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大学・研究所にある論文を検索できる 「Variation in core body temperature indicates fitness in ruminants, and is related to the potential for reproduction」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Variation in core body temperature indicates fitness in ruminants, and is related to the potential for reproduction

北川, 悠梨 名古屋大学

2022.05.20

概要

世界の食料安全保障を実現するために、持続可能な農業を展開することが求められている。動物性タンパク質は、世界のタンパク質摂取量の3分の1、カロリー摂取量の17 %を占めており、畜産業の効率化が図られれば、世界の食料安全保障の実現に貢献できる。しかし、気候変動や集約化された畜産形態の増加により、畜産業を取り巻く状況は悪化することが予測されている。これらの問題を解決するための新しいアプローチとして、家畜の環境変化やストレスに対する適応能力を強化することが考えられる。そのためには、家畜の適応状態を適切に理解することが必要不可欠であり、家畜の状態を包括的に評価する生体指標が求められている。ヒツジやヤギなどの小型の反芻動物は、人類の栄養の供給源として重要な役割を果たしており、また大型反芻家畜であるウシの実験モデルとしても有用である。反芻家畜由来の食肉は世界の食肉消費量の25 %を占めており、反芻家畜の環境ストレスに対する生理反応、またそれらの生理反応が繁殖機能におよぼす影響について理解することは、持続可能な家畜の生産の実現において重要である。

本研究の目的は、小型反芻家畜において、深部体温の変動が環境適応及び繁殖能力の新たな生体指標となるという仮説を検証することである。本研究では、体温変動の概日リズム( circadian rhythm of core body temperature, CRT )と心理ストレスによる体温上昇( stress-induced hyperthermia , SIH )に着目し、家畜の生産性に影響をおよぼす諸要因による深部体温の変動、また体温の変動と繁殖機能との関連について検討した。

畜産現場において、家畜の気質は個体のストレス耐性、またそれに起因する肉質や産仔数といった生産能力に影響することから、重要な育種目標である。第2章では、家畜の気質と心理ストレスに対する体温変化の関係について理解を深めるために、気質と関係のある遺伝子型や表現型が心理的ストレス要因に対する体温変化におよぼす影響を検討した。本研究では、気質の違いに影響を及ぼす遺伝子変異が報告されてい

るヒツジを用いて、心理的ストレスの生体指標としてのCRTおよびSIHの妥当性を検討するため、異なる遺伝子型、および表現型を持つヒツジの群において、心理的ストレスを負荷する行動試験と牧羊犬への暴露によって誘起される深部体温の変動を比較した。まず、セロトニン合成律速酵素であるトリプトファン5ヒドロキシラーゼ2遺伝子(TPH2)の遺伝子多型にもとづいてヒツジを選抜した。この遺伝子多型は隔離箱テスト( isolation box test , IBT)に対するヒツジの反応に有意に作用することが報告されており、異なるTP H2 遺伝子型を持つヒツジの群を、それぞれ穏やかな気質と関連する「遺伝子型AA 群」と、神経質な気質と関連する「遺伝子型GG 群」とした。さらに、I BTスコアにもとづく表現型により、「I BT低反応群」と「I BT 高反応群」の2 群に分け、これらの4 群を用いて体温の変動を解析した。遺伝子型に基づいて選抜したヒツジの間ではSI Hに差が見られなかったのに対し、表現型により選抜した群では、牧羊犬への暴露時に誘起されたSI Hは、I BT 高反応群においてI BT低反応群より大きかった。加えて、すべての群において、牧羊犬による誘導により移動するとSI Hが誘起された一方、牧羊犬による誘導がない状態で同じ距離を移動したときはSI Hが観察されなかった。また、牧羊犬による誘導がない状態で移動した際、活動量は行動テストを行なった際と比較して増加したが、SI Hは行動テストより抑えられた。さらに、すべての群において、牧羊犬への暴露のあと数日間継続してCRTの振幅の増加が観察された。これらの結果は、SI Hを指標としてストレッサーの強度と個体の反応性を判別できること、強い心理的ストレスによりCR Tの振幅が増加することを示している。以上より、深部体温の変動は、気質および心理的ストレスの生体指標となることが示唆された。

第3章では、ヤギにおいて、畜産現場において起こりうる、外気温の変化、エネルギー摂取量の制限、スタンチョンによる繫留といったストレッサーに対する深部体温の変化を調査した。本実験は、性周期に伴って変化する性ステロイドホルモンの深部体温への影響を除外するために、卵巣を除去したメスシバヤギを用いて行なった。実験は、日本の夏至と冬至の間の夏季と秋季に行った。CRTの振幅は、夏季は気温と正の相関を示した一方、秋季は気温との有意な相関は見られなかった。これらの結果より、ヤギの恒常性は、寒冷ストレスには影響を受けづらい一方、暑熱ストレスには強く影響を受けること、CRTの振幅はヤギが暑熱によって受けるストレスの生体指標となりうることが示唆された。さらに、エネルギー摂取量と繫留による行動制限はCRTの振幅に影響をおよぼさなかった。CRTの最大値、最小値、最低値は、非繫留群においてエネルギー摂取量の減少により低下した一方、繫留群ではエネルギー摂取量による変化はなかった。エネルギー摂取量が制限された際に起きた低体温は、エネルギー消費を抑え、生存確率を高める適応反応であると考えられた。これらの結果は、タイストールやスタンチョンといった繫留型の飼養管理システムでは、低エネルギー状態において過剰なエネルギー消費を誘発する可能性があることを示唆している。以上の結果より、深部体温の変動が畜産現場において、家畜のストレス状態の生体指標として利用できることが示唆された。

第 4 章では、CRTの特徴と、視床下部-下垂体-性腺軸( HP G 軸)の活動の指標として黄体形成ホルモン( L H )分泌との関係を調査した。哺乳類の繁殖機能は、 HP G 軸によって制御されており、L Hのパルス状分泌は卵巣における卵胞発育に必要不可欠である。本実験では、5日間連続して深部体温を測定してCRTを解析した後、頻回採血により同定したパルス状 L H分泌の指標(平均L H濃度、平均ベースラインL H濃度、L Hパルス頻度、L Hパルス振幅、L Hパルス間隔)との相関解析を行った。その結果、CR Tの振幅と平均L H濃度、平均ベースラインL H濃度の間に負の相関が示された。この結果より、CRTの振幅が哺乳類の繁殖機能を駆動するパルス状 L H分泌の指標とできることが示唆された。

第 5 章では、アミリン-カルシトニン受容体シグナリング経路による性腺刺激ホルモン放出ホルモン( G n R H)パルスジェネレーター活動制御の可能性を検討した。G n R Hのパルス状分泌はパルス状 L H分泌を上位で制御する。また、カルシトニン受容体のアゴニストであるアミリンは、エネルギー状態や体温の調節に関わる内因性のペプチドホルモンであることが知られている。卵巣除去したヤギにおいて多ニューロン発火活動( M UA)記録法を用いて、アミリンの側脳室内投与がG n R Hパルスジェネレーターの活動におよぼす影響を検討した。G n R Hパルスジェネレーターの活動は、アミリンの投与により投与直後に促進され、その後抑制されることが明らかとなった。I n s i tu h yb r i diz at ion法を用いた組織学的解析により、ヤギの側脳室周囲の広範囲にカルシトニン受容体遺伝子( CALCR )の発現が確認された。一方、G n R Hパルスジェネレーターの本体であると考えられているキスペプチンニューロンのうち、CALCR 発現細胞数は1 %に満たなかった。以上の結果より、ヤギにおいて、アミリン-カルシトニン受容体シグナリング経路は、キスペプチンニューロンに直接的な作用だけではなく、側脳室周囲に分布する神経細胞に作用し、G n R Hパルスジェネレーターの活動調節に二相性に作用する可能性が示された。アミリン-カルシトニン受容体シグナリング経路は、エネルギーの恒常性と体温、HP G 軸を関連づける神経回路であることが示唆された。

以上本研究により、家畜の環境への適応状態や健康状態の生体指標として深部体温の変動を利用するという概念を支持する新たな知見が得られた。深部体温の変動は、家畜の適応状態、および動物が環境から受けるストレスへの適応能力を反映すると考えられる。また、アミリン-カルシトニン受容体シグナリング経路は、G n R Hパルスジェネレーターの活動を調節する上位経路であることが示された。この経路は深部体温の変動と、エネルギー恒常性の調節にも関与することから、体温変動と繁殖機能を関連づける神経回路である可能性が考えられた。本研究の成果は、家畜の適応状態を包括的に理解するための、簡便で新しい技術の開発に応用が可能である。今後、反芻家畜の環境ストレスに対する適応状態と、生理反応としての体温変動に関するさらなる知見の集積と体温のモニタリング技術の向上により、家畜の環境への適応状態を理解するための新たな生体指標として深部体温の変動が活用され、持続可能な家畜の生産に貢献することが期待できる。

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