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新奇生物資源から単離された生物活性天然物の合成化学的研究

齋藤 克哉 東北大学

2022.03.25

概要

天然物化学は生物が生産する有機化合物(天然物)の分離、構造決定、化学合成、生合成及び生理作用を研究する幅広い学問領域であり、これまで人類の健康の 向上と維持に多大なる貢献をしてきた。天然物は人間の生活と関わりが深く、古 代から香料、染料、薬として利用されてきた。特に薬に着目すると、歴史的に人 類は薬理作用のある植物などを生薬として摂取し、疾病の治癒を行ってきたが、 19 世紀には Sertürner がケシから morphine を単離し、経験的に用いられてき たケシの鎮痛成分を明らかにした。そして 20 世紀に入ると強力な生物活性を有 する微生物資源由来天然物が次々に単離され、抗生物質の概念が提唱されるに 至った。代表的なものでは Fleming によるbenzylpenicillin の発見やWaksman による streptomycin の発見がある。Benzylpenicillin は第二次世界大戦中に抗 菌剤として幅広く用いられ、streptomycin は結核菌に対する有効物質として見 出された。両者ともにノーベル生理学・医学賞を受賞していることからも、これ らの発見がいかに社会的・学術的なインパクトがあったのかがわかる(Figure 1)。

そして、現代においても天然物が薬剤開発に果たす役割は大きい。Newmanらの報告によると、1981 年から 2019 年の間に認可された新規薬剤のうち、天然物と天然物誘導体の割合が 23%に及び、天然物模倣合成薬剤の割合も加味して考えると約半分が天然物と関連していると報告している(Newman, D. J.; Cragg, G. M. J. Nat. Prod. 2020, 83, 770.)。しかしその一方で次のような課題も指摘されている。一つ目は、長きにわたる探索研究により微生物や植物などの従来の生物資源からは新奇骨格を有する化合物のさらなる発見が困難になりつつあることである。そして二点目は、分析技術や精製技術の進展により海洋生物や難培養性生物といった新奇生物資源由来の新奇化合物の単離も報告されるようになった一方で、それらの化合物の量的供給は困難であることが多く生物活性試験が停滞している点である(江口 正, 2015 年日本化学会第 95 春季年会シンポジウム,「天然物化学研究の最前線:生合成とケミカルバイオロジーの新展開」の報告書より「生合成研究のこれまでとこれから」)。

このような課題がある中で、合成化学的アプローチが天然物由来の創薬に貢献した例が存在する。新奇の生物資源由来の化合物が薬剤として上市された一例として、ecteinascine 743 がある。本化合物は 1992 年に Rinehart らによってカリブ海原産のホヤ Ecteinascidia turbinate より単離・構造決定された化合物でありマウス白血病細胞(L1210 leukemia cell)に対し IC50 = 0.5 ng/ml という驚異的な生物活性を示す。その一方で単離量は(1×10-4)%と極微量であるのが課題であった( K. L. Rinehart, et al. J. Org. Chem. 1990, 55, 4512.)。これに対し合成化学的研究が盛んになされ、現在では軟部肉腫の治療薬として上市されている。本化合物の供給は微生物から発酵法にて得られる safracin B から半合成されることによって達成された。この他にも、海綿(Halichondria okadai Kadota)より単離された、顕著な抗がん活性を有する halichondrolin B がある。本化合物の全合成が達成された後、化学構造が簡略化された eribulin も halichondrolin B に匹敵する抗がん活性を有することが見出され、eriblin のメシル塩酸塩が Halaven®として上市されている(Figure 2)。

これらの例から天然物化学において有機合成の果たす役割は、次の二点であると言える。一つ目は天然物のもたらす人智を超えた化学構造の構築法を見出すこと。二つ目は生物資源からは微量しか得られない天然物を合成し、量的供給を行うことで詳細な生物活性試験を指向することである。

このような背景から、本博士論文では、新奇生物資源由来のユニークな骨格を有する生物活性天然物に着眼し、合成化学的アプローチで研究を行うことによって天然物化学のさらなる発展に貢献することを目指した(Figure 3)。第一章では新種の好熱性細菌から単離された前例のない対称ビスエノールエーテル構造を有する化合物の化学構造解明と全合成研究を行った。そして第二章では南極のホヤから単離された rossinone 類の合成化学的研究を行った。

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参考文献

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