ダイズの莢成長制御に関する研究
概要
九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
Studies on the pod growth regulation in soybean
(Glycine max L. Merr.)
田中, 征矢
https://hdl.handle.net/2324/6787662
出版情報:Kyushu University, 2022, 博士(農学), 課程博士
バージョン:
権利関係:Public access to the fulltext file is restricted for unavoidable reason (2)
氏
名
論文題名
:田中
征矢
:Studies on the pod growth regulation in soybean (Glycine max L. Merr.)
(ダイズの莢成長制御に関する研究)
区
分
:甲
論
文
内
容
の
要
旨
本研究は、ダイズ(Glycine max L. Merr.)の莢長制御機構を解明するため、莢伸長における光シ
グナルの効果や莢伸長関連遺伝子の解析を行った。
始めに、植物の成長を制御する重要な環境因子である光シグナルと莢伸長の関係について調査し
た。栽植密度を変えたダイズ群落において、高い栽植密度は、狭い栽植密度に比べて赤色光/遠赤
色光比が低い傾向にあった。赤色光/遠赤色光比が低い条件下では避陰反応が誘導され、ダイズの
主茎長等の栄養成長が促進された一方、莢長、莢面積の違いは確認されなかった。
ダイズの莢成長期間に白色光、赤色光、青色光、遠赤色光をそれぞれ処理したところ、赤色光処
理で莢伸長速度が低下したが、伸長停止後の莢長に有意差は確認されなかった。一方、同じマメ科
作物であるササゲでは、赤色光で莢伸長速度が促進された。これらの結果は、マメ科作物における
莢の着生位置と光応答の違いを示唆した。また、伸長停止後の莢長に単色光処理の影響が確認され
なかったことから、ダイズの莢長は光環境による影響を受けないことが示唆された。
次に、ダイズの莢長の異なる2品種、タチナガハ(Tc)およびイヨダイズ(Iy)を用いて、形態
学的および遺伝学的に莢伸長制御を解析した。莢長は Tc が Iy より大きく、この差は Tc の莢伸長期
間が Iy よりも長いことに起因した。器官の大きさは細胞数および細胞面積で決定されることが知ら
れており、Tc と Iy の莢長の差は細胞分裂期間の違いによる細胞数の差で決まることが明らかとな
った。さらに、Tc と Iy の組み換え自殖系統群(RILs)を用いて QTL 解析を 3 ヶ年行った結果、共
通して 2 番染色体上に QTL が検出され、この領域に莢伸長に関与する遺伝子が座上していると推察
された。続いて、莢伸長期のマイクロアレイ解析により、QTL に座乗する莢伸長関連遺伝子(Pod size
of soybean, PSS)を選抜し、その候補遺伝子による eQTL 解析の結果、HSP70 遺伝子のホモログであ
る GmPSS8 が cis-eQTL の発現制御を受けて、莢長の制御に関与しているが示唆された。
GmPSS8 は 10 mm の莢で最も発現量が高く、莢長の大きい Tc において Iy よりも高発現であった。
この遺伝子発現の品種間差は Tc の GmPSS8 プロモーターに含まれるエンハンサー領域(Tc-specific
1)に起因するものであった。さらに、HSP70 の阻害剤である pif-μを伸長中の莢に処理した結果、
対照区と比較して莢長が減少し、莢の細胞数の減少を確認した。また、シロイヌナズナの hsp70-1/4
変異体に GmPSS8 を過剰発現させると、細胞数を増加させ hsp70-1/4 の短い長角果長は野生型の長
い長角果長と同水準まで回復した。以上の結果から、GmPSS8(GmHSP70)は莢の細胞数に関与し、
莢長を決定する原因遺伝子の1つであることが示唆された。