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書き出し

経口内視鏡的筋層切開術の技術困難症例を予測するリスクスコアリングシステム

中井, 達也 神戸大学

2023.03.25

概要

Kobe University Repository : Kernel
PDF issue: 2024-05-02

Risk-Scoring System for Predicting Challenging
Cases of Peroral Endoscopic Myotomy

中井, 達也
(Degree)
博士(医学)

(Date of Degree)
2023-03-25

(Resource Type)
doctoral thesis

(Report Number)
甲第8610号

(URL)
https://hdl.handle.net/20.500.14094/0100482358
※ 当コンテンツは神戸大学の学術成果です。無断複製・不正使用等を禁じます。著作権法で認められている範囲内で、適切にご利用ください。

学位論文の内容要 旨

Risk-Scoring System for Predicting Challenging Cases
of Peroral Endoscopic Myotomy

経口内視鏡的筋層切開術の技術困難症例を予測する
リスクスコアリングシステム

神戸大学大学院医学研究科医科学専攻
内科学講座 消化器内科学分野
(指導教員:児玉 裕三 教授)





達 也

序論
食道運動障害(EMD)は食道アカラシアとその類縁疾患を含み, 下部食道括約
筋(LES)の弛緩障害と食道体部の異常収縮を特徴とする. EMD の治療は薬物療
法, 食道バルーン拡張術, 外科的筋層切開術が主体であったが, 2010 年に井上ら
により経口内視鏡的筋層切開術(POEM)が報告され外科的筋層切開術と並び有
効な治療法となっている.
POEM は EMD の効果的な治療法であるが, 技術困難となる症例もあり, 合
併症を考慮すると経験豊富な術者が治療に当たることが望まれる. しかし, 合
併症を恐れ全ての手術を熟練者が行うと, 研修生が技術を習得する機会が失わ
れる. リスクマネジメントと技術教育の両面を考慮すると, 困難症例を予測す
ることは術者の最適化の為に必要である. 現在までに困難症例の特徴について
いくつかの報告がある. Teitelbaum らは, 内視鏡治療歴, 病悩期間, 食道の拡張
が手術時間の延長と正の相関があると示した. Bechara らは, 1) 線維化, 2) 滲出
性出血, 3) 粘膜下トンネル内での方向付け, 4) 粘膜下トンネルの膨らみ, 5) 食
道異常収縮といった術中所見と困難症例が関連していると報告し た. また,
Tang らは少ないサンプル数ではあるが, 困難症例は内視鏡器具や術者の経験症
例数と関連していることを報告した. POEM の困難症例に対する術前予測の重
要性にも拘らず, 術前因子を用いた困難症例の予測モデルやサンプル数の大き

な多変量解析は存在しない. そこで, 術前因子を用いて POEM の技術困難症例
を予測するリスクスコアリングシステムを開発することを目的とした.

方法
本研究は後方視的な単施設症例対照研究である. 当施設で 2015 年 4 月から
2021 年 3 月までに食道アカラシア及びその類縁疾患に対して POEM を施行し
た連続症例を対象とした. 1) 術前の Eckardt スコアが 3 点未満, 2) 2 回目の
POEM, 3) 手術時間に関するデータが不完全な症例は除外した.
Eckardt スコアは嚥下困難, 逆流, 胸痛, 体重減少の各 3 点のスコアの合計で
ある. 拡張度は食道内腔の最大径に基づいて, grade 1 (<3.5cm), grade 2 (≥3.5
cm, <6.0 cm), grade 3 (≥6.0 cm)と分類した. 拡張型は変曲点の角度に基づいて,
直線型 (> 135°), シグモイド型 type 1 (≥90°, <135°), シグモイド型 type 2
(<90°)と分類した. シカゴ分類 v3.0 に基づき, 食道内圧検査により食道アカラ
シア typeⅠ, typeⅡ, typeⅢ, びまん性食道痙攣(DES), ジャックハンマー食道,
食道胃接合部通過障害(EGJOO)と分類した. 平均積算弛緩圧(IRP)はスターレ
ットシステムを用いて測定した.
POEM は執刀医と助手のペアで行われ, 経験豊富な術者が手技を監督した.
POEM は, 1) エントリー作成, 2) 粘膜下トンネル作成, 3) 筋層切開, 4) エント

リー閉鎖のステップで行われた. Flush knife を用い, 全症例で選択的筋層切開が
行われたが, 一部では全層切開となった.
困難症例は既報に則り, 1) 手術時間 90 分以上, 2) 粘膜穿孔, 3) 気胸, 4) 大量
出血のいずれかを認めた症例と定義した. 手術時間はエントリー作成時の生理
食塩水注入からエントリー閉鎖終了までの時間とした. 気胸は X 線検査で肺の
虚脱を認めた状態と定義した. 大量出血は(1) 緊急処置(内視鏡治療, 血管内治
療, 外科手術)または輸血を必要とする出血, (2) 2 g/dL 以上のヘモグロビン減少
を認めた状態と定義した.
単変量解析で p 値が 0.05 未満の因子を多変量解析の候補として使用した. 連
続変数や複数のカテゴリーのある因子は, 結果の解釈を容易にする為に二値と
して扱われた. 多変量解析で p 値が 0.05 未満あるいは 0.05 に近い候補を最終因
子として選択した. 次にβ係数の重みを計算するためにロジスティック回帰分
析を行った. リスク因子のβ係数の比を用いて, 割り当てられる点数を算出し
た.
リスクスコアリングシステムについて bootstrap 法を用いて内部検証を行っ
た. 最終因子に関するデータが完全な患者をオリジナルサンプルとした。オリジ
ナルサンプルから重複を許して無作為に抽出復元を行い, bootstrap サンプルを
作成した. サンプル作成を 2000 回繰り返し, それぞれの bootstrap サンプルに

対してリスクスコアモデルを適合し得られた結果の平均を取ることで性能を評
価した. アウトカムの有無をどれほど正しく判別できるかを表す識別能は, C 統
計量を用いて定量化した. 予測値と実際のアウトカムがどれほど一致している
か表す較正能は, 線形回帰曲線を用いて勾配や切片を算出し評価した.

結果
合計で 499 人の患者が研究に登録され, カルテ情報が入手できない 2 人,
POEM を 2 回受けた 7 人, Eckardt スコアが 3 点未満の 23 人を除外した. 最終
的に 467 人の患者を本研究の対象とした. その内 59 例(12.6%)が困難症例であ
った. 57 例は手術時間が 90 分以上, 10 例は粘膜穿孔, 1 例は大出血を認め, 気胸
を認めた症例はなかった. 単変量解析の結果, 困難症例に関連する因子は, 年齢
(p=0.006), 病悩期間(p=0.018), 抗血栓薬の使用(p=0.001), IRP(p=0.005), ア
カラシア類縁疾患(p<0.001), 拡張度 grade 3(p=0.001)であった. シグモイド型
であっても有意差は認めなかった. また, 困難症例では筋層切開の手術時間が
長く(p<0.0001), 筋切開長が長かった(p<0.0001). しかし, 止血鉗子の使用に
は有意差は認めなかった(p=0.053).
年齢(≥50 歳), 病悩期間(≥5 年), 抗血栓薬の使用, IRP(<26mmHg), アカラシ
ア類縁疾患, 拡張度 grade 3 の 6 つの候補因子を用いて多変量解析を行った. 病

悩期間(p=0.033), アカラシア類縁疾患(p=0.010), 拡張度 grade 3(p=0.022)は
困難症例に対する独立した因子であり, 抗血栓薬の使用により技術困難となる
傾向があった(p=0.057). これら 4 つの因子を最終因子として選択した. β係数
の重み付けの算出には多変量ロジスティック回帰分析を用い, β係数の比を用
いて点数を算出した. 病悩期間 5 年以上で 1 点, 抗血栓薬の使用で 1 点, アカラ
シア類縁疾患で 2 点, 拡張度 grade 3 で 2 点であった. リスクスコアの合計点数
から困難症例の推定リスクを算出した. 内部検証として 2000 回の bootstrap サ
ンプルを評価し, 十分な識別能と良好な較正能を示した. AUC(Area Under the
Curve)は 0.69(95%信頼区間 0.61-0.77), Calibration intercept は-0.029(95%信
頼区間 -0.71-0.64), Calibration slope は 0.99(95%信頼区間 0.65-1.35)であった.

考察
本研究では POEM の技術困難症例を予測するためのリスクスコアリングシス
テムを造設した. リスク因子は, 病悩期間≥5 年, 抗血栓薬の使用, アカラシア
類縁疾患, 拡張度 grade 3 であった. 本研究は多変量解析と内部検証に基づき,
術前因子を用いて POEM 技術困難症例をスコア化した最初の研究である.
一般に EMD 患者では LES や食道体部の筋層が厚いことが知られている.
Mittal らは LES の弛緩不全が流出障害を引き起こし, 食道筋層の厚さが増大す

ると示している. 症状が長期化することでより食道筋層が厚くなった可能性が
ある. さらに, Watanabe らは食道筋層の厚さが POEM 手術時間の長さと関連す
ることを報告している. 食道筋層の厚さは POEM 手技, 特に筋層切開手技の技
術的困難性に影響を与える.
POEM における出血リスクは 0.1~0.7%と低いことが報告されている. 本研
究では止血鉗子の使用に有意差はなかった. しかし, Rodríguez らは抗血栓治療
を受けている患者は出血リスクが有意に高く 5%に達すると報告している. また,
Bechara らは POEM 時の滲出性出血に対する止血処置が組織の視認性を低下し
手術時間の延長に繋がると報告している.
DES のようなアカラシア類縁疾患では食道上中部に攣縮を認める. アカラシ
ア類縁疾患に対する筋切開長は食道アカラシアと比べ有意に長いとの報告もあ
る. 本研究でも困難症例では筋切開長が有意に長かった. アカラシア類縁疾患
では長い筋切開が必要となり手術時間も有意に長くなったと考える.
食道体部の収縮力が低下すると, 食道が拡張し, 食道通過が遅延する. Ueda
らは拡張度 grade 3 では有害事象の危険性が有意に高いとしている. 食道通過障
害により食物残渣が停滞すると, 粘膜下層の炎症と線維化が生じる. 上皮内の
リンパ球増加も見られ, 扁平上皮のびまん性過形成が生じる. その結果エント
リーの粘膜把持が困難となり, エントリー閉鎖に時間を要し, エントリーリー

クの危険性も高くなる.
シグモイド型は方向付けが難しく粘膜下トンネルの作成が困難な可能性があ
るが, リスク因子には含まれなかった. その理由として, シグモイド型であるこ
とが粘膜下トンネルや筋切開の長さには関わらないこと, 当施設では粘膜下ト
ンネル作成に熟練者の誘導があることが考えられる.
術者が学習曲線を終えると有害事象の発生は減少するとされている. 本研究
では熟練者(POEM 経験>100 例)と研修生との間で有意差は認めなかった. その
理由として, 全ての症例で熟練者が執刀または指導を行っており, 研修生が手
技困難な症例は熟練者が手代わりした為と考えられる.
この研究にはいくつかの制限がある. まず, 本研究は単一施設の後方視的研
究であり選択バイアスや情報バイアスがある. そして, 症例数も比較的少数で
ある. 第二に, 蛇行した食道では内圧カテーテルが挿入できず欠測となり, 多重
補完により欠測値を処理した. 第三に, 十分な内的検証や外的検証を欠いてお
り, 多施設共同前向き研究で検証する必要がある.
術前因子を用いたリスクスコアリングシステムを造設し, POEM の技術困難
症例を満足のいく識別能と較正能をもって予測することができた. 熟練者が執
刀すべき患者を選択するのに役立つと思われる. このリスクスコアがより安全
な POEM 手術に繋がるものと考える.

神戸大学大学院医学(

)研 究科(博士課程)

論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
受 付 番号

甲 第 3275号

氏 名

中井達也

R
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S
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gSystemf
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gChallenging
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lEndoscopicMyotomy

論文題目

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eof
D
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n

経口 内視鏡 的筋層切開術の技術 困難症例 を予測する
リス クス コア リングシステ ム

主 査
審査委員

Examine
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i
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fExaminer




贔→伶』
知 上 鼻 遵/

V
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1ce-exammer




V
i
1ce-exammer
(要旨は 1,000
字 ∼ 2,000字程度)

味本国穴

〈背景〉
EMO)は食道アカラシアとその類縁疾患を含み 、下部食道括約筋 (
LES)
の弛緩
食道運動障害 (

障害と食道体部の異常収縮を特徴とする。2010 年に井上らにより経口内視鏡的筋層切開術
(POEM)が報告され有効な治療法となっている。POEMは EMDの効果的な治療法であるが 、技 術

困難となる症例もあり、合併症を考慮すると経験豊富な術者が治療に当たることが望まれる。しか
し、合併症を恐れ全ての手術を熟練者が行うと、研修生が技術を習得する機会が失われる。リスク
マネジメントと技術教育の両面を考慮すると、困難症例を予測することは術者の最適化の為に必
要である。POEM の困難症例に対する術前予測の重要性にも拘らず、術前因子を用いた困難症
例の予測モデルやサンプル数の大きな多変量解析は存在しない。そこで、術前因子を用いて
POEMの技術困難症例を予測するリスクスコアリングシステムを開発することを目的とした。

〈方法〉
本研究は後方視的な単施設症例対照研究である。当施設で 201
5年 4月から 2021年 3月ま
でに食道アカラシア及びその類縁疾患に対して POEMを施行した連続症例を対象とした。 1
)術
c
k
a
r
d
tスコアが 3点末満、 2
)2回目の POEM、 3
) 手術時間に関するデータが不完全な
前の E
) 手術時間 90 分以上、 2
)粘膜穿孔、 3
) 気胸、
症例は除外した。困難症例は既報に則り、 1

4
) 大量出血のいずれかを認めた症例と定義した。
.
0
5未満の因子を多変量解析の候補として使用した。多変量解析で p
単変量解析で p値が 0

値が 0.
05末満あるいは 0
.
0
5に近い候補を最終因子として選択した。次に B係数の重みを計算す
るためにロジスティック回帰分析を行った。リスク因子の B係数の比を用いて、割り当てられる点数
を算出した。
o
t
s
tr
a
p 法を用 いて内部検証を行った。アウトカムの有無
リスクスコアリングシステムについて bo

をどれほど正しく判別できるかを表す識別能は、C 統計量を用いて定量化した。予測値と実際の
アウトカムがどれほど一致しているか表す較正能は、線形回帰曲線を用いて勾配や切片を算出し
評価した。
〈結果〉
467 例 中 59 例 (
1
2.
6%)が困難症例であった 。病 悩 期 間 (
p
=0
.
0
3
3)、アカラシア類縁疾患
(
p=0
.
0
1
0
)、拡張度 g
r
a
d
e3
(
p
=0.
02
2
)は困難症例に対する独立した因子であり、抗血栓薬の使用に
p
=0.
057)
。これら 4つの因子を最終因子として選択した。3
f係 数
より技術困難となる傾向があった(

の重み付けの算出には多変量ロジスティック回帰分析を用い、 B係数の比を用いて点数を算出し
た。リスクスコアリングシステムは病悩期間 5年以上(
1点
)、抗血栓薬の使用 (
1点)、アカラシア類縁
2 点)、拡張度 g
r
a
d
e
3
(
2 点)の 4 つの因 子から構成された。内部検証として 2000 回の
疾 患(
bo
o
t
s
t
r
a
p サンプルを評価し、 十 分な識別能と良好な較正能を示した。AUC(A
r
eaUndert
h
e
Curve)は 0
.
6
9
(
9
5
%信 頼 区 間

0
.61
-0
.7
7
)、C
a
l
i
b
r
a
t
i
o
ni
n
t
e
r
c
e
p
t は一0
.
0
2
9
(
9
5
%信頼区間

-0
.7
1-0.
6
4
)、Ca
l
i
b
r
a
t
i
ons
l
opeは 0.
9
9
(
9
5
%信頼区間 0.
65-1
.
3
5
)であった。

〈結論〉
本研究では POEM の技術困難症例を予測するためのリスクスコアリングシステムを造設した。
本研究は多変量解析と内部検証に基づき、術前因 子を用いて POEM技術困難症例をスコア化し
た最初の研究である。リスクスコアリングシステムにより POEM の技術困難症例を満足のいく識別
能と較正能をもって予測することができた。熟練者が執刀すべき患者を選択するのに役立つと思
われる。このリスクスコアがより安全な POEM手術に繋がるものと考えられる点で価値ある業績と認
める。
よって、本研究者は、博士(医学)の学位を得る資格があると認める。

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