リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「機能性ペプチドSVVYGLRが硬軟口蓋部手術後の筋機能再生と顎発育に及ぼす効果」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

機能性ペプチドSVVYGLRが硬軟口蓋部手術後の筋機能再生と顎発育に及ぼす効果

趙, 正秀 大阪大学

2022.03.24

概要

【研究背景と目的】
 口唇裂・口蓋裂は、日本人の500-600人に1人の頻度でみられる先天奇形であり、形態回復ならびに機能改善を目的に乳幼児期に複数回の手術治療を必要とする。口蓋裂一次手術では、正常な鼻咽腔閉鎖機能を獲得するために断裂した軟口蓋筋の再構築を行う。しかし、筋肉の形成不全に加えて創部に形成される瘢痕組織により、術後鼻咽腔閉鎖不全や上顎劣成長とそれに伴う中顔面の形態異常を引き起こすことも少なくない。こうした予後不良症例に対して、咽頭弁移植術や外科矯正手術などの二次治療を適用することで、定の治療成績は得られるものの、治療が長期化することによる患者の精神的、身体的負担は大きく、一次治療成績を向上させるための新たな治療戦略が必要と考えられる。
 細胞外マトリックスの1つであるオステオポンチンから合成される7アミノ酸SVVYGLR(SVペプチド)は、粘膜由来細胞やヒト由来骨格筋前駆細胞の遊走能を上昇させて、粘膜あるいは骨格筋損傷部の瘢痕形成を抑制し、粘膜、筋組織の治癒を促進することで機能回復の面でも優位性があることが明らかとなっている(Tanaka et al. Jpn Dent Sci Rev. 2021; 57: 174-181.)。こうしたSVペプチドによる骨格筋や粘膜の組織再生修復促進作用は、口蓋裂などの先天的な骨格筋形態異常に対して小児期に形成手術を行う際、より良好な術後の筋機能再生と顎骨を含む周囲組織の成長発育を獲得する点において有用であることが推察される。
 そこで本研究では、1)口蓋損傷モデルを新たに作成して軟口蓋、硬口蓋損傷後の創傷治癒と損傷後の筋機能再生、顎発育にSVペプチドが如何なる作用を及ぼすか検討を行った。また、2)SVペプチドを骨格筋損傷部に適用した際の組織形態学的変化を詳細に検証する目的で損傷部における血管新生やCollagen(type I, Ⅲ)、線維芽細胞や筋線維芽細胞のマーカーを用いて免疫組織学的検討を行った。さらに、3)損傷骨格筋にSVペプチドを投与する際のより至適な投与条件(投与濃度、投与回数)についても骨格筋損傷モデルを用いて組織学的に検討を行った。

【研究方法】
実験1: SVペプチドが軟口蓋筋損傷後の筋活動に及ぼす作用
 軟口蓋損傷モデルとして、ビーグル成犬の軟口蓋正中部に筋実質欠損(15×5mm)を作成し、SVペプチド(1μm/ml)1mlまたは対照群としてPBS1mlを局注投与した。再呼吸条件下で誘発される口蓋帆の筋活動ならびに挙上運動を指標に、軟口蓋表層への表面電極および鼻咽腔ビデオスコープを用いて筋電図活動ならびに鼻咽腔運動を観察記録した。
実験2: SVペプチドが硬口蓋損傷後の顎発育に及ぼす作用
 硬口蓋損傷モデルとして、SD系ラット(4週齢)の硬口蓋正中部に粘膜骨膜を含む軟組織実質欠損(7×1mm)を作成し、SVペプチド(1μm/ml)0.2mlまたはPBS0.2mlを局注投与した。創傷形成前の測定値を基準に1)両側第一臼歯(Ml)間歯槽幅径,2)両側第三臼歯(M3)間歯槽幅径,3)歯槽前後径(M1-M3間)を一週間毎に測定した。また、損傷6週後に損傷部を含む硬口蓋粘膜組織を摘出し、ピクロシリウスレッド染色を行い創傷部に形成された軟組織の組織形態を評価した。
実験3: SVペプチドによる骨格筋損傷後の再生修復組織の免疫組織学的検討
 骨格筋損傷モデルとして、SD系ラット(10週齢)の咬筋に筋実質欠損(5×5×5mm)を作成し(咬筋損傷モデル)、SVペプチド(1μm /ml)lmlまたはPBS 1mlを欠損部周囲に局注投与した。損傷後3日目に損傷部を含めて咬筋を摘出し、l)anti-HSP47抗体, 2)anti-αSMA抗体, 3)anti-CD31抗体, 4)anti-Collagen type I抗体, 5)anti-Collagen type Ⅲ抗体をそれぞれ用いて免疫組織学的に検討した。
実験4: SVペプチドの投与条件が損傷骨格筋の創傷治癒に及ぼす影響
A: 濃度条件に関する検討:咬筋損傷モデルを用いて、SVペプチドを1)20ng/ml, 2)200ng/ml, 3)2μg/mlの条件でそれぞれ局注した。対照群としてPBS 1mlを用いた。損傷14日後に損傷部を含めて咬筋を摘出し、ピクロシリウスレッド染色を行って損傷部の瘢痕形成量および筋線維径をそれぞれ評価した。
B: 投与回数に関する検討:咬筋損傷モデルを用いて、SVペプチド(20ng/ml)1mlを1)単回(day 0), 2)3回(day0, 2, 4), 3)6回(day0, 2, 4, 6, 8, 10)の3条件下でそれぞれ投与した。2回目以降はSVペプチドを経皮的に局注した。損傷後14日目に損傷部を含めて咬筋を摘出し、ピクロシリウスレッド染色を行って損傷部の瘢痕形成量および筋線維径を3条件間で比較検討した。

【研究結果】
実験1: ビーグル成犬軟口蓋損傷モデルにおいて、SV群における軟口蓋損傷後の筋活動の最大振幅と筋活動量は、PBS群と比較してそれぞれ高値を示し、経時的に回復する傾向を認めた。また、再呼吸条件下で誘発された鼻咽腔運動も同様にSV群でより賦活される傾向を認めた。
実験2: 若年ラット硬口蓋損傷モデルにおいて、SV群はPBS群と比較して粘膜創傷治癒を促進し、損傷6週後までの歯槽幅径および前後径の成長量は有意に高値を示した。
実験3: SVペプチドは骨格筋損傷領域において、血管新生数、線維芽細胞および筋線維芽細胞の細胞数を有意に増加させた。また、Collagen type Ⅲ/I比は対照群と比較して有意に高値を示した。
実験4: SVペプチドの投与濃度を異なる3条件間で比較検討したところ、20ng/ml投与群の瘢痕形成量はPBS群と比較して有意に低値を示し、20ng/ml投与群と200ng/ml投与群の筋線維径はPBS群と比較して有意に高値を示した。またSVペプチドの投与回数を異なる3条件間で比較検討したところ、単回投与群の瘢痕形成量は複数回(3,6)回投与群と比較して有意に低値を示し、単回投与群の筋線維径は複数回投与群と比較して有意に高値を示した。

【考察】
 本研究より、SVペプチドは1)ビーグル成犬の軟口蓋筋損傷部に適用した場合でも、創傷治癒過程における優位な軟口蓋筋の筋機能回復が得られることや、2)成長期の口蓋損傷部に適用することで損傷部位の瘢痕形成は抑制され、顎発育にも優位性がみられたことから、乳幼児期における口蓋裂手術への有用性が示唆された。さらに3)SVペプチドの骨格筋再生修復促進作用発現には血管新生や筋線維芽細胞、Collagen type IIIの発現増強が関与していることや、4)SVペプチドの高濃度での投与や複数回投与は投与部位に過剰な線維化を引き起こす可能性があることがそれぞれ明らかとなった。
SVペプチドが軟口蓋損傷後の鼻咽腔運動に及ぼす影響
 ラット咬筋損傷モデルと同様に、ビーグル成犬軟口蓋損傷モデルにおいてもSVペプチドによって損傷後筋線綠の再生が促進され、周囲組織を含めて瘢痕形成が抑制されたことが予想される。
SVペプチドが骨格筋損傷後の組織再生修復過程に及ぼす影響
 SVペプチドは骨格筋損傷部において損傷早期における反応である血管新生を促進し、線維芽細胞および筋線維芽細胞の細胞数を増加させることで創傷治癒を促進させるとともに、Collagen type Ⅲの分泌を促進して、Collagen Ⅲ/Ⅰ比率を増大させることで損傷部の伸張性、筋弾性を向上させ、良好な筋機能再生に寄与している事が推察される。
SVペプチド投与条件の違いによる損傷部線維化と顎発育への影響
 SVペプチドは低分子量で組織における分解と代謝が速やかなことから、手術に際して骨格筋を含む軟組織損傷の初期に至適濃度条件にて単回局所投与することで、創傷治癒における急性反応や骨格筋、粘膜再生に関わる前駆細胞の活性化を促すために必要なシグナルを産生し、その後は速やかに分解、消失するため、創傷治癒後期におけるTGF-βの活性化を介した筋線維芽細胞の過剰産生と瘢痕形成を抑制することで、良好な創傷治癒と筋機能再生、ならびに成長期における良好な顎発育を得られることが示唆される。

【結語】
 オステオポンチン由来の機能性ペプチドSVVYGLRは、口蓋裂一次手術等の口蓋創傷部位に単回局所投与することにより、粘膜、骨格筋の創傷治癒ならびに術後筋機能回復を促進し、成長期において創傷部の線維化を抑制することで良好な顎発育が得られることが示唆された。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る