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書き出し

加齢および糖尿病に伴う解糖系の亢進が膵β細胞の機能を変容させる

村尾, 直哉 神戸大学

2022.03.25

概要

【背景】
加齢は糖尿病の危険因子であるが、膵 β 細胞の加齢性変化が糖尿病の発症とどのように関連しているのかは不明であった。

【目的】
β 細胞の加齢性変化の分子機構を解明し、糖尿病との関連を明らかにする。

【方法】
加齢性変化を検討するために、老化促進モデルマウス(SAM)の早期老化系統 P1 ならびに正常老化系統 R1、C57BL/6J(B6)、肥満モデル ob/ob の各系統の若齢(約 20 週)ならびに高齢(50 週以上)群を比較した。また、糖尿病性変化を検討するために、肥満糖尿病モデルマウス db/db と正常対照(+/+)の 6 週ならびに 12 週齢群を比較した。各種負荷試験により全身糖代謝を評価した。また、単離膵島を用いた検討(インスリン分泌測定、RT-PCR、免疫組織化学、[U-13C]-グルコース代謝フラックス解析)により β 細胞の変化を解析した。

さらに、申請者らがマウス β 細胞株 MIN6-K8 のゲノム編集により樹立した Got1(グルタミン酸-オキサロ酢酸トランスアミナーゼ 1)欠損 β 細胞株(Got1 KO 細胞)(Murao, PLoS ONE 2017)が加齢β 細胞と類似した表現型を示す事を見出し、Got1 KO 細胞を用いて加齢性変化の分子機構を検討した。

【結果と考察】
高齢 R1 は若齢 R1 に比して高インスリン血症を呈し耐糖能が亢進していた。その一方でインスリン感受性に変化は認められなかった。高齢 R1 の β 細胞では、グルコース感受性の亢進によるインスリン分泌の増加が認められたが、同時にインスリン含量の低下、β 細胞特異的遺伝子の発現異常(発現量の低下ならびに局在の異常)が認められた。 P1 ではこれらの変化が若齢より認められた。

β 細胞内のグルコース代謝による ATP 産生がインスリン分泌を惹起することから、グルコース代謝の変容は β 細胞機能に大きく影響しうる。[U-13C]-グルコース代謝フラックス解析により、高齢膵島では解糖系の活性が若齢に比して増加していることを見出した。解糖系活性の維持には細胞質 NAD が必須であり、NADH の再酸化および細胞質に局在する NAD 合成酵素 Nmnat2 によって供給される。高齢膵島では、NADH 再酸化経路のうち TCA 回路から分岐するリンゴ酸-アスパラギン酸(MA)シャトルの活性が低下する一方で、解糖系から分岐するグリセロールリン酸(GP)シャトルならびに乳酸産生の活性が上昇していた。同時に、Nmnat2 の発現が上昇し細胞内 NAD 量が増加していた。すなわち、高齢 β 細胞においては細胞質 NAD 産生増加を伴う解糖系の亢進が認められ、この代謝変化がグルコース感受性の亢進によるインスリン分泌の増加をもたらしていることが明らかとなった。一連の加齢性変化は B6 および ob/ob においても確認されたことから、マウス系統によらない表現型であることが示唆された。

加齢性変化の一環として認められるグルコース感受性の亢進や β 細胞特異的遺伝子の発現異常は、過去の研究では糖尿病の β 細胞に特徴的な表現型として知られ、β 細胞の機能不全の指標と考えられてきた。したがって、β 細胞の加齢性変化は糖尿病における β 細胞の機能不全と同様の機序によっている可能性が示唆される。この仮説を検証するために、β 細胞の糖尿病性変化を解析した。

6 週齢 db/db は同齢+/+に比して耐糖能障害ならびに高インスリン血症を呈した。12 週齢 db/db の血中インスリン値は 6 週齢 db/db に比して低値であり、耐糖能はより悪化していた。6 週齢 db/db のβ 細胞では同齢+/+に比してグルコース感受性の亢進によるインスリン分泌の増加が認められたが、同時にインスリン含量の低下、β 細胞特異的遺伝子の発現異常が認められた。12 週齢 db/db の β 細胞では 6 週齢 db/db に比してインスリン分泌が低下しており、インスリン含量の低下、β 細胞特異的遺伝子の発現異常はより顕著であった。これらの結果から、db/db においては 6 週齢から 12 週齢にかけて β 細胞の機能不全が進行し、インスリン分泌低下による糖尿病悪化の原因となっていることが示唆された。β 細胞機能の悪化と並行して、6 週齢 db/db 膵島では同齢+/+に比して解糖系活性が上昇しており、12 週齢ではさらに亢進していた。また、12 週齢 db/db 膵島では GP シャトル活性ならびに乳酸産生の増加、Nmnat2 の発現上昇、細胞内 NADH 量の増加が認められた。一連の結果から、糖尿病における β 細胞の細胞内代謝変化ならびに機能不全は、β 細胞の加齢性変化ときわめて類似していることが明らかとなった。

最後に、加齢ならびに糖尿病に伴う β 細胞の機能不全が細胞内代謝変化(細胞質 NAD産生増加を伴う解糖系の亢進)によって誘導されている可能性を検証するために、Got1 KO 細胞をモデルとして検討を行った。Got1 KO 細胞はMA シャトル活性を欠失しており、野生型細胞に比して解糖系の顕著な亢進、GP シャトル活性ならびに乳酸産生の増加、Nmnat2 の大幅な発現上昇を示したたのみならず、グルコース感受性の亢進、インスリン含量の低下、β 細胞特異的遺伝子の発現異常を呈した。すなわち、Got1 欠損により加齢に類似した細胞内代謝変化を誘導すると、β 細胞機能についても加齢に類似した表現型が誘導されることが示された。Got1 KO 細胞において発現上昇している Nmnat2をノックダウンすると、細胞内 NAD が減少し解糖系の活性が低下した。さらに、グルコース感受性が正常化し、同時にインスリン含量が増加し β 細胞特異的遺伝子の発現が回復した。同様に、2-デオキシグルコースを用いた解糖系の抑制によっても遺伝子発現の回復が認められた。これらの結果から、加齢ならびに糖尿病に伴う解糖系の亢進が β細胞の機能不全を誘導していることが示唆された。

Sirtuin やポリ ADP-リボースポリメラーゼ(Parps)といった NAD 依存性酵素は多様な細胞機能に関与し、β 細胞においても重要である。Got1 KO 細胞において Nmnat2 をノックダウンすると、Sirt1 ならびに Parp1 の活性が上昇した。したがって、Nmnat2 による NAD 産生は、解糖系のみならず NAD 依存性シグナル伝達経路を制御して β 細胞機能を変容させている可能性が示唆された。

【結語】
β 細胞では加齢に伴い細胞質 NAD 産生増加を伴う解糖系の亢進が認められる。この代謝変化が β 細胞の機能不全を誘導し、糖尿病発症に寄与している可能性が示唆された。

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