件と, 局所的に定義される条件に大別した.さらに, 骨の適応現象に関する生物学的根拠を考慮しモデルの妥当性を理論的に評価した.ブタ大腿骨海綿骨を用いたイメージベースト有限要素解析を行い, リモデリング平衡状態における骨梁体積および配向性に関する生物学的根拠に基づいてモデルの妥当性の定量的評価を行った結果, 平均応力勾配の局所不均一性をリモデリング刺激量とするモデルの妥当性が高いことが示された.さらに, 骨梁表面における骨吸収領域と骨形成領域の空間的分布を可視化した結果, リモデリング刺激量を平均応力とするモデルと平均応力勾配とするモデルでは, 異なる適応的ふるまいを示す可能性が示唆された.本研究で提案したモデルは, ミクロなメカニズムを生物学的根拠に基づきマクロなモデルとして縮約する統合的手法に基づいており, 骨リモデリングの挙動を正しく予測しうる臨床応用可能な数理モデルの構築に貢献すると考える.

 第二の研究では, 力学・生化学連成機構と破骨・骨芽細胞カップリング機構に基づく細胞ダイナミクスを解析可能な骨代謝・治療数理モデルを構築した.これは, 生化学反応というミクロな素過程に基づく細胞の時空間的調節を詳細に表現し, 作用機序に基づきマクロな骨構造レベルで薬剤効果が発現するダイナミクスについて分析的な理解を試みるものである.本数理モデルでは, 力学情報感知伝達機構については, 骨細胞が骨基質中の力学状態を感知し, これをもとに力学シグナルを伝達するものと仮定し, 力学状態が局所的に一様な状態へと向かうように骨代謝が駆動されることを表現した.生化学的情報については, 骨代謝に関連する主要なシグナル分子であるSclerostin, Receptor activator of nuclear factor–κB ligand, Osteoprotegerinなどのダイナミクス, さらに, 代表的なカップリング因子であるTransforming growth factor–βのダイナミクスを各分子濃度の時間発展式として表現した.力学刺激やシグナル分子が, 分子・細胞ダイナミクスに与える促進・抑制作用をHill関数により表現し, これに基づいて破骨細胞・骨芽細胞が分化・アポトーシスする確率を定義した.薬剤については, 単回投与後の血中濃度の時間推移に関する知見に基づいて骨組織中における効果の時間推移を推定し, 作用機序に応じて分子濃度の時間発展式や細胞分化・アポトーシスを表す確率の式に導入することで投与を表現した.ブタ大腿骨海綿骨イメージベーストモデルを用い, 骨形成促進薬であるRomosozumabおよびTeriparatideを20週間投与する骨代謝治療シミュレーションを実施した.カップリングの有無に着目した細胞ダイナミクス解析, および, 構造特性と材料特性に基づく骨質評価を行い, 薬剤を投与しないControl条件と比較することにより薬剤の効果を解析した.構造特性については, 骨形態計測パラメータおよび海綿骨の構造異方性を解析することで評価し, 材料特性については, 骨老朽化の指標として成熟度を導入することで評価した.薬剤ごとの作用機序の相異が細胞によるリモデリング・モデリング活動のバランスの相異を生み, これに基づき骨質に対する薬剤特異的な効果が生じる機構が示された.本数理モデルは, 時空間的な細胞ダイナミクスに基づいた骨代謝現象の分析的理解を可能とし, 骨代謝研究の発展に伴い集積する知見をモデルに集約することで, 包括的なinsilico実験系を提供する革新的技術の創成につながると考える.

 以上の二つの研究を統合することにより, 骨代謝における生物学的な恒常性を表現可能な数理モデルが構築され, 将来的に臨床, 創薬, 病態解明など様々な分野において幅広い役割を担う基盤的な手法として医療の発展に貢献することが期待される.

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