多孔質金属錯体内における分子拡散の分子動力学シミュレーション
概要
令和 4 年度
京都大学化学研究所 スーパーコンピュータシステム 利用報告書
多孔性金属錯体内における分子拡散の分子動力学シミュレーション
Molecular Dynamics Simulation of Molecular Diffusion in Metal–Organic Frameworks
東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻 細野暢彦
研究成果概要
多孔性金属錯体(Metal-Organic Framework: MOF)は、ナノサイズの細孔を無数に有する結
晶性化合物であり、その細孔にはガス分子のような小分子から、分子量 400 万を超える極めて
長い高分子までもが取り込まれることがこれまでの研究からわかっている 1。特に、長い紐状の
形を持つ高分子鎖は、本来の絡み合った構造を解きながら末端より MOF の細孔へと浸入す
ることが、これまでの実験や分子動力学シミュレーション(MD)により明らかにされている 2。最
近我々は、この高分子浸入の速度や細孔内拡散経路が、高分
子鎖の化学構造および部分官能基によっても大きく異なり、結果
として MOF への吸着量にも違いが現れることを実験的に見出し
た
3,4
。本研究では、京都大学科学研究所スーパーコンピュータ
システムを利用して、本高分子拡散プロセスの全原子 MD を行う
ことにより、本現象の分子論的な描像を得ることでそのメカニズム
の全貌解明に迫った。シミュレーションにおいては大規模並列計
算に特化した LAMMPS ソフトウェアを選択し、計算環境を整備
した。
単結晶構造データをもとに MOF の構造データを作成し、その
細孔内部にゲスト高分子としてポリエチレングリコール(PEG)を
配置することで初期構造を得た。十分な構造緩和計算を経て、
100 ns の MD 計算を実行することで MOF 細孔内における PEG
の拡散挙動を追跡した(Figure 1)。PEG の主鎖構造に数種の官
能基を付与した PEG の誘導体についても同様の計算を行い、拡
散挙動の違いについて有意な差が存在することを明らかにした。
Figure 1. A snapshot of the
MD simulation.
参考文献
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