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大学・研究所にある論文を検索できる 「力学的負荷による骨格筋肥大におけるPDK1の役割」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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力学的負荷による骨格筋肥大におけるPDK1の役割

Kuramoto, Naoki 神戸大学

2021.09.25

概要

骨格筋はインスリンの主要な標的臓器であり、筋量減少は耐糖能の悪化に繋がる。骨格筋量の減少は 2 型糖尿病のリスクとなり、骨格筋量の減少とそれに伴う身体活動の低下を特徴とするサルコペニアは糖尿病と関連している。糖尿病における骨格筋量の減少は、骨格筋におけるインスリンの作用不足が重要な役割を果たしていると考えられている。

PI3-キナーゼ(PI3K)は、蛋白代謝の調節をはじめとするインスリンの様々な代謝作用に重要な役割を果たしている。3’-Phosphoinositide-dependent kinase 1 (PDK1)は PI3K 依存的に Aktやリボソーム蛋白 S6 キナーゼ(S6K)などの下流のキナーゼをリン酸化して活性化するセリン/スレオニンキナーゼであり、シグナル伝達経路で重要な役割を果たす。インスリン作用に関与する細胞内シグナル分子のほとんどが複数のアイソフォームから構成されているのに対し、PDK1 はその作用を補うアイソフォームを持っていないため、1 遺伝子の欠損でインスリンシグナルを遮断することができる。

運動は骨格筋の肥大を促進するが、運動による骨格筋量増加の分子メカニズムは完全には解明されていない。
今回、我々は、骨格筋特異的に PDK1 を欠損させたマウスを作製し、糖代謝恒常性と骨格筋量の調節における PDK1 の役割について検討した。

骨格筋特異的 PDK1 欠損マウス(M-PDK1KO マウス)では、インスリン投与による骨格筋での Akt や S6 キナーゼ(S6K)の活性化はほぼ完全に抑制されていたが、血糖値やインスリン値は対照と差はなかった。すなわち骨格筋において PDK1 レベルで骨格筋のインスリン作用を遮断してもインスリン感受性や糖代謝恒常性はほぼ完全に代償されることが明らかとなった。M-PDK1KO マウスでは長趾伸筋や前脛骨筋などの速筋成分が優位な筋の重量が 10-15%低下し、前脛骨筋の組織学的検討では筋全体での筋線維数の減少は無かったが、筋線維断面積は減少していたことから、PDK1 の欠損は筋線維の萎縮を惹起することが明らかとなった。

運動による筋量増加の分子機構を検討するため、協働筋切除による筋増加実験を行った。腓腹筋遠位 1/3 を切除すると、下肢伸展に対して協働的に機能する足底筋に力学的負荷が加わって筋肥大が生じ、対照マウスでは切除後 10 日間で足底筋重量は約 1.5 倍に増加した。M- PDK1KO マウスでは腓腹筋切除による足底筋量増加が約 30%抑制されていた。腓腹筋切除により足底筋では S6K やリボゾーム S6 タンパクのリン酸化など、タンパク合成指標が顕著に活性化したが、M-PDK1KO マウスでは S6K や S6 タンパクのリン酸化が阻害されていた。また、腓腹筋切除後の足底筋ではタンパク分解関連遺伝子(Klf15、Atrogin1、MuRf1)、アミノ酸異化関連遺伝子(Prodh、Bcat2)、オートファジー関連遺伝子(Lc3a、Lc3b、Bnip3)の mRNA量が減少していた。しかしながら、M-PDK1KO マウスでもこれらの遺伝子発現は対照マウスと同程度に減少していた。一方、細胞外マトリックス関連遺伝子(Col1a1、Col3a1、Fn1、Tnc)血管新生関連遺伝子(Angptl1、Mmp2、Mmp14、HIF1a、Ptgfc)、細胞内 Ca2+シグナル関連遺伝子(Serca2、Sln)の mRNA 量が増加していたが、M-PDK1KO マウスでもこれらの遺伝子発現は対照マウスと同程度に増加していた。これらの結果から、PDK1 経路は遺伝子発現変化を介したタンパクの異化抑制や細胞増殖刺激ではなく、S6K シグナルに代表されるタンパク合成・細胞肥大シグナルを活性化することにより、力学的負荷による筋量増加に関わると考えられた。

次に、運動負荷時の筋肥大に関与する細胞外刺激を調べ、その結果、骨格筋の肥大に関与することが知られているβ-AR シグナルに注目した。マウスにβ2-AR アゴニストのクレンブテロールを投与すると、骨格筋の S6K および S6 のリン酸化が促進され、β1-アドレナリン受容体アゴニストのドブタミンを投与してもこのような作用は認めないことがわかった。クレンブテロールによる骨格筋の S6K および S6 のリン酸化は、M-PDK1KO マウスでは顕著に抑制された。さらに、C2C12 筋管細胞にクレンブテロールを付加すると S6K のリン酸化が亢進したが、PDK1 の shRNA をアデノウイルスで導入して PDK1 をノックダウンすると、クレンブテロールによる S6K のリン酸化が抑制された。このことから、PDK1 はβ2-AR 刺激に応答して S6K/S6 シグナルを活性化するのに必須であることがわかった。マウスに β2AR 作動薬を 10日間連投すると腓腹筋重量は約 10%増加したが、M-PDK1KO マウスではβ2AR 作動薬連投による筋肥大が抑制されていた。

骨格筋肥大におけるβ2-AR シグナル伝達経路の生理的意義を確認するために、骨格筋特異的β2-AR 欠損マウス(M-Adrb2KO マウス)を作製した。本マウスは定常状態では骨格筋重量の減少を認めなかったが、腓腹筋切除による足底筋量増加は約 25%抑制されており、このときの S6K/S6 のリン酸化の増加が抑制されていた。これらの結果から、運動負荷による骨格筋の肥大には、β2AR-PDK1 シグナル経路が重要な役割を果たしていることが示唆された。

力学的負荷による筋量増加には PDK1 を介したタンパク合成・細胞肥大シグナルが重要な役割を担い、PDK1 の上流の制御因子として β2AR が関与することが明らかとなった。 PI3K/PDK1 経路はインスリンや IGF-1 受容体シグナルの下流でタンパク合成シグナルを媒介することから、これらのホルモンによる筋量増加に関与すると推定されてきたが、今回、我々は、この経路が運動負荷による筋肥大においても必須であることを示した。また、β2AR 作動薬は運動パフォーマンス向上を目標としたドーピング剤としてアスリートへの使用が制限されてきた薬剤であり、薬理学的には筋量増加作用を持つことは知られていたが、今回の検討で S6K 依存性のタンパク合成シグナルを活性化することが明らかとなった。また、骨格筋特異的 β2AR 欠損マウスの成績によって β2AR シグナルが運動による筋量増加の生理的制御因子であることが明らかとなった。

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