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Kruppel-like factor 15 は褐色脂肪細胞においてグルコースと脂肪酸との間のエネルギー基質利用変換を制御する

生天目, 侑子 神戸大学

2021.09.25

概要

【背景・目的】褐色脂肪組織(BAT)は熱産生のために多くのエネルギー基質を必要とする。脂肪酸とグルコースはBAT の主要なエネルギー基質であるが、エネルギー基質利用の転写調節の詳細なメカニズムは不明である。さらに、エネルギー状態の変化に応じた BAT におけるエネルギー基質利用変換の制御メカニズムついても明らかではない。
Kruppel-like factor 15(KLF15)は zinc-finger family に属する転写因子であり、骨格筋や心筋、肝臓、脂肪組織といった代謝の活発な器官に多く発現しエネルギー状態の変化に伴うエネルギー代謝の制御(脂肪酸とグルコースも含む)に重要な役割を担う。KLF15 は白色脂肪組織(WAT)や BAT にも多く発現している。KLF15 は WAT における脂肪細胞の分化や WAT での脂質代謝において重要な役割を担っているが、BAT における生物学的な役割については不明である。今回、我々は褐色脂肪細胞のグルコースと脂肪酸との間のエネルギー基質利用変換におけるKLF15 の意義について検討した。

【材料と方法】分化した HB2 褐色脂肪細胞にアデノウイルスを感染させ KLF15 をノックダウンもしくは過剰発現させた。グルコースと脂肪酸の酸化は 14C を用いた放射活性の測定により評価した。ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体は比色分析法で測定し、遺伝子発現は RT-PCR・real-time PCR を用いて測定した。

【結果】KLF15 の mRNA は C57BL/6 マウスで代謝が活発な器官、特に肝臓、BAT、WATに多く発現していた。KLF15 のBAT での役割を調べるため、分化した褐色脂肪細胞である HB2 細胞を用いて、グルコースおよび脂肪酸の酸化における KLF15 ノックダウンあるいは過剰発現効果を検討した。shKLF15 をコードするアデノウイルスを感染させた HB2 細胞において KLF15 の mRNA は 80%抑制されたが、この際、脂肪酸の酸化は顕著に低下する一方、グルコースの酸化は増加した。KLF15 をコードするアデノウイルスを感染させた HB2細胞においてKLF15 の mRNA は約 10 倍に増加したが、これに伴い、脂肪酸の酸化が増加し、グルコースの酸化は低下した。以上のことから、HB2 細胞において KLF15 は脂肪酸の酸化を正に、グルコース酸化を負に制御していることが明らかとなった。

分化した HB2 細胞で KLF15 ノックダウンあるいは過剰発現による脂肪酸酸化・グルコース酸化に関連する遺伝子発現の変化を調べた。脂肪酸酸化に関連する遺伝子では、KLF15ノックダウンにより Acox1 や Fatp1 の発現が減少し、KLF15 過剰発現によりこれらの遺伝子と Cox8b の発現が増加した。Cpt1a と Cpt1b の発現は KLF15 ノックダウンで抑制されたが、過剰発現では影響を受けなかった。これらの結果より、HB2 細胞において KLF15 は脂肪酸利用に関連した遺伝子の発現を促進し、脂肪酸の酸化を正の方向に制御することが示唆された。グルコース酸化に関連する遺伝子については、KLF15 ノックダウンにより Pdk4 の発現が顕著に減少しており、一方で Hk1, Hk2, Pfk1, Pkm2, Pdk2, Pdh はKLF15 ノックダウンの影響を受けなかった。KLF15 の過剰発現により Pdk4 の発現は増加し、Hk1, Hk2 の発現も増加した。Pfk1 の発現は減少した。以上のように、HB2 細胞においてグルコースの利用に関連する遺伝子の中では、Pdk4 のみが KLF15 により鏡面的に制御されていることが示された。

Pyruvate dehydrogenase complex (PDC)はピルビン酸からアセチル CoA への酸化的脱炭酸反応を触媒するが、PDK4 は PDC をリン酸化することでその活性を阻害する。KLF15 による Pdk4 発現の制御が PDC 活性の制御に寄与しているかを調べるために、分化した HB2細胞において PDC 活性に及ぼす KLF15 ノックダウンもしくは過剰発現効果を調べた。 KLF15 ノックダウンは PDC 活性を増加させ、KLF15 の過剰発現は PDC 活性を低下させた。これらの結果から KLF15 によるグルコース酸化の抑制は、Pdk4 の発現調節を介する PDC 活性の負の制御によることが明らかとなった。

Pdk4 の転写が KLF15 により直接制御されるかどうかを調べるために、KLF ファミリーの結合配列として知られている(5’-CACCC-3’)を Pdk4 のプロモーター領域で探索した。マウスの Pdk4 プロモーター領域にこの配列は複数存在したが、そのうちの一つ(-238-234bp)は、ヒトの Pdk4 プロモーター領域にも保存されていた。この部位に KLF15 が結合するかどうかを HB2 細胞において KLF15 抗体を用いた ChIP assay により検証した。結果、前述の Pdk4 プロモーター領域への KLF15 の結合が認められたことから、Pdk4 は KLF15 による転写調節の直接の標的であることが示された。

エネルギー基質利用制御における KLF15 の生理的意義を調べるため、マウスにおいて絶食・再摂食が BAT の KLF15 発現に影響を与えるかを調べた。BAT での KLF15mRNA の発現は、絶食により増加し、再摂食で減少した。Klf15 の発現と一致して Pdk4 発現も変化することから、KLF15 は BAT においてエネルギー状態の変化に伴うグルコース酸化を調節する重要な因子であることが示唆された。Acox1, Patp1, Cpt1a, Cpt1b といった脂肪酸利用に関係する遺伝子の発現も KLF15mRNA の変化と一致して絶食後に増加することから、 KLF15 は BAT において絶食下において、脂肪酸利用関連遺伝子の発現を増加させる可能性が示された。一方、脂肪酸利用関連遺伝子の発現は、再摂食により発現量が増加したことから、KLF15 以外の転写因子がその制御に関与するものと考えられた。

【考察】KLF15 は褐色脂肪細胞において、脂肪酸の酸化を増加し、脂肪酸利用に関連した遺伝子発現を増加させた。一方で Pdk4 の発現増加を介する PDC 活性の抑制によりグルコースの酸化を阻害した。マウスの BAT において、KLF15 発現は絶食に反応して増加し、その後の再摂食により減少したが、このような変化はグルコースと脂肪酸の利用に関連した遺伝子発現の変化を伴っていたことから、KLF15 は BAT においてエネルギー状態の変化に反応してグルコースと脂肪酸との間のエネルギー基質利用変換を制御する重要な因子と考えらえた。

今回の研究で、BAT のKLF15 発現は絶食と再摂食により制御されることを示した。我々の以前の研究において、糖尿病モデル動物の骨格筋における KLF15 発現は転写後調節のメカニズムにより高血糖によって増加することを示した。このような転写後調節は高血糖下での病的状態で認められるが、今回の BAT における KLF15mRNA 変化は正常血糖下での生理的状態で認められたことから、血糖は絶食再摂食に伴う KLF15mRNA 発現の主要な制御因子ではないと考えられた。KLF15 発現が cAMP シグナルの活性化により増加し、マウスの肝臓もしくは肝細胞においてインスリン刺激により減少することから、BAT を含む臓器において、絶食や再摂食に伴いインスリンやグルカゴンなどのホルモンが KLF15 発現を制御する可能性が考えられた。

KLF15 は筋肉、肝臓、WAT を含む代謝の活発な臓器のエネルギー代謝の制御に関連しているが、BAT において転写調節における生理学的な役割はこれまで不明であった。今回の我々の結果から、KLF15 は褐色脂肪細胞におけるエネルギー基質利用変換において重要な役割を担っていることが明らかとなった。今回の結果と一致して、心筋のKLF15 をノックアウトしたマウスでは脂肪酸の利用は抑制され、グルコースの利用は亢進することが報告されている。同様に、骨格筋の KLF15 をノックアウトしたマウスでは脂肪酸利用が阻害され運動耐久能は減少することが示されている。これらのことから、KLF15 は筋(心筋および骨格筋)と BAT の両方で脂肪酸とグルコースの利用を制御するものと考えられる。BAT特異的な KLF15 ノックアウトマウスを用いた解析は、BAT による熱産生の際のエネルギー基質利用における KLF15 の生理的意義とともに、BAT とBAT 以外の臓器との栄養素の流れをより深く研究するのに有意義と考えられる。

今回の結果から KLF15 は BAT においてエネルギー状態の変化に応じてグルコースと脂肪酸の利用を制御することが示された。生理的な状態において、ヒトでは摂食後、炭水化物を優位に利用するが、空腹時は脂質利用優位に変換する。このようなエネルギー状態の変化に適応したエネルギー基質利用の変換は metabolic flexibility と呼ばれており、この調節障害がインスリン抵抗性の病態に関連することも報告されている。KLF15 の制御は、metabolic flexibility を高めることにより、インスリン抵抗性や関連疾患に対する新たな治療法開発の基盤となるものと期待される。

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